第七十一話 神子の力
バーベル視点
「私のことはいいのです。そんなことより、見て下さい。お兄さん、ピンチみたいですよ」
「えっ!?」
どうやら魔力が底付き寸前なのでしょうかねぇ。
あんな魔法ではあの状態のペンドラさんは止まりません。
「にぃにーーーっ!!!」
やはり。
雷の檻が消えましたね。
あれは、もうダメですね。完全に致命傷です。
ですが、ペンドラさんが鎌で切りつける寸前、体勢を崩したおかげで即死には至りませんでした。
それを成したのがオーカさんのあのアーティファクト。
アレはなんなのでしょうか。
異常な速さで、何か小さなものが三つほど飛び出してペンドラさんに大きなダメージを与えた。
あんな小さなもので、あの状態のペンドラさんが起き上がれないとは。
「クフフフフ」
やはり貴方は面白いですねぇ。オーカさん。
「にぃ、に、まで、どうしてぇ…………」
おや、この神子本当に覚醒しそうですねぇ。
魔力の奔流で熱を感じます。
また家族が一人、目の前で死んで感情がない混ぜになっているのでしょう。
もう一押し、ですか。
この神子が覚醒したら……非常に面白そうですからねぇ。
「また泣いているのですか。一つ、いいことを教えましょう」
「ぐずっ、にぃにぃ、」
「彼はまだ死んでなどいません。すぐに処置をすれば助かりますよ」
「えっ!?」
まぁ、嘘ですけどねぇ。
まだ微かに生きてはいるでしょうが、残念ながら今から何をしても回復することはないでしょう。
ですが
「貴方が本当にお兄さんを助けたいのであれば……うっ……」
なんですかこの光は!
あぁ、そうですか、なるほど!
「クフフフフフフフフフ!!!」
素晴らしい!
これが覚醒!
正直、半信半疑で言ってみただけのつもりでしたが、本当に覚醒のトリガーになれたわけですか。
神子からの発光が収まると、額に大きな黄色い石を付けた猫のような獣が出現しました。猫にしては耳が長くスラッとした印象を持ちますねえ。
これが彼女のガディ、ということでしょう。
このガディの顕現こそ、人族の神子特有の覚醒の証拠!
〝アリア様。ご安心くださいませ。わたくしが貴方の悲しみを払拭するお手伝いをさせて頂きます〟
「ロディ!わたくしに!にぃにを助ける術をお教えください!」
ロディ。このガディの名前でしょうか。
人族はガディを発現させると同時にある程度ガディの情報が頭に流れ込むと聞きました。
不思議なものですねぇ。初めて出会った筈が、既に旧知の仲であるように見えます。
〝承りました。それでは、失礼します。“エンジェルパフューム”〟
ロディさんがそう言うと、神子が淡い金色に発光しました。とても優しい光。温かな母の腹の中の様な温もりを感じさせます。
すると、神子の頭の上に輪っかが現れましたねぇ。
神々しい、とでