神子たちの変化
「『好ましく思う』ってどういう意味だと思う?」
「お前、明らかに相談相手を間違っているとは思わないか?」
わたしが目の前のアルズヴェールに尋ねると、彼は露骨に眉間に皺を寄せた。
美少女は不満顔を見せても美少女ではあるが、そのまま、その場所に皺が刻み込まれるというのは勿体ない。
彼は、その自覚を持つべきだ。
美少女の顔は出来る限り、保護されるべきだと。
「殿方の気持ちは、殿方に確認した方が良いと思ったのだけど、違う?」
わたしがそう確認すると、彼は、ますます不機嫌な顔になった。
何やら、「ああ、こんな気持ちなのか」とか、「よく我慢できたな」と分からない言葉を呟いている。
彼がわたしの前で聞き取りにくい独り言を言う時は、大半、原作との類似した部分に重なった時だ。
よく分からないけど、こんな場面があったのだろう。
わたしが知る「すくみこ! 」の相談相手と言えば、攻略本や、攻略ページの掲示板や、自分の周囲でプレイしている人間ぐらいだろう。
わたしは……、友人たちと語ることが多かったな。
リアルでの恋バナよりも、乙女ゲームの神様たちの話をしている方が多かったと言うのは、ちょっと年頃の乙女としてはどうだったのか……と、今ならそう思う程度には成長しているのだけど、オタクと言うのは、そんなものだと納得もしている。
好きなものについて、自由に語れる場を与えられたら、喜んで、心行くまで話し込んじゃうよね?
「殿方にもよる。俺にキラキラした神様の気持ちが分かると思うか?」
「……わたしよりは分かるんじゃないかな?」
少なくとも、わたしには分からなかった。
だから、彼に話してみたのだ。
ズィード様が言った言葉の意味。
わたしのことを「好ましく思う」とは一体?
それが、「恋愛」的な意味なのか。
「親愛」の意味なのか。
「加護」の意味なのか。
「友人」の意味なのか。
何度考えても、さっぱりだった。
「好きなように解釈しろよ」
「でも、間違った答えで、誤解したくはないんだよ」
「誤解?」
「乙女ゲーム的な視点なら、これは、ステップ1みたいなもので、恋愛要素が一歩進んだと解釈できる。実際の人間関係なら、普通に仕事のパートナー的な話になるでしょう?」
わたしの言葉に、何故かアルズヴェールは肩を落とす。
「……実際の人間関係として考えろよ。既に、お前が言う乙女ゲームってやつからずれているだろ?」
「そうね。下手に期待しても……仕方ないし」
「期待?」
「あれだけの美形から好意を向けられる機会なんてそうないから」
好みかどうかはともかく、ズィード様の性格は嫌いなタイプではない。
仕事熱心に、よく部屋に来てくれるし、ちょっとしたわたしの報告にも耳を傾け、真剣に対策も考えてくれる。
わたしの意見も尊重し、時に自分の意見もしっかりと主張する。
仕事を一緒にやりやすいのは良いことだと思う。
それに、もともと真面目な人間は好きなのだ。
これが、「すくみこ! 」に出てきた「橙羽」様のように気まぐれで、すぐ考えが変わるような方ならここまで受け入れられなかったかもしれない。
「女は本当に見た目に騙されるよな~」
どこか棘のある言葉。
だけど、それを否定する気はない。
「観賞用としては、見目が悪いより、良いにこしたことはないでしょう?」
「観……、賞用?」
何故か戸惑いの声を上げるアルズヴェール。
「男性だってそうでしょう? 週刊誌のアイドルのグラビアが、綺麗なお姉さんじゃなければ、誰も手に取らないんじゃないの?」
だから、雑誌とかの表紙は美人さんが多いのだ。
「それは否定しないが……。でも、身体つきがある程度エロければ、顔を隠せばあまり問題なくなるからな~」
「その発想が既に問題しかない!」
女性相手になんてことを言うんだ?
彼は、時々、わたしの性別を忘れてないか?
