第八話 授業とランチ
「兄さんおはよう!」
「あぁ」
兄さんのいる公園には昼前に着いた。
午前の稽古を早めに終わらせて、急いで昨日のうちに見繕っていた兄さんの服を持って城を出た。
僕は毎日午前と午後にびっしりと稽古を組まれている。皇族の勤めというやつだ。
午前は座学。スクエラの歴史や世界の歴史、魔法学や、礼儀作法など大人になって恥ずかしく無いように知識を蓄えなさいとの事だ。
午後の稽古は基本的に基礎武術や、身体を動かすことがメインで、とても苦手だ。
だからここ一年くらいは午後の稽古はサボっている。
先生は先生で僕に教える時間を他に充てて給金を貰えるから、話をしたらすんなりと休ませてもらえる様になった。
「これ。とりあえず全身の服を一式と、ローブを持ってきたよ」
「……派手じゃねぇか?」
「そうかな?動きやすい服の方がいいと思って、サーコートにしたんだけど」
「いや、色が、な」
僕が兄さんに渡したのはグレーのサーコートと黒のローブ。見習い騎士が着る様な動きやすい服装だ。他に僕が持ってる服は王族特有のものだったり、目立ちすぎる様な服が多かったからサーコートを選んだんだけど。
兄さんはあんまり気に入ってくれないみたいだ。
ブツブツ言いながらも、早速兄さんは木の陰で着替えだした。
「やっぱり……派手だな」
「すごい似合ってるよ!本物の見習い騎士さんみたいだよ!」
「だから派手なんだろ」
そう言ってすぐにローブを羽織ってしまった。
でも、これで見た目はこの辺りを歩いていても違和感はなくなった。
次は、
「常識勉強だね!」
「常識勉強?」
「そう!兄さんは色々と知ってて当たり前のことを知らなすぎるから、それを覚えていかないといけないよ!」
これは必らずやっておかなきゃいけない。
ここスクエラで生きてく為には、もっと言えば兄さんがここを出て行くとしても。
「さてさて授業をはじめましょう!オーカ君は席につくように!」
「……はぁ?」
なんだろう兄さんのあの目は。
僕を凄く痛々しいものを見るよう目で見ているけど。
授業を経験したことがないから仕方ないのかもしれないね。
「まずはこの世界の名称。オーカ君知ってますか?」
「ライフだろ。お前バカにしてんなら殴るぞ」
「オーカ君、ここでは先生と呼びたまえ」
「……何言ってんだ?」
「これは授業なんだから、教える僕は先生で教わるオーカ君は生徒なのです。そこをしっかり理解して下さい。さてさて話を戻しますが、このライフは、それぞれの四種族が四つの大陸にしっかりと住み分けがされています」
「チっ、イラつくな」
「ごほんっ。ここアース大陸は僕達人族。そしてヨミ大陸に魔族、ビストピア大陸に獣族、オリンポス大陸に天族。と、この様に種族同士が接触しないように分かれて暮らしています」
「話し方がうぜぇのは置いといて、それは誰かが分けようとして分かれてんのか?」
「オーカ君とてもいい質問です。皆もオーカ君を見習うように!」
「俺以外に誰もいねぇだろ」
「気分は大切なのです。これには諸説あるんですが、どんな歴史的文献にも、そうゆう記述が無く、少なくとも1000年以上も前から、この形だったとされています。一説には神がライフを作った時に最初から大陸毎に種族を分け住まわせていたとされています」
「チっ……」
「オーカ君、なにか言いました?」
「なんもねぇよ。それより、確定の情報じゃないのに教える意味あんのか?」
「大いにあります。今言ったのは諸説ある中での一説。どの説を信じるかによって宗教も変われば考え方も変わるのです。この宗教が問題なんです」
「宗教?」
「そう。宗教によっては魔族排斥派のものや人族至上主義、天族崇拝主義等、様々なものがあります。つまり考え方が地方や地域、ひいては人によって異なるとゆうことです。」
「……だからモメるなよ、ってか?」
「その通りぃ痛だだだっ!」
「誰が好き好んでトラブルんだよっ!」
本当のことを言っただけなのに、またこめかみを左手でおもいっきり握られた。
