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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第6章】乙女ゲームのシンカ

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その日付の意味を考える

「朔月宮の11日?」

「そう。原作で何かイベントってなかった?」

 わたしは思い切ってアルズヴェールに聞いてみることにした。


 ズィード様が告白の返答を、わざわざ指定した上、そこまで延ばしたことには何か意味があるとしか思えなかった。


 だって、半年も先だよ?

 しかもその間にも、普通に会って大陸育成の話をしたりもするんだよ?


 いろいろ不自然でしょう?


 でも、「すくみこ! 」の方では、特に心当たりがあるイベントはなかったと思う。


 基本的に、「ヒロイン(プレイヤーキャラ)」たちの誕生日を除いて、日付指定の特別なイベントはなかったはずだ。


 イベント発生は好感度と、大体この季節……と言う曖昧なもので、実はランダム発生なのでは? と思われるものも少なくなかったのだ。


 それならば、原作の方はどうだったのだろうか?


「あ~、原作はあまり日付が出てこなかったんだよな~」

「そうなの?」

「主人公が、その世界の知識が少なかったこともあったのかもしれないけど……、何月何日に何が起きたとかはあまりなかったな。オレもこの世界に来て、意識したぐらいだ」

「主人公の知識が少ない?」

 それはなんでだろう?


「だから……、原作では必要以上に日付は出てこない」

「そっか……。それなら、分からないね」


 つまり、原作にも出てこない設定ということか?


 いや……、単純に彼が意識していない可能性もある。


 歴史ものの小説を読んでも、年号や日付を記憶せずにさらっと読み飛ばしている読者だっているのだ。


 かなり読み込む人ではない限り、日付を重要視しない人って言うのは一定数いるだろう。


「その日がどうかしたのか?」

「う~ん、ちょっと引っかかって……」

「引っかかる?」

 彼は不思議そうな顔でわたしを見る。


 どうだろう?

 彼に話すべき?


 いやいやいや、話す必要ない。

 全然、ない!


 気になった理由を言えば、必然的にわたしがズィード様から告白のようなものをされたことまで話すことになってしまうだろう。


 それを避けて話そうとしても、巧く話せる自信はなかった。


 それについて、無関係な彼に話す必要性を感じない。


「朔月宮って……、冬か?」

「ああ、うん。冬だよ」

「それなら……、終年祭か新年祭?」

「それは朔月宮31日と新月宮1日だね」


 一年の終わりと始まりの日。


 元の世界で言う大晦日と元日のようなものである。


 でも、特に晴れ着に着替えるなどの特別なものがあるわけではなく、「すくみこ! 」でもメッセージが表示されて終わりだった気がする。


 但し、それぞれの「ヒロイン(プレイヤーキャラ)」が口にする。


 例えば、アルズヴェールなら「今日は新年祭の日です」。


 ラシアレスなら「今日は新年祭の日だよ」。


 シルヴィクルなら「今日は新年祭の……日……です」みたいに、それぞれ違うのだ。


 忘れがちだが、「すくみこ! 」の「シルヴィクル」は本来、内気でどちらかと言えば自虐的なキャラクターである。


 決して、堂々とした姐さんタイプではない。


「よく覚えてるな」

「『すくみこ! 』の暦は、この表記だったからね」


 つまり、「すくみこ! 」で、わざわざ、この表記を設定していたってことは、原作も同じ暦で動いていた可能性はある。


 そうでなければ、プレイヤーが馴染んでいる太陽暦を使わない理由はない。


 一年を372日に設定していたのも不思議だったのだ。


 一月を30日に変えて、360日とした方が、数字としても分かりやすいのに。


「で、その朔月宮11日とやらに何があるんだ?」

「それが分からないから、原作を知っているあなたにも確認したんだよ」

「ふ~ん」


 ん?

 なんだろう?


 何故か、アルズヴェールの視線が鋭い気がする。

 心なしか、整ったそのお顔の眉間に縦皺が刻み込まれているような気が……?


 何か……、彼の気に障ることを言っちゃったかな?


「それなら……、大陸のヤツに確認すれば?」

「大陸のヤツ?」

「この世界に住む神官なら、この世界のことをいろいろ知ってるだろ?」

「ああ、そっか!」


 確かに原作とこの世界が完全に一致しているとも限らない。


 同じだと思っていた「すくみこ! 」とも違うのだ。


「ヒカル、凄い! 頭良い!」

 わたしは、思わず目の前の美少女に称賛を送った。


「お?」

「そうだね。確かにこの世界のことはこの世界の住人に聞く方が良い……、か。この世界は原作ともゲームとも違うかもしれないんだから。なるほど~」


 わたしは感心してしまった。


「大袈裟だな。これぐらい、誰でも考え付くことだろ?」

「でも、わたし、全然、そんなこと考え付かなかったよ」


 この発想は、凝り固まっているわたしにはないもので、素直に凄いと思う。


 そして、「すごい、すごい」と、褒め捲ったせいか、気が付けば、アルズヴェールの機嫌も良くなったみたいだ。


 目の鋭さと尖った雰囲気が消え、いつもの親し気な笑みを浮かべる美女がそこにいる。


 そのことで、わたしは妙に安心したのだった。


****


『朔月宮の11日……、ですか?』

 わたしの問いかけに、鏡に映った五代目神官様は首を傾げた。


 黒い生地に橙の刺繍が入った今代の神官様は、夜を思わせるような濃い藍色の髪に、眩しく光る海のような青い瞳をしている。


 ……そして、女性的な顔立ちで、しかもかなりの美人さんだった。

 事前に神官だと聞いていなければ、「神女(みこ)」と間違えていただろう。


 なんで、この世界の美形率は高いのか?

