episode.133 降り注ぐのは?
盾のプリンス、彼は来てくれた。
助けなんて来ないかもしれないと思ったけれどそんなことはなかった。
「そ、そんなッ! ありえないわ! ここへ入っテクルことができるはずがないッ!! アタチのシールドを破ることなんてできるわけが……!!」
ヨクは動揺しているようだ。
盾のプリンスがここへ来たことがそれほど想定外だったのだろうか。
「簡易シールドを破ることくらい容易い」
「どっ、どうしてッ……」
「手のひらの力で割るだけだ」
「ッ!? ……な、なんて、なんて野蛮な」
今は巨大な黒となっているヨクだが、声の調子にどこか情けなさを感じる。
「消えなさい……よッ!!」
上空に浮かんだヨクの顔は口を大きく開ける――するとそこから黒ずんだ紫色の光が吐き出された。
太い光線。
しかし前に出た盾のプリンスが鋼鉄の盾を出現させて防ぐ。
「プリンスさん……」
「心配不要。それに、もうじき、他の者も来るだろう」
「は、はい……」
取り敢えず先ほど地面に落としてしまった手鏡を拾っておく。
その様子を見ていた盾のプリンスは盾を出したまま「それは?」と問いを放ってきた。なるべく簡潔に答えようと思い「前にくださったティアラがこれに変化しました」と答える。それを聞いた彼は数秒よく分からないというような表情を浮かべたが、さらに問いを投げてくることはしなかった。ただ、独り言のように「ティアラは手鏡だったのか……?」とだけこぼしていた。
「盾のプリンス……邪魔をスルのはやめなさい……」
「それはできない」
「生意気な男ね!!」
ヨクは口から吐き出す光線の威力を強める。
盾を前面に出している盾のプリンスが押されてじりじり後退させられるほどの威力だ。
「いつまでもつカシラね」
「……いつまでも」
「そんなことを言っていらレルノモ今だけよ!」
ヨクの光線の威力がさらに増す――が、刹那、どこからか大量の水が噴き出して上空にあるヨクの顔に直撃した。
思わぬ攻撃を受けたヨクの顔は、ぶべっ、と短い声をこぼす。
「だっせーな」
どこからともなく現れクイーンズキャッスル内へ入ってきたのは海のプリンス。
それを見て納得する。
ヨクの顔に襲いかかった大量の水は彼の力によるものだったのか、と。
「海のプリンスさん……!」
「あいっかわらずよえーな、クイーンは」
現れた海のプリンスは髪や服装に乱れはあるものの弱っている雰囲気ではなくむしろ元気そうだった。
「ありがとうございます!」
「ったく、しっかりしろよな」
ヨクは口角を大幅に下げる。
「ぐッ……邪魔するンジャないわよ!!」
再び吐き出され放たれる光線。
手鏡の鏡面をかざす。
すると光線は私を避けるように二本に裂けた。
「フレイヤさん、やるわね!」
「素晴らしいわー」
声がして、視線だけで振り向くと、剣と森のプリンセスが立っていた。
剣のプリンセスは戦闘後なのか若干服装が乱れているが、それでも表情は明るく、目つきもしっかりしている。
一方森のプリンセスはというと、負傷らしき負傷は見当たらず、髪も服も綺麗に整ったまま。そして、表情も余裕のある柔らかなもので、平常時とほぼ変わらない様子だ。
「ぶっ潰す!」
「お待たせー。フレイヤちゃん、もう安心よ。わたしたちに任せてー」
一時は一人ぼっちでどうなることかと思いもしたが、段々味方も集まってきて、徐々に状況は変わり始めている。
「ま、また!? アンタたち! しつこいのよ! すぐにたかってきて! 蟻じゃナインだから……続々集まってくるんじゃないわよ!」
声を荒らげるヨク。大きな顔を持つ大きな存在となっていてももはや風格は存在しない。もはやただの悪人である。一種の大物感のようなものはあっという間に消え去った。
「残念だけれどー……まだまだ来るわよ? 集まって。ふふ、フレイヤちゃんの味方が増えるのがそんなに嫌かしらー」
森のプリンセスは手で口もとを隠しながらくすくす笑う。
対するヨクは顔面の筋肉を強張らせ口角を引き下げた。顔を赤くして、怒りにぷるぷる震え始める。その数秒後、「こうなったら!」と叫び、それから少し片側の口角だけを持ち上げる。そして「数でいくわ!」と鋭く発した瞬間、上空から大量の青髪女性が降り注いだ。
アオと同じような容姿の無機質な雰囲気の女性たちが大量に降ってくる。
「ええ!?」
思わずそんな声を発してしまった。
「あらあら、可愛い娘がたくさんねー」
森のプリンセスは片手を頬に添えながら笑みを浮かべている。
「さぁ! その女タチト戦いなさい!!」
大きな声で発するヨク。
しかし。
「戦う必要はありません!」
青髪女性が降り注いだちょうどそのタイミングでアオが現れた。
「皆さん、無益な戦いは避けましょう。ここで我々が戦ったところで誰も幸せにはならないのです」
青い髪をなびかせるアオはまるで一人の戦士であるかのようだ。
周囲の青髪女性らの視線が一斉にアオに集まる。
「貴女たちの主は、我々の命を大切にはしてくれません。主は我々を道具としてしか見ていないのです。基地でもそうだったでしょう、緊急時でさえ手を貸してはくれていなかったではないですか。そのような者に死ぬまで遣えるという行為が貴女たちの幸福に繋がるとはとても思えません。ですから! こちらへついてください! こちらへつけば、人として扱われます。少なくとも、捨て駒にはされません!」
アオは長文を一気に言ってのけた。
すると驚いたことに。
青髪女性たちの動きに迷いが生まれた。
彼女たちはこれまでは私たちのことを敵と認識していたのだろう、だからこそ敵として戦いを仕掛けてくることもあった。が、今は、皆どこか不安そうな顔をしながらも動きを停止している。時に周囲と目を合わせながら、どうしよう、とでも言いたそうにその場に佇んでいる。




