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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第7章】乙女ゲームの向かう先
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神子たちは受け入れる

「エンディング後の『神子』たちねえ……」


 アルズヴェールの疑問に対して、最初に口を開いたのは、シルヴィクルだった。


「『すくみこ! 』のゲーム通りなら、エンディング時に選択肢は与えられるはずよ」

「選択肢とは?」


 ゲーム内容を知らないアルズヴェールは確認する。


 そう言えば、わたしは彼に対してエンディングの話をした記憶がなかった。

 今にして思えば、無意識に「終わり」を避けていた可能性はある。


「えっと確か~、『このままここで生活したい』、『神様と共に生きたい』、『家族の元へ帰りたい』、『もう少し考えたい』の順番で、『はい』、『いいえ』を選ぶの。あ、『もう少し考えたい』を選ぶと、最初の『このままここで生活したい』に戻る形だったはず」

 答えたのは、トルシアだった。


 そして、その内容はわたしの記憶とも一致している。


「私は……『家族の元へ帰りたい』……かなあ……。美形は十分、堪能したからそろそろあの平凡な顔立ちの旦那が恋しい」

 キャナリダはそう言った。


「そうは言っても帰れるかしら? 私、『トルシア』の家族の元に還されても困るわ。『トルシア』の家族って、私にとっては他人だもの」

 意外にもトルシアはそう言った。


 それは、最初にわたしも考えたことだ。

 その選択肢を選べば、「ラシアレス」は家族の元へ戻されるだろう。


 でも、私の心が入ったままだったら?


「そんなに迷わなくても、私たちが、元の世界を願えば良いだけでしょう?」

 キャナリダは不思議そうにそう返す。


「「え? 」」

 その言葉に反応したのはトルシアとシルヴィクルだった。


「ゲームと違って、ちゃんと自分の言葉を告げられるのよ? だから、私は『元の身体に還して』って頼むつもりだけど」

 その発想はなかった。


 確かにこの世界はゲームに似ているけど、実際は違う。


 わたしたちは選択肢から選ぶのではなくて、自分の意思で願いを告げられるのだ。


「た、確かに最初にそう言っていたわね。『褒賞として、どんな願いでも一つだけ叶えよう』って」

 シルヴィクルも思い出したように呟く。


 確かに、案内人であるディアグツォープ様は創造神の御言葉として、そんなことを言っていた。


 つまり……、それは、元の世界に戻ると願っても良いってこと?


 わたしが、そう考えて、アルズヴェールに目を向けると……、彼と目が合った。

 だが、何故か目を逸らされる。


「ああ、でもそうなると……、この面子で顔を合わせるのも、これが最後ってことになるのか」


 そんなトルシアの言葉で……、わたしはゾッとした。


 これが最後……?


 もう一度、アルズヴェールに目を向けると……、彼も、同じようにこちらを見ていた。


 ああ、今、わたしは彼と同じ顔をしているかもしれない。

 どこか淋しそうな……、何かを諦めきれないようなそんな複雑な顔を……。


 不意に、扉が叩かれる。


 入ってきたのは、最後の1人……、マルカンデだった。

 見るからに憔悴していて、顔色が悪い。


「ま、マルカンデ……?」


 躊躇いがちに声をかけたのは、近くにいたキャナリダだった。


 でも、その声に応えずに……、マルカンデは無言で指定の席に座る。

 そして……。


「もう……、エンディングですよね?」


 そう言いながら、円卓に鋭い瞳を向けた。


 その鬼気迫る迫力に……、思わず、ゴクリと何かを飲み込む。


「わ、分からないよ」


 キャナリダはどもりながらも気丈に返答した。


「分からない?」

「私たちだって、なんで、呼び出されたのか知らないんだもん」


 キャナリダの台詞に、トルシアもシルヴィクルも頷いた。


「そう……」


 そんな一言を呟いて……、マルカンデはそのまま円卓に伏す。


「何か……、あったのですか?」


 アルズヴェールが静かに口を開いた。


「ありました」


 マルカンデは小さな声を零す。


「私……、この世界に来ることができて、本当に嬉しかったのです。だって、あの汚くて、嫌な世界から逃げられたのですから。でも……、この世界も、私には優しくなかった。いいえ、もっと酷かった」


 その言葉は……、大きくはない声なのに、静かな部屋に響いてく。


「ゲームの世界は綺麗な恋愛しか教えてくれなかった。でも……、私たちプレイヤーが知らなかっただけで、『みこ』は……、あんなに痛くて酷い目に遭っていたのですね」


 誰かが……、息を呑む声がした。


「リオス様は、アレが『神子』の務めだと言われました。穢れなき『神子』がここに呼び出された本当の理由だと。神と交わり、孕んで、子を()せと。そうすれば……、世界は救われる。人類の未来の存続が約束されると……」

