闇の中で神子は口にする
かなり生々しい話があります。
苦手な方は気を付けてください。
R15の表現範囲だと思いますが、規定に触れるようなら、その部分だけ表現を変更します。
ご了承ください。
真っ暗な部屋。
今、わたしは……、多分、アルズヴェールに抱き締められているのだろう。
「多分」と付くのは、状況が本当に分からないのだ。
この空間が、真っ暗過ぎて、何も見えない。
それでも普通なら、そろそろ目が慣れて、ある程度見えるはずなのに、全然その気配もないのだ。
でも……、このままでも良い気がした。
今の自分の姿は見せられたものじゃない。
特に「この身体」が好きだと言う彼には……。
自分でも見えていないけれど、泣き腫らした顔も、あちこち触れられた身体も、ずっと綺麗にしてもらっていた黒髪だってかなりボロボロだろう。
服だって……、かなり着崩れている。
とてもじゃないけれど……、好きな人にだけは見られたくもない姿だった。
「オレは……、間に合ったか?」
暗闇の中、微かに聞こえたその声は泣きそうで……。
「うん」
わたしはそう答えるしかない。
抱き締められた腕に力が込められたことが分かる。
「ヒカルは……、その……」
なんて声を掛けて良いのか分からない。
それを察してくれたのか……。
「おお、ヤってきた」
そんな身も蓋もない言葉を返した。
「一回だけということと、コトが済んだらとっととこの部屋に送れという約束を取り付けた上でな」
「え……?」
この部屋って……、それは……。
「下手に逆らって時間をかけるより、とっととヤることヤって、一刻も早くここに来たかったんだよ」
「それって……」
「オレが間に合えば、ハルナだけでも救える可能性はあるだろう?」
「……ヒカルはこうなることを知っていたの?」
あまりにも手際が良すぎる。
そして……、わたしも同時に神様に迫られていると予測していたってことだ。
「ほとんど勘だ」
「勘って……」
結果として、わたしは助かったけど、もし、それが外れていたら……、彼はどうしていただろうか?
「だが……、原作設定を考えれば……、『救いの神子』は神と交わって、たくさんの子を産んでいたはずだ。だから、いつかその日は来ると思っていた。それが……、オレたちが役目を終えた時が、終わる前かは分からなかったが……」
そうか……。
彼はわたしと違って、原作の知識がある。
それに対して、わたしには「すくみこ! 」という乙女ゲームの知識しかなかった。
「神子」があの後、どうなったかなんて知らないのだ。
そして……、「すくみこ! 」にはドキドキする甘い言葉や場面はあっても、こんな生々しい描写はなかった。
……年齢制限版が出ていたら、あったかもしれないけれど。
あまり、神様と呼ばれる存在にそんなことをされるゲームが売れるとは思えないね。
これが男女逆の話なら、かなり売れるかもしれないのだろうけど。
「しかし……、長い停電だな」
彼はポツリと口にした。
「……いや、停電じゃないでしょう? さっきズィード様が言っていたじゃない。今日が『闇陽の日』って」
神様と人間が交わると子沢山になる日だとか。
そんな理由で襲われたとか……。
本当に酷い話だ。
ある意味、目的が明確すぎる。
そして……、あの人はわたしの心ではなく、真の意味で「神子」の身体目当てだったのだと言うことでもある。
全然、喜べない。
「闇陽の日?」
「なんか……、千年に一度ほど完全な暗闇になる日だって」
「……そっか……。ここは地球じゃなかったな」
「…………もともと異世界だからね?」
わたしだって、この世界が今まで住んでいたところと違うことぐらいは知っている。
なんか、歴代神官たちの話では、この世界では月も二つあるらしいし。
でも、この世界に来てから、夜になっても月を見たことはないのだけど。
「異世界じゃねえよ」
「は?」
「惑星が違うだけで、同じ世界らしいぞ。原作の通りならな」
「ホントに?」
それでは、この世界のどこかに……、地球も存在している?
「時間の流れがどうなっているか分からんが……、ここが原作の過去だって言うなら……、地球には、まだ人間はいないかもしれん」
「大昔なのか」
「人の世に神が関わるような神話の時代ってそういうものだろ?」
そうなると……、恐竜の時代だったりするのだろうか?
それはそれで、現在の地球を見てみたい気もする。
だって、生恐竜だよ?
それを見るのってある意味、人類の夢や浪漫じゃない?
「しかし……、こうも暗いといろいろ不便だな」
「不便?」
「ハルナの顔を見れない」
「~~~~っ!!」
この男はどうしてそんな言葉を簡単に言ってしまえるのか?
うっかり誤解してしまうじゃないか。
「オレはこの目で、ハルナの無事を確認したいんだよ」
そう言って、彼はわたしの頬に触れる。
「ヒカルは……、無事じゃないのに?」
それも……、何も気付いていなかったわたしを助けるためだけに、ろくな抵抗もせず受け入れたとか。
罪悪感しかない。
「オレは男だから大丈夫だ」
だからこそ……、わたし以上のショックもあっただろう。
それに……。
「本当に? だって……、すごく痛かったでしょう?」
わたしの身体である「ラシアレス」だけではなく、彼が入っている「アルズヴェール」も「神子」だった。
恐らく、穢れの無い少女から選ばれているはずだ。
まあ、初期は15歳設定だし。
それならば……、その身体だってまだ誰も踏み込んでいなかったと思われる。
わたしは経験がないので分からないが……、その時は本当に痛いらしい。
それを語る人たちは、どうしてああも誇らしげになるか分からないのだけど……。
「おお。覚悟はしていたつもりだったが、まさか……あそこまで痛いとは思えなかった。女は皆、あの痛みに耐えるのかと思うと心底、尊敬する」
わたしに隠しも誤魔化しもせず、彼はそう言った。
そして……、その言葉で、間違いなくそう言ったことが、彼の身に起こったということが分かる。
「しかも、痛みだけじゃなく、まだ今も何か身体の中に入っているような感覚が……、異物感がそこに残っている」
「そ、そうなのか……」
その意味を理解して思わず顔が紅くなる。
え?
そう言うものなの? 残るの?
その辺り、経験がないから本当に分からない。
「まあ、短期決戦を狙ったから激痛は仕方ないとしても……、この残留感は予想外だ」
「あ、アルズヴェールさん、この話を続けなきゃダメでしょうか?」
未経験者には辛すぎます。
苦行です。
顔を上げられません。
暗くて本当に良かったです。
「ああ、悪い。でも……」
そう言って、アルズヴェールはわたしの両頬を掴んで顔を持ち上げ……。
「ハルナがそんな目に遭わなくて本当に良かった」
そう言いながら、優しく唇を重ねてきた。
「ふっ!?」
いきなりの展開に、わたしは目を白黒させているのだと思う。
だけど……、あまりにも心地よくて……、身体から力が抜けてしまった。
わたしから力を抜けたことが分かったのか……、アルズヴェールは構わず、顔のあちこちに唇を落としていく。
触れるだけの口付け。
それだけでも……、こんなに幸せな気分になる。
先ほどまで、あんなにも泣きわめいていたというのに……。
「アルズ……ヴェール……?」
だけど、分からない。
これは……、友情からくるものとは違う気がする。
それに、彼には元の世界に恋人がいるのだから、別の女にキスをしているこの状況ってあまりよくないんじゃないのかな?
大体、彼も初めて会った時に、そう言って牽制してきたじゃないか。
あの時は「何言ってんだ、こいつ? 」って思ったのに、こんな風になってしまっているのだから、彼はあまり間違ったことは言っていなかったとも思うのだけど。
「名前を呼べ」
「……ヒカル?」
どこか夢見心地のままわたしは彼の名を呟く。
「おお」
そう短く応えながら、さらに唇を重ねてくる。
なんだろう?
この状況……。
幸せ過ぎて……、顔が発火しそうだし、魂がこのまま天に召されそう。
だけど……、駄目だよ、ヒカル。
この身体は、わたしのものじゃないし、その身体もあなたのものじゃない。
どこかでそう諭す冷静な自分がいた。
「ひ……、ヒカ……」
「ハルナ」
わたしが彼の名を呼びかけようとして……、彼自身にその言葉を遮られた。
そして……。
「オレは、お前が好きだ」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