これ本当に痛いんだよ。
その後も、この世界の常識に疎すぎる兄さんへの教義は二時間程続いた。
「――と、まぁ、今日はこんなところですかね」
「なんかムカつくけど、勉強にはなったな」
「なんでムカつくのさぁ」
と言ったところで僕のお腹が音を立てて空腹を知らせた。
「そういえばお昼ご飯食べてなかったね。どこか食べに行こう」
「金はねぇぞ」
「知ってるよ。お金なら僕が持ってる。それと、これ」
そう言って僕は兄さんに五万キラを渡した。
「あ?」
「僕がいない時、ご飯とか必要なものはそれを使ってね。だから絶対に泥棒とか悪い事したらダメだからね!」
「いらねぇ」
兄さんは短くそう答えると僕のポケットに渡したお金を突っ込んだ。
「え、なんで?」
「いらねぇからだ。安心しろ盗みや犯罪はもうしねぇ」
「ご飯とかどうするの?」
「なんとかするさ。とにかくお前から金は貰わない」
これ絶対貰ってくれないやつだ。
でも、お金がないと本当にご飯とか食べれないし、いつまでも公園で寝泊まりなんてさせられない。
これから考えなくちゃいけないな。
とにかく、
「じゃあとりあえずご飯食べに行こう。その、ご飯代は昨日の迷惑料ということで」
「……あぁ」
よし。とりあえずこれは大丈夫なんだな。
そうして僕達は公園から5分ほど歩いて”銀の大鷲亭”に着いた。
ここは僕がたまに、一人隠れて食べに来る上級食堂。
この店はメインが夜の店で昼のこの時間は人がそんなに多くない。だから、あまり人に会いたくない僕もこの店はちょくちょく来ることが出来る。
「あい、いらっしゃーい」
扉を開けるとお客さんは一人もいない。店主のお兄さんはカウンターの向こうで腰掛けて本を読んでいたようで、僕達が入ると腰を持ち上げた。
店主はやる気のなさそうな顔に無精髭が雑に伸びて、茶色い髪の毛もボサボサ。こう言ったらなんだけど、スラムに住んでそうな人だ。だけど無駄に話しかけてこないし、お客さんも少ないから居心地のいいお店だったりする。
僕達は一番奥のカウンター席に座ると、マスターがカウンターの向こうから歩み寄って来ると、お茶を出してくれた。
「決まったら呼んでくれ」
店主は僕達の目も見ず、ぶっきらぼうにそう言ってまた椅子に腰掛けた。
「何にする?僕はいつもだいたい“大鷲定食”だけど」
「じゃあ同じやつ」
「おじさん!“大鷲定食”二つください!」
店主は小さく返事をして、料理に取り掛かった。
「兄さんは昨日から僕が来るまで公園にいたの?」
「あぁ。そういえば、変なジジイに絡まれたな」
「変なジジイ?喧嘩とかしてないよね?!」
「しねぇよ。ただ話の通じない不思議なジジイだった」
「悪い人じゃなければいいけど」
「多分だが、それは大丈夫だ。それにまた会える気がする」
変なおじいさん……貴族だろうか。
でも、この兄さんがそんな変わった老人をこんな風に嫌がらずに話すなんて。
きっと人の良い雰囲気を持った方なんだろうなぁ。僕も会ってみたいな。
そんなことを話していると、
「あい、お待ちどう」
店主の声と共に料理が目の前に並べられていく。
大鷲定食はメインが元々決まっていない日替わり定食だ。
それにパンとスープ、ミニサラダ、少し太めの麺にトマトソースを絡め、この辺りでは手に入らない芳醇な香りと独特の旨味を持つチーズと言う名の食材を粉末にして上からかけた”チートスパゲッティ”がついてきて、かなりボリュームのある定食だ。
そして今日はツイてる!
メインはチャールス豚のステーキ!
チャールス豚はなかなか手に入らないレアな食材みたいだから僕も食べるのは久しぶりだ!
あぁ、ダメだお腹すいた。
並べられていく料理を見ながら、そんな事を考えていると僕のお腹が鳴ってしまった。
「とりあえず食べよう!」
「ああ、お前の腹の虫も相当うるせぇからな」
「ちょ、兄さん!」
すごく恥ずかしいじゃないか、わざわざそんなこと言わなくてもいいのに。
でも、一人で食べるより楽しいし美味しいや。




