神子たちは再び集う
皆既日食でもないのに半日近く、「太陽」が輝く温かな光ごとその力を失い、世界が闇に閉ざされる「闇陽の日」。
その日に、「神」と交わった「人間」は、多くの子宝に恵まれるという言い伝えがこの世界にはあった。
―――― だが、その真偽を確認する術はない。
****
あの悪夢のような日から4日ほどたった後。
わたしたち「神子」は、定期報告会でもない日に「手紙」で呼び出され、円卓の間に集まることになったのだが……。
「アイルは……、何の話か分かる?」
月に一度、通い慣れた「円卓の間」に向かう時でも迷子になる「ラシアレス」は、先導してくれている世話係に声をかけた。
アイルは振り返り、黙って首を振る。
彼女も……、これから何があるかは聞かされていないのだろうか?
あの「闇陽の日」以来、アイルはわたしに口を利かなくなった。
最後に彼女の口から出た言葉は……、「申し訳ございません」。
それが何に対しての謝罪だったのか……、聞いても答えてくれないから分からないままだった。
神子としての責務を果たさなかったわたしに呆れているのだろうか?
そのことで、もしかしたら他の人間や神たちから何か言われているのだろうか?
そんなことばかりが頭を巡る。
アイルが足を止め、扉を叩く。
そして……。
「『風の神子』ラシアレス様をお連れしました」
数日ぶりに聞いたアイルの声は、どこか震えていた。
そして、わたしには聞こえなかったけれど、応答があったのだろう。
アイルは一礼して、手で中に入れと指示してくれた。
「いつもありがとう、アイル」
わたしはお礼を言う。
するとアイルは……、一瞬、何故か身体を強張らせた後……、さらに深々とお辞儀をしてくれた。
****
開かれた扉の中には、既に3人の「神子」が待っていた。
光の神子「シルヴィクル」と、地の神子「トルシア」、そして……、闇の神子「リアンズ」だ。
正直、ここに「リアンズ」がいることが意外だと思ってしまった。
彼女とは最初の顔合わせ以外で会うことがなかったから。
「お待たせして、申し訳ありません」
そう言って一礼する。
時間より早くはあったけれど、それでも、先に来た人間がいる以上、そう言うのが礼儀だろう。
「大丈夫だよ~、相変わらず『ラシアレス』は真面目だね~」
そんな呑気な言葉をかけてくれたのはトルシア。
以前、会った時は、もっと猪突猛進なイメージだったのに、随分、落ち着いて見える。
「まだ時間より早いわ。私たちが早く来すぎただけよ」
そう言ったのは、シルヴィクル。
以前、会った時は人をどこか小馬鹿にして、かなりきつそうな印象だったのに、その棘が抜けたような気がした。
「まだ四番目」
そんな素っ気ない言葉を言ったのは、リアンズ。
彼女なりに気にするなと言ってくれたのだろうか。
3人とも、最初に会った時と随分、印象が違う気がする。
それだけ、5年と言う年月はそれだけ短くなかったと言うことか。
それに、リアンズ以外の2人とも、結構、長いこと会っていなかった。
それだけあれば人は変わるには十分な時間だったのかもしれない。
わたしはシルヴィクルの左横に座る。
橙色の石が付いている椅子は、わたしの席だった。
右横には赤い石が付いている椅子。
彼はまだ来ていないようだ。
そのことが少し、淋しい。
いや、昨日も会ったし、一昨日だって会っている。
それでも、少しでも会えない時間があると言うのはどうしても落ち着かなくなってしまうのだ。
それは、なんて……、乙女思考なのだろう。
わたしにこんな回路が備わっていたなんて、本当に知らなかったのに。
「それで、あの真っ暗な日の話の続きなのだけどさ~」
「『闇陽』の日と言いなさい」
その言葉に少しビクリとなった。
よりにもよって、その話をしていたなんて……。
「正直、歴代の彼氏ほど燃えなかった。部屋が真っ暗って、相手がよく分からないからつまらないものだね」
「……真っ暗な方が気を使わないわ」
しかも、何の話でしょうか?
いや……、考えてみれば時事ネタだ。
それも割と最新の話題だ。
そして……、同じ境遇の人間たちが集まれば、そんな話題になるのは仕方ない。
居心地は悪いけど……。
ふと話題に参加していないリアンズを見る。
その綺麗な表情は何を考えているのか全然読めなかった。
扉が開かれて、次に部屋に入ってきたのは空の神子「キャナリダ」だった。
彼女は入って来るなり、挨拶もそこそこに開口一番、こう言った。
「美形は見るだけで良いね。触れたら、駄目だ」
……どういう意味でしょう?
