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プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜  作者: 四季
4章 決戦、そして……
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episode.135 最期の一行

 ヨクに招かれ上空へ連れていかれた私は、気づけば、宇宙のような黒い世界の中に浮かぶ銀色の盤の上にいた。


 上半身をゆっくり持ち上げる。周囲を見渡してみるが誰もいない。目に映るのは宇宙と黒だけ、その他にはここには何もない。ここにあるのは、孤独、だけ。永遠の孤独、そんな言葉が似合うような場所だ、ここは。

 自分の胸もとを見ればコンパクトはあった。また、手もとには手鏡も。これらのアイテムは奪われてはいないようだ。


 でも……プリンセスらには会えない。


 寂しさを感じていたちょうどその時、目の前に黒いもやが湧く。そのもやは揺れるように数秒動いたその後に人の形へと変化し。気づけばヨクの姿になっていた。大きな風船のような顔のヨクではなく、前に会った人間のような容姿の方のヨクである。


「どうして……こんなところに……」

『なぜか? 簡単なコトよ。アナタを倒して勝利を収めるの』


 出現したヨクはこちらに向かってゆっくり歩いてくる。


「困ります! やめてください」

『何よ今さら。一人にナッタラ急に弱気になるのね』


 そう言って、彼は私の正面すぐそこにしゃがみ込んだ。


『戦いを望まないのならもっと早くに降伏すれば良かったのよ。そうすればこんなコトにはならなかった、そうでしょう? ここまで戦い続けたコト、それが間違いなのよ』

「なぜ平和的解決を選ばないのですか」

『馬鹿ね。無理なのよ、そんなこと。平和的、だなんて……そんなものは所詮幻想よ』


 彼はその意外と男性的な指一本をこちらへ伸ばす。

 そしてその指先で私の眉間に触れた。

 すると驚いたことに脳内に直接映像が送り込まれてくる。


 それは、恐らく、先代の映像だったのだと思う。私は彼ら彼女らのことは知らず記憶も一切ない、けれど、何となく察することはできる。


 怒った様子のプリンスらに詰め寄られる先代クイーンと思われる金髪女性。彼女を庇おうと間に入る盾のプリンセスと思われる盾のプリンスによく似た女性。彼ら彼女らを包む空気はどこまでも黒く冷ややか攻撃的なもの。険悪そのものだ。


『本来共に戦うべきであるプリンセス・プリンスでさえ、いつの代もこんなものなのよ。仲間割れシテ、しまいには互いを攻撃シテ、仲間を破滅に追い込もうとする……。もちろん平和的解決なんて目指そうトハしない……』


 ヨクは濃い化粧を施した顔を近づけてくる。


『分かる? 仲間内だけでもコレなのよ。それを知れば分かるでしょう? 平和的解決なんて無理なことで、結局最後は意思をぶつけ合いどちらか勝った方が己の道を行くしかないのだと』


 ……そうだろうか?

 ……本当にそれしかないのだろうか?


 確かに、先代プリンセス・プリンスはそうだったかもしれない。けれどもそれはそこだけの話で。少なくとも今のプリンセス・プリンスは仲間割れしてはいないし、仲良しこよしというわけではなくても皆互いに協力し合うことができている。味方を責めるようなことはしないし、味方を傷つけることもしない。


「私は……私はそうは思いません。確かに先代プリンセス・プリンスは仲間割れしていたかもしれませんが、それがこの世のすべてに言えることではないと思います」

『はぁ? どこまでも愚かね。どうしてそこまで愚かでいられるのかしら?不思議だわ』

「そうです、私は愚かなのです。でも、だからこそ、愚かなほど美しい夢をみることができます」


 両手を伸ばし、ヨクの両頬へ触れる。


「もうやめましょう。こんなこと。戦いはここまでにしましょう」


 愚かと言われても構わない。

 平穏が訪れるのなら。


 ……けれど、ヨクは私の手を払った。


『ふざけないで! 馬鹿なことを言って! 腹が立つ! クイーンなら戦いなさい!』

「え、え……?」

『アナタが自分を正しいと言うのなら、アタチを倒しなさいよ!!』


 言葉は届かなかった。

 平和的な結末を迎えることもできなかった。


 結局、彼を納得させるには戦うしかないのか。戦って彼を倒す、それでしか決着をつけられないのか。


「……分かりました」


 私は立つ。


「ならば、お相手します」


 もはや逃れることはできない。

 ならば戦うしかない。


『イイわね!!』


 今こそ、クイーンズキャッスルで鍛えてきた成果を見せる時。


 いや、正直あまり勝てる気はしないのだけれど……でも、それでも、ここで戦わなくては仕留められるだけ。


 今や平和的に争いを終えるという夢は絶たれた。


『遠慮なくいくわよ!!』

「どうぞ」


 これが終われば、ヨクを倒せば、すべてが終わる。

 その先のことは分からないけれど。

 それでもきっと皆のところへ戻ることくらいはできるだろう。


 だから戦う、皆にまた会いたいから。



 既に何度も破れているヨクは、全力を出しても以前の全力というほどの強さではなかった。その体術は威力のあるものではあったが、クイーンの力があれば私にでもある程度対処できる程度のもので。ヨクに残された力も僅かなのではないかな、と思ったほどであった。そういう事情もあって、私でもそこそこ戦えた。もちろんこちらにもダメージはあったけれども。接近戦には防御膜と突き飛ばしで、遠距離からの攻撃には手鏡の鏡面を向けることで、対応はできた。



 そして、やがて、最期の瞬間にたどり着く。


「これでおしまいです!!」


 最大限の溜めを作って、放つ、突き飛ばし。

 ヨクの身体は後方へ吹っ飛んだ。

 女性らしい身形に似合わない大きめの身体はぐしゃりと音を立てて落ちる。


「これで、納得していただけますか」

『……ふ。そう、ね……』


 ヨクは仰向けに倒れているが、その表情はどこかすっきりしたようなものだった。


『平和的解決なんて無理、分かったでしょう……』

「……そうですね」

『そうよ。結局……戦って、どちらか勝った方が……己の道を行くしかないの』

「残念です」

『驚いた……でも……アナタはアタチに勝った、なら……勝者として己の信ずる道を、行けばいい……』


 ふぅ、と息を吐き出して、ヨクは目を閉じる。

 それから数秒が経ち、彼の身体は徐々に灰のようになりゆく。


「次また出会う時があれば……その時は……戦わない関係でいられることを望みます」


 ヨクは消えてゆく。

 私はただ、黙ってそれを見つめているだけだった。

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