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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第4章】乙女ゲームの変化

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イベントスキップ?

『そうか……、人界の神官が変わったのか。それは辛い思いをしたな』

 わたしの相方であるズィード様に、神官の代替わりを報告した後、彼はそう口にした。


「いいえ。あの世界とこちらは時間の進みが違うことは事前にきいておりましたから」

 そのことを教えてくれたのは、目の前にいる神様だった。


 この世界にきたばかりの頃。


 何も知らなかったわたしに対して、ここでの1年が、あの世界では10年にもなってしまうと説明してくれたのだ。


 この世界の人間は総じて寿命が短い。

 わたしたちの元、いた世界よりもずっと……。


 だから、「すくみこ! 」内では、一年できっちり交替していたことを理解したのだった。


「覚悟はしていました」


 だが、覚悟はしていたつもりだったけど、実際にそれを目の当たりにしてしまえば、やはり辛かったというのが正直な感想だ。


 これまではゲームなどの世界での話だったものが、一気に身近に感じる。


 何より、わたしは自分と関わった人間が亡くなるなんて、これまでの人生にほとんどなかったのだ。


 葬儀に参列したのは顔も覚えていないような遠い親戚だったし、通夜に出席したのは、一度もわたしと会ったこともない同僚の身内や、取引相手の縁戚だった。


 それだけ「死」と無縁の生活だったことは、今にして思えば、かなり幸せなことだったのかもしれない。


『そうか……、貴女が気落ちしていなければ良い』

 それ、既に遅いです、ズィード様。


 既に散々、落ち込んで、ようやく回復したばかりだった。


 神官の代替わりは、自分のせいではないことも承知だが、それでも嫌なものは嫌なのだから仕方ない。


 一年後もまた似たような思いをするのかと思うと、今からまた憂鬱な気分になってしまう。

 わたしは思わず溜息を吐いた。


 そんなわたしを見かねてか、ズィード様は優しくこう言ってくれた。


『知っている存在がいなくなるのは淋しいからな』


 あれ?

 だけど、わたしはその言葉で、今、何か別のものが重なった気がする。


『私たちには、人類のように寿命と呼ばれるものがない。だから、それだけ多くの別れも経験してきた。恐らくは貴女が思う以上に』


 ……思い出した!

 この流れ、「橙羽(とうう)」様のイベントだ。


 普段はふわふわして軽い印象がある橙羽様にしては、少し珍しいシリアスイベントだった。


 これは、かなり主人公との好感度が高い時に、お部屋デートで自然発生するものだった……はず。


 主人公が……、ふと「いつかは『橙羽(ヴェント)』様とお別れしなければいけないのでしょうね」と、どこか切なげに呟くと、「すくみこ! 」内の「ヴェント様」という名前の神様がこう答えるのだ。


『そうだな』


『いつまでも共にいることはできない』


『それでも……、私たちが何も思わないわけではないのだ』


『知っている存在がいなくなるのはいつだって淋しい』


『私たちには、人間たちのように寿命と呼ばれるものがない』


『だから、それだけ多くの別れも経験してきた』


『多分キミが思っている以上に……』


「ヴェント……様?」


 いつもと違った「橙羽様」の様子に、どの主人公たちも戸惑いながら呼び掛けると、彼はさらにキメ顔でこう続けるのだ。


『それでも……、キミと別れる時は、きっと『淋しい』以上の感情があるのだろうな』


 そのいつもと違った声の弱さと、絵師さん渾身のCGの美麗さに橙羽様に転がった方々も多かったという。


 それだけ破壊力抜群なイベントだった。


 いや、どの神様にも乙女ゲームとして魅せ場はちゃんとあるの!

 そして、CGもそれぞれ綺麗なの!


 だから、本命の神様がいても、心がグラつくのはある程度仕方ないし、攻略対象なのだから、主人公たちにハートに必殺の一撃を狙うイベントは必須なのです。


 でも、十年(プラス一年)も前のことなのに台詞の流れが思い出せただけでも凄いことだとは思いませんか?