「いきなり、何?」
反応したのはトルシアだった。
「いや……、私、結構、『すくみこ! 』で薄い本を作ったんだけど、『藍羽』様、絶倫設定にしてたのよ」
「あの……、ふわふわ、おっとり系の『藍羽』様になんて設定を……」
「その意外性が良いじゃない。そのおっとりで油断させて、他の6人を食っちゃう系な神様で……」
……さらに何の話でしょう?
「でも……、実際は違ったの。たった一回で終わり」
さらに、何の話でしょう!?
「アレなら、顔悪くても、旦那の方がずっとマシだわ。若い分、体力もあるし……」
そんなキャナリダの爆弾発言に……。
「「旦那、いたの!?」」
思わず、シルヴィクルとトルシアが同時に反応する。
わたしは、前にもそんなことを聞いた覚えがあるので、そこまで反応することはなかったけれど、2人は知らなかったらしい。
「何? 旦那持ちが乙女ゲームのBL専門同人作家やってたらおかしい?」
こくこくと頷くトルシアと、複雑な顔をしているシルヴィクル。
「ああ、旦那にはカミングアウトしてるわ。それが、結婚の条件でもあったし。私からBLとったら、息もできないってね」
凄い条件を突きつけたものだ。
「旦那さんの度量、太平洋並」
トルシアは遠慮なく、思ったことを口にする。
相当、趣味に理解がなければ難しい道だろう。
「旦那はエロ専門小説家ですが、何か?」
「ど、同類……」
シルヴィクルの言葉に、思わずわたしも頷きたくなったが我慢した。
「エロ小説と、BL作家は違うわよ。プロ小説家の旦那の方が稼いでいるし」
さらに知りたくもない情報が追加されていく。
名前まで教えられても、その作品を買う予定などないし、買う気にもならなかった。
「失礼します」
そう言いながら、入ってきたのは、火の神子「アルズヴェール」。
その姿を見て、思わず、顔がニヤけそうになる。
「お久しぶりです、皆さま。遅れまして、申し訳ありません」
周囲を見回して、アルズヴェールは謝罪する。
……中身が男性とは思えないほど、上品な礼だった。
「大丈夫だよ」
「ラシアレスにも言ったけど、まだ時間前だから」
「相変わらず正統派美少女よね」
トルシア、シルヴィクル、キャナリダがそれぞれ声をかける。
わたしはなんて、声をかけるべき?
迷っている間に、アルズヴェールはわたしの左隣に腰かける。
「こんにちは、ラシアレス」
「こんにちは、アルズヴェール」
うん、不自然ではない挨拶。
でも、アルズヴェールに誘導されたのは、少し恥ずかしい。
わたしの方が、中身、歳上なのに。
「今日のお話は何かご存じでしょうか?」
先ほどまでの奇妙な話題に戻る前に、わたしは周囲に確認した。
流石に女子(?)同士の露骨な話題を、中身が男性の前でしたくはないし、わたし自身、彼に聞かせたくもない。
もう女性に夢を持っている年代ではないと思うけど……、それでもやっぱり何かが嫌だった。
「何も聞いていないけど……」
シルヴィクルは考えながら……。
「私は、多分、エンディングなんじゃないかって思っているわ」
「「エンディング? 」」
わたしとアルズヴェールの声が重なる。
「私もそう思ってる。これって、もしかしなくても、『すくみこ! 』のエンディングなんじゃないかなって」
トルシアも賛同する。
その可能性は考えなかった。
「言われてみれば、確かにそろそろ、頃合いよね」
キャナリダも納得したような声を出す。
確かに5年目に入ったし、人口も増加傾向になった。
その上、この神子たちの様子だと、「闇陽の日」という、神様たちの目的も果たされたわけだ。
そうなると、この状態をこれ以上、引き伸ばす理由はない。
でも……、それでは……。
「私は、その『すくみこ! 』というゲームをやっていないのですが、エンディング後、『神子』たちはどうなるのですか?」
そんなことをアルズヴェールは口にする。
その質問に答えられる「神子」はこの場にはいなかった。
いや、ゲーム内の話ならできるのだ。
選ばれた7人の「救いのみこ」たちは、それぞれ自分で選択肢を選び、それに従って生きていくことになる。
だが、これはゲームによく似た別の世界だと、恐らく、皆、気付いていた。
だから、ゲームと同じような展開になるかは未知と言わざるをえない。
何より……、神子たちの身体はともかく、その中身は別人なのだから。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