 その声はいつしか震えていた。


「そんなことを言われたら、拒めるわけがないじゃないですか!!」

 それは血を吐くような叫び。


 あの時のわたしの迷いと……、本来ならわたしにも起こったはずの未来の。


 だけど……、気付く。

 円卓の下で……、アルズヴェールがわたしの手を握ってくれたのだ。

 

 そして、こんな状況でも、彼は真っすぐ前を向いて口を開こうとする。


「拒む権利はあったよ」


 だが、アルズヴェールよりも先に意外な人物が言葉を発した。


「「「「「「え!? 」」」」」」


 聞き返したのはわたしを含めた6人の声。


「神は選択を迫ったはずだ。受け入れるか。拒むか。だから、私は受け入れなかった」

 銀色の髪の「神子」は静かに続ける。


「受け入れたのは、貴女自身じゃないの? マルカンデ」

 その声は静かではあるが、低く鋭かった。


「受け入れないって……、そんなことが……」

「確かに受け入れた『神子』は人類を護るためと思っただろうね。でも……、そんな確約はされていない。それに、『神子』たちが受け入れた結果を……、その未来を、『神子(あなた)』たちはある程度、知っているでしょう?」


 その言葉で……、周囲の神子たちも息を呑んだ。


「リアンズは受け入れなかったって言うけど……」


 トルシアはその真意を確認しようとする。


「私が……、受け入れた方が良いと思う? 私の担当は、()()闇の大陸だよ?」

「「「………あ~」」」


 リアンズの言葉に対して、トルシア、マルカンデ、シルヴィクルが何故か同時に同じような反応をした。


 どうやら……、原作の話ってこと?


「や、闇の大陸って……、後のあの場所のことよね?」

「そうそう! あの場所。主人公たちが酷い目にあって……」

「しかも……、その原因が……」


 やはり、原作のことらしい。


 原作読者たちが、それぞれ楽しそうに話し合っている。


 時折、楽しそうな悲鳴があがったり、大袈裟な反応があったりしてまるで……、学生時代のノリだった。


 そして、なんとなく、横を見ると……、火の神子「アルズヴェール」が、話に混ざりたそうにしている。


 そうだよね。

 ここは同好の士が集まるところだ。


 そして、趣味の仲間が集まって語れる場所って貴重で、稀少で、とても大切な時間だからね。


 ……こうなれば……、わたしも、原作を読むべきか?


「じゃあ……、受け入れなくても良かったの?」


 マルカンデが呆然としている。


「それを決めるのは貴女でしょう? マルカンデ。貴女の担当は『地の大陸』。そこに来るべき未来はどうだった?」

「地……、法力国家……の未来……」

 そう言って……、マルカンデは自分のお腹を撫でる。


「もしかしたら……、ここに……、あの御方が……?」


 へ?

 あの「御方」……?


「そうね……。貴女が好きだった人が……、婚約者よりも身内を溺愛する人ならば……、気の遠くなるほどの未来に現れることもあるんじゃないの?」


「きゃああああああああああっ!!」


 リアンズの言葉に、マルカンデは何故か絶叫した。


「ど、どうしたの!?」

 その叫びに思わず、わたしは声をかけてしまった。


「だ、だって……、……様が……この中に……」

「へ?」

 マルカンデの言葉は、多分……人の名前なのだと思うけど、よく聞き取れなかった。


 でも、先ほどまで蒼い顔をしていたのに、今度は顔を真っ赤にしている。

 しかも、ちょっと嬉しそう。


 何故!?


「言われてみれば……、この子は、未来の情報国家の国王陛下!?」

「空ってことは……、機械国家か~。極端なイメージしかない。良いな~、情報国家。あの面倒な美形たちの巣窟」

「私なんて、子沢山国家よ? シルヴィクルさん、あんな良い男たちを独り占めなんてズルすぎる!!」

 シルヴィクルとキャナリダ、トルシアも今度はそんなことで騒ぎ出した。


「え……と……?」

 わたしは……、アルズヴェールを見る。


 彼は、困ったような顔をしながら、近づけて……。

「オレは、理想の女より、ハルナを選んだからな」

 わたしの耳元でそう囁いた。


 つまりは……、これも、原作の話らしい。


 先ほどよりは、明るく、楽しいというよりも、激しい話へ盛り上がったことは分かったけど……、わたしだけは入れない。


 原作(みらい)を知った上で、その道を選んだリアンズとは違うのだ。


 だけど……。


「風の神子は……、この先、型に嵌らない子を産む」

「え?」

 リアンズの言葉にわたしは振り返ったが、彼女は既に背を見せていた。


「リア……」

 わたしが声をかけようとしたが……。


『お待たせいたしました』


 そんな言葉と同時に円卓が光り出し……、全ては白い世界に飲み込まれてしまったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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