「つまり、ハルナは、相方の神を『観賞用』と見なしているってことで良いか?」
「言葉は悪いけど、そんな感じであることは否定しない。あなたは、『神』と名前が付く存在に対して、本気で恋慕の情を抱ける人?」
少なくとも、わたしには無理だ。
勿論、恐れ多いとかの感情もあるが、同じ人型をしていても、どこか作り物じみていて同じ人間とは思えなかった。
彼らを知れば知るほど、そう思えてしまう。
これは、ここが「すくみこ! 」の世界だからというだけではなく、もっと別次元の感情だと思っている。
同じ言葉を話しているけど、どこか違う気がするのだ。
だから……、そんな存在から好意を向けられて困惑しているというのが、わたしの中にある正直な感想だった。
「……あの導きの女神ディアグツォープ様ならオレはイケるかな」
「言った相手が悪かったと言わざるを得ない」
まさか神様相手にそんな気持ちを抱けるタイプだとは思わなかった。
「なんでだ? 見た目が良ければ、二次元、三次元すら関係ないだろ?」
「……何の話でしょうか?」
「ん? イケるか、イケないかの話じゃなかったか?」
「……貴方が話の主旨を変えたことはよく分かった」
それは恋慕の情じゃなくて、欲情とかそう言った種類の言葉になることも。
「でも、ハルナが他の神子たちのように神様たちにふらついていないようで、良かったよ」
わたしの目線が痛かったのか。
不意にアルズヴェールが話題を変えた。
「いや……、たった一年であそこまで変わるのって凄いと思うよ」
「惚れるのに時間は関係ないと思うが……。それに人が心を変えるのに、一年は十分、長い時間だぞ」
「学生時代はそうかもしれないけど……」
学生時代が確かにころころと心変わりしていく級友たちもいた。
告白の回数自慢をしていた男子生徒もいるし、彼氏自慢をしていた女子生徒が、半年後に別の人と付き合っているという話も珍しくはない。
だが、社会に出ると状況が変わる。
一年は本当にあっという間になるのだ。
社会に出て数年経った自分には、その感覚があって、まだ社会人ではない若いアルズヴェールには分からない部分なのだろう。
それでも、他の神子たちは、わたしより中身が年上の人たちも含めてこの一年で驚くほど変わってしまった。
月一の報告会は、報告書の提出だけとなってしまったが、その時に他の神子たちに会わないわけではない。
だが、その間も、彼女たちはアルズヴェールを除いて、皆、どこかそわそわして落ち着かない様子であることは疑いようもなかった。
シルヴィクルが提案した協力プレイは始めから無謀だったようだ。
当人も落ち着いているように見せているが、その表情とかを見る限り「恋する乙女」としか言いようがない。
「恋する乙女」に中身の年齢は関係ないのだなと思った。
男の人が苦手だと言っていたマルカンデも気付けば、緑羽様と仲良くなっているっぽい。
時々、はにかみながらも、「あの方だけは特別みたいです」と言う姿は、彼女も立派に「恋する乙女」の一員だった。
トルシアは、橙羽様を落とす気満々だったのに、会うたび、青羽様のことを惚気てくるようになった。
なんでも、彼女曰く、現実の橙羽様はゲームと違いすぎるそうな。
それはわたしもそう思っているが、あの気まぐれっぷりが良かったのに……と、わたしとは相容れないことも彼女は言っていた。
ボーイズラブが好きだと発言していたキャナリダも気付けば、藍羽様にどっぷりハマったそうだ。
しかも、「旦那とは違って、話が分かるところが良い」との発言から、実は、驚きの既婚者だったことが発覚したが……、それはそれで、どうなのかとも思う。
でも、この身体は本来の自分ではなく、「キャナリダ」の身体だから、これは、浮気にはならないらしい。
わたしとしては、心が移った時点で、立派に「浮気」だと思うのだけど、当事者が納得していれば問題ないのだろう。
いや、元の世界に戻れるかどうかも分からないから良いのかな?
そして、リアンズは……、最初の自己紹介以来、本当に一度も出てこないから現状は分からない。
でも、同じく紫羽様も出てこないから、「2人でよろしくやっているのでしょう」というのはトルシアの発言だった。
もともと紫羽様が本命だったシルヴィクルは少し複雑そうだったけど。
彼女が、相方である黄羽様と仲良くしているのは、そのためかもしれない。
だが、そんなわたしの思考を中断するように、アルズヴェールはこう言ったのだ。
「どこか洗脳みたいな雰囲気がするところは気になっているけどな」
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