episode.134 終わらない
「アンタたち! 馬鹿な言葉に踊らせラレルんじゃないわよ! 従いなさい! アタチの勝利のために動きなさい!」
ヨクは威圧するように言うけれど、その行い自体がアオの言葉に根拠を与えてしまっている。
手下とはいえ彼女らのことを考えているのなら一方的に従えとか動けとかは言えないだろう。青髪女性らにも一つの生命があると捉えているのなら、もう少しは選択肢を与えるはず。けれどもヨクはそれをしない。ということはつまり、そういうこと。青髪女性らに選択する権利などない、という理解だということだ。
「皆さん、無益な戦いをすべきではありません! どうか、理解してください!」
アオは叫ぶ。
すると多くいる青髪女性たちの中の一人が膝をついて座った。
「……戦いを、やめます」
膝をついて座った青髪女性は俯いて静かにそう言った。
そこへ飛んでくるのは、ヨクの怒りの声。彼は躊躇なく「何を勝手なコトヲ言っているの! 許されないわよ! そんなこと!」とか「役立たず! いい加減にしナサイよ!」とか叫んでいた。青髪女性が自由な選択をすることがよほど気に入らなかったようだ。
だが、私たちにっとては、彼が騒いでくれる方が都合が良かった。
「戦闘を、拒否します」
「これ以上の戦いを望みません」
「死だけの未来を希望しません」
徐々に離脱を希望する青髪女性が増えてきた。
この感じであれば、少しは敵が減るかもしれない。そうなればこちらとしてもありがたい。敵が減れば数だけでもこちらの方が有利になるだろうし。
「ぐッ……や、役立たずがッ……、アタチに逆らうナンテ許せない! 全員まとめて潰してあげるわ!!」
ヨクは巨大な手を二つ出現させ、それらで青髪女性らを潰そうとする。
が、盾のプリンスが大きな盾を出現させて防いだ。
巨大な手は大きく勢いもあり威力はあるだろう。けれども防御を専門としている盾のプリンスと対峙すれば、そう簡単に対峙することはできない。硬く大きな盾の前では巨大な手もそれほどの驚異ではないのだ。
「あらあら、やるわねー」
その様子を見ていた森のプリンセスはふふと柔らかな笑みを口もとに浮かべ、それから、片手を滑らかに動かして掲げた。
「わたしも応援しなくちゃねー」
掲げた手から発生する数本の蔓が二つの巨大な手に絡み付く。
「かっこいいところを見せたいわー」
森のプリンセスがウインクした瞬間、蔓に絡み付かれていた二つの巨大な手はぶちぶちと音を立てて潰された。飛び散った残骸は地面に落ちるや否や灰のようになり、気づけばふわりと消滅していた。それらが存在していたという跡は何も残されていなかった。
「きいぃぃぃぃぃぃ!!」
ヨクは悔しがるような声をこぼしてから、口を豪快に開け、そこから太い光線を吐き出す。
だが無駄だ。
盾のプリンスが防ぐだけである。
だがちょうどそのタイミングで他のプリンセスプリンスらも合流してきた。一応時のプリンスもいる、ウィリーに支えてもらい気を遣ってもらいといった感じではあるが。
「これで全員揃ったわね!」
全員がクイーンズキャッスルに揃ったことに気づいた剣のプリンセスは晴れやかな声を発した。
「なによなによなによなによなによ!! 調子に乗って!! 揃った、それが何ダッテいうのよ!? 弱いやつが集まったってアタチに勝てるわけないジャナイの!!」
ヨクは完全に冷静さを欠いていた。
いや、冷静さ、なんて、そんなものは投げ捨てていた。
「アタチの邪魔をする輩は死になさい!!」
口からのみならず、目からも光線が放たれる。
私は手鏡を使ってその光線を退けた。
でも、今はもう、それほど大きな不安はない。
敵はヨクだけと言っても間違いではない状況で、味方は揃っている――ならば何を恐れるというのか。
「あたし、行ってくる!」
剣のプリンセスは相棒である剣を手に上空のヨクの顔へ迫り、斬撃を叩き込んだ。
暴れるヨクの顔。
「っ、ああああ! 生意気な輩! 許さない! 最後は、最後は……絶対に、アタチが勝者とな――」
言い終わるより先に、森のプリンセスの植物の槍がヨクの顔の眉間に突き刺さった。
「あ」
眉間を太いものに貫かれたヨクは短い声を漏らしてから一気に萎んだ。
「うるさい人は嫌いよー」
そう述べる森のプリンセスの表情は冷ややかとしか言い様のないものであった。
これでヨクを倒せたのか? と内心首を傾げていると、上空には黒いもやだけが残って。浮いていたヨクの顔は消滅したものの、黒いものだけは消えておらず。それはまるで、まだ終わっていない、と言っているかのようで。
「ほええ……これはどうなって……」
「知らねーよ分かんねーよ」
愛のプリンセスと海のプリンスは上空を見つめたまま言葉を交わす。
その次の瞬間、足下にひやりとした感触があって。気づくと地面から生えてきた手に足首を掴まれていた。気づいて足を振ってもその手はなかなか離れてくれず。むしろ掴み方が強まるくらいで。
「離してください!」
たまらず叫ぶも。
『離さないわ』
脳に直接響いてくる声に冷たく返されて。
『決着をつけるなら二人で。そうでなくちゃ、アタチ、納得できないわ』
「え……」
一人称で声の主が誰なのかは察した。
『連れてイッテあげる、二人きりになれる場所へ。そして――アナタが終わるその場所へ』
それから数秒で全身が黒いもやに包まれて。
「フレイヤちゃん!?」
「フレレっ!?」
周囲が気づいたその時には。
「クイーン!」
「フレイヤちゃんさん!」
私の身体は飛び上がっていた。