『ラシアレス?』

「いえ、お気遣いいただき、ありがとうございます」


 わたしを心配するズィード様の言葉に慌てて、現実に戻って来た。


 いや、本当の意味では現実にはまだ戻れない。


 確か、あのイベントが発生する時は、橙羽様の好感度はかなり高くなっていたはずだ。


 ……まあ、主人公からヴェント様に「別れを否定する言葉」を言って欲しくて、あんな台詞を促すぐらいだしね。


 ある程度、相手の気持ちに自信がないと言えない台詞だと思います。


 ……つまり、それを基にして考えれば、今、ズィード様からわたしに対する好感度はかなり高いってことになるのかな?


 ほとんど事務的な付き合いしかしていないのに、少し変わったご趣味だと思う。


 いや、それでも少し台詞の改変があったし、そこに至るまでの流れは全く違った。


 何よりまだ二年目だ。

 いくら何でも早送りが過ぎる。


 まあ、本来は三年目にならなければ発生しないはずのお部屋デートが発生している時点で、いろいろと何かが違うことは分かっているのだけど。


 この方は、3日に一度、この部屋に来てお話をしている。


 その行動の多さは、「すくみこ! 」に出てきた主人公への好感度が高い神様と同じくらいだと思う。


 話題の内容としては、ちょっとしたわたしの報告や相手からの助言よりも、圧倒的に雑談が多い。


 少し話題を投げてくれて、わたしがそれに答えるというちょっと質疑応答形式はあるのだが、中身は本当に他愛ない日常会話の一部である。


 いや、神様たちの立場から見れば、それだけでも十分、楽しいらしい。


 アルズヴェールが言うには、原作の神様たちは退屈に飢えて、暇つぶしのため、人間たちに試練と言う名のちょっかいを出すらしい。


 人間の立場からすれば迷惑な話だったことだろう。

 実際、原作の主人公たちはそれに何度も振り回されるそうだ。


 ……今のわたしたちの状態も、そんな退屈凌ぎの一部なのだろうね。

 そう思うと素直にズィード様からの好意も厚意も受け入れられない。


 それでも、ズィード様はまだマシな部類だそうだ。


 無闇にベタベタと触れず、見返りもなく協力的なところが羨ましいとアルズヴェールが言っていた。


 彼の相方である「赤羽の神様」である「フェーゴ」様は、やたらとベタベタ触ってきて気持ちが悪いそうだ。


 しかも、力を貸して欲しいと言えば、何故かそれに対する見返りを求められるらしい。

 美少女は本当に大変だ。


 その見返りと言ってもスキンシップみたいな程度の話みたいなのだけど、上司であるはずの創造神から「神子」に協力しろと言われているはずなのに、軽いものとはいえ、別途、対価を求めてくるのはどうなのだろうか、とその話を聞いた時にわたしは思った。


 神様からのセクハラ、パワハラを訴える先はどこだろう?


 いや、仮に訴えたとしても、神様は偉くて尊い存在なのだから人間の身で逆らうなって言われちゃうかな。


 その言葉はますますパワハラだと思うけど。


「ズィード様は……、人間がお好きですか?」


 なんとなく、聞いてみたくなった。


 ズィード様は一瞬だけ、目を見開いた後、思案してくれる。


 そして……。

『私は、人間全てを好ましく思ってはいないが……』

 そう言いながら、わたしの手を取ると……。


『貴女のことはかなり好ましく思っているよ、ラシアレス』

 凄く良い顔でそう言われてしまった。


 本来は喜ばしい場面。告白と言うほどではないけれど、相方の神様をほぼ攻略したようなこの台詞。


 だけど、わたしの頭の中にあったのは、五文字の平仮名と疑問符が付いた言葉だけだった。


 ―――― どうしよう?


 いろいろ考えても仕方がないことではあるが、はっきりとしていることがある。


 この時点で、わたしは、イベントをいろいろすっ飛ばしてしまったことだけはよく理解したのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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別視点
『少女漫画に異質混入』
別作品
『運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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