神子たちはそれぞれ願う
気が付くと……、わたしは、いや、わたしたちは円卓を囲んだままだった。
「今のは一体……?」
そう口にしたのは、誰だっただろうか?
でも、それはこの場にいる神子たちの共通の思いだっただろう。
どこかぼんやりとして見えるリアンズを除いて、全ての神子たちがキョロキョロと周囲を見回していたのだから。
先ほど円卓が光ってあの白い世界へ飛ばされた。
だが、この様子だと意識だけだったようだ。
肉体……、この「ラシアレス」の身体はこのまま、ここに残っていたらしい。
その時、本来の「ラシアレス」の意識はあったのだろうか?
「私の……、願いは……」
最初にそう口にしたのは、シルヴィクルだった。
「ここでの記憶を持って戻ること……」
「「「ええっ!? 」」」
そんな彼女の意外な言葉に、マルカンデ、トルシア、キャナリダが驚きの声を上げる。
「憧れのゲームだったのよ、『すくみこ! 』は……。そんな世界に来ることができたのに、夢から覚めるように、全てを忘れる可能性があるなんて嫌でしょう?」
その言葉で、神子たちは皆、同じ顔をしたと思う。
わたしも、そんなことは全然、考えもしなかった。
ここでの記憶を持ったまま、元の世界へ戻ることができると漠然と考えていたのだ。
そして……、それは、アルズヴェールも一緒だったようで……、彼も驚きの顔のまま、わたしを見ていた。
長い夢を見た時、その全てを覚えていることなどできるはずがない。
そんなこと、現実でも知っていたはずなのに……。
「凄いわ~、シルヴィクル。私、もっと自分本位の願いだったわよ」
そう言ったのは、トルシアだった。
「現実世界の私ってさ~、婚活中だったのよ」
「えっ!?」
トルシアの現実的な発言に、シルヴィクルが反応する。
「だから、ゲームや漫画に理解のある旦那を捕まえられますようにって……、神様にお願いしちゃった」
「そ、それは……」
シルヴィクルは絶句した。
確かに何でも願いを言って良い場ではあるけれど……、乙女ゲームのエンディングに現実の恋愛……、いや、婚活を持ってくるなどという発想はわたしにもなかった。
そして……、その願いは本当に叶えられるのだろうか?
もし、叶ったとしても、わたしは知る由もないのだけど……。
「気持ちは分かるわ。私は、現実の子宝を願ったもの。そろそろ欲しかったところだしね。文字通り、神頼みしてみた」
そんな爆弾発言をかましてくれたのは、リアル人妻のキャナリダ。
こちらも、叶ったとしてもわたしには分からない話だ。
「私は……、今回の、私たちのことを記録に残してもらうようにお願いしました。その……、原作通りに」
そう言ったのは、マルカンデだった。
「原作通り?」
シルヴィクルが訝し気な顔をする。
「原作にあったでしょう? 主人公たちが、『救いのみこ』の話を聞く場面。『みこ』たちが、人口衰退に歯止めをかけたから、今の自分たちがある……と。それが、どんな形で残っていたかは詳細な描写もなかったのですが……」
「ああ、あった、あった」
キャナリダが反応する。
「本編に関係なかったのに、よく覚えていたわね、マルカンデ」
「私……、ゲームより、原作の方が好きだったので……」
「ああ、分かる~。なんで、原作をそのまま乙女ゲーム化してくれなかったのかしらね? 原作の方が圧倒的に良い男、揃ってたじゃない。各大陸にかならず一人以上の美形とか。学生時代、薄い本が厚くなったわ~」
「薄い本?」
キャナリダの言葉にマルカンデが不思議そうな顔をした。
これ以上、彼女に突っ込ませてはどんな地雷を踏み抜くか分からない気がする。
「わ、わたしは……、お世話になった皆さんにお別れを言う時間を願いました」
そう言うと、神子たちは動きを止めて、わたしを見た。
「本当に、最後まで真面目だね~、ラシアレスは……」
トルシアが苦笑する。
「もう二度と会えないかもしれないのに、あのままお別れって淋しいじゃないですか」
毎日のように会っていたアルズヴェールと違って、彼女たちとの付き合いはそこまで濃密ではなかった。
それでも……、もう二度と会えないと思うと、何も言わないまま「さようなら」と言うのはやはり淋しい。
「じゃあ、メッセージを残しませんか?」
「「メッセージ?」」
マルカンデの申し出に、わたしとトルシアがオウム返しをした。
「いつか遠い未来に現れる原作主人公に向けて、言葉を残しましょう」
「でも、それって……未来改変にはらないかしら?」
シルヴィクルが難しそうな顔をしてそう言った。
未来改変……、それなら既にわたしがしてしまった気がする。
「どうかしら? 『みこ』たちの記録は大聖堂が管理することになるはずだから……大神官様が見せない限り、未来に生まれるはずの主人公には伝わらないと思うわ」
不思議なことに、この場にいる誰もが、原作主人公は遠い未来に生まれると確信した発言をしている。
でも、アルズヴェールの話では、主人公は風の大陸……、つまり、救いの神子「ラシアレス」の子孫に当たるはずだ。
神との契約を果たせなかった「ラシアレス」。
それでも、「主人公」はちゃんと産まれてくれるのだろうか?
「寄せ書きのようなメッセージは良いと思いますよ」
そう口を開いたのは、ずっと黙っていたアルズヴェールだった。
「そのことで、未来がどうなるかは分かりませんが……、未来に生まれてくる主人公やその仲間たちを信じましょう」
その言葉は妙に力強く、説得力があるものだった。
「あ、アルズヴェールは何を願ったの?」
トルシアが尋ねる。
それはわたしも興味があった。
だけど……、同時にそれを聞くことが怖くもあった。
「私の願いは……、大好きな人ともう一度会うことです」
「「「「ああ」」」」
何故か、わたしとリアンズ以外の神子たちはアルズヴェールの言葉に頷いた。
それも……、わたしを見ながら……。
「アルズヴェールもラシアレスも、互いの性別の問題とかは気にしないの?」
「マルカンデ!?」
マルカンデの切り込んだ質問に、シルヴィクルが反応した。
ああ、これ、彼女たちも察していたのか。
でも、まさか……「アルズヴェール」の中身が男とまでは思われていないらしい。
「私にとって、性別は些細なことですので」
アルズヴェールは動揺することなく、笑顔でそう答えた。
いや、あなたの神経、どうなってるの?
「くうっ!! 女同士ではなく、男同士なら、その言葉に激しく萌えるのに!!」
そっち方面で安定のキャナリダ。
「私、基本、ノーマル推奨だけど、互いに思い合っていればオッケーだからな~」
そう言うのはトルシア。
「周囲に迷惑が掛からなければ良いとは思うけど……、わざわざ茨の道を進むのは凄い勇気よね」
困ったようにシルヴィクルは笑い……。
「あ、あの……、私、巧く言えませんけど、頑張ってください」
最後にマルカンデが言った。
何を頑張れと言うのか?
「最後まで、話に入ろうとしなかったけど、リアンズは何を願ったの?」
「何もしてない人間に、褒美はない」
リアンズは眠そうな視線を向け……、それだけシルヴィクルに答えて円卓に伏した。
「まあ、闇の大陸の人口があまり増えなかったのは……、将来にとっては正解なのかしら?」
「でも……、あの青年が生まれない可能性も……」
シルヴィクルの言葉に、マルカンデが不安そうな顔をする。
よくわからないけど、「闇の大陸」は、あまり発展しない方が原作の主人公には有利になるのかな?
「え~、私、あの不器用な彼とあの黒髪の護衛の関係って、主人公がかすむぐらい、ツボなのに……」
「ブレないわね、キャナリダ」
「主人公の手を取るかどうかで、進むべき道が変わっただけで、根っこは似たようなものだと言うのが、作者の言葉だったものね」
原作の話をされても、わたしには分からないけれど……、アルズヴェールが話に混ざりたそうにしているのだけはよく分かった。
そして、わたしたちは部屋にあった紙と筆記具を探し出し、銘々、思いつくままに未来の主人公に向けてメッセージを描き散らした。
しかし……、内容はともかく、その文字は思いっきり日本語だった。
しかも、ハートマークなどの記号が書かれていたようだけど……、果たして、その未来の主人公とやらにそのメッセージが届くかどうかは謎である。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