 この辺り、「流石は乙女ゲーム!! 」と言わざるを得ない。


 ……というか、ここまで美形だと、攻略キャラでもおかしくはないのだけど。


『申し訳ありません、ラシアレス様。特別な出来事はないと思われます』

 少し考えて、神官様はそう結論付けた。


「そうですか……」

 そもそも……、この世界と鏡の向こうの世界では、時の流れる速度は違う。


 暦は同じものを使っていたとしても……、同じイベントが起きるとは限らないのだ。


『あ、あの! 確かに、その日とは違うのですが……』

 わたしの意気消沈(がっかり)っぷりが伝わってしまったようで、神官様が鏡の向こうで慌てているのが見えた。


 そして……、神官様はあることをわたしに伝えてくれる。


「え……?」

 その言葉を聞いて、わたしは疑問符が浮かぶ。


「それは……、いつ?」

 気が付くと、確認していた。


『確か……、文献によると……』

 そう言いながら、藍色の髪の神官は微笑みながらその予測される年月を口にした。


 その告げられた日は……、確かに、こちらの世界の朔月宮11日に近い気がする。


 鏡の向こうの月日の流れが約10倍ということだったが、それは実際に検証したわけではない。誰かによる主観だった。


 そして、教えてくれたのは、ズィード様だったから、わたしも疑うことなくそのまま10倍速と考えていたけれど、それ自体が嘘……、もしくは誤差があれば分からない。


『いずれにしても、千年に一度のことです。実際、起こるかどうかも分かりません。確かめられる人間が存在しないので……』


 それが起こるのは、この世界では千年周期……、つまり、千年紀(ミレニアム)……。


 それが……、後数年で起こりうる可能性がある。

 そんな偶然があるだろうか?


「しかし……、よくご存じでしたね」

 わたしたちの元いた世界と違って、この世界は記録を残すという文化はあまりない。


 しかも千年周期と言うことは、少なくとも、一人では無理だ。


 この寿命がそこまで長くもない世界では……、記録や保存を含めてかなりの人数の協力が必要となるはずなのに。


『今いる自分だけではなく、いつか見る、誰かのために記録を残し、守り続ける。それが、私たち神官の務めの一つです』


 それは記録のための在り方で……、とても大事な後世への伝達でもある。

 それらが積み重なって、やがて歴史と呼ばれるものとなるのだ。


 それが……、鏡向こうの世界でも、大切にされている考え方なら、良かった。


 何でも、古来よりこの世界の神官たちには記録者の務めがあるらしい。

 神の代行者として、神が創ったこの世界を記し、そして、後の世に託すそうだ。


 そのために、身分の高い人たちだけではなく、普通の人たちの生活も記録として残しているとか。


 最初にこの世界を見た時は、記録している人の存在はなかったことを疑問に思いもした。


 でも、確かに、書物がある。

 そして、書物庫は、膨大な記録の山だった。


『ラシアレス様のおかげで、数代前から、記録の仕方も変わったと聞き及んでいます』

「え?」

『ラシアレス様が新たに提案した方法の数々により、記録だけではなく、私たちの世界は劇的に変わりました』


 わたしは、そんな大したことをした覚えはない。


『ラシアレス様に、お仕えした神官の一人、ジドニリーク様は、「記録の父」と呼ばれております』


 その言葉で、髪も瞳も橙色だった神官を思い出す。


 大丈夫。


 わたしは、彼も、その息子や孫たちも。


 今(・)度(・)は(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)と(・)覚(・)え(・)て(・)い(・)る(・)。


『そのジドニリーク様は、最期の時までラシアレス様のことを想い、末期まで筆記具を手放さなかったと遺されております』


 それは……、その息子からも伝えられていた。


 最期まで、父親は「神子(み こ)」とその行く末を気にかけていたとも。


 わたしは、そんな大層な存在でもないのに。


『ですから、その血を引く者として、私も最期の時まで、心より貴女様にお仕えさせてください』


 だけど、真っすぐわたしを見つめる若き神官の期待を裏切るような弱音は吐けない。


「ええ、改めて、よろしくお願いいたします、神官トニエス」


 だから、わたしも、迷わず最期まで走りぬこうと誓うのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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別視点
『少女漫画に異質混入』
別作品
『運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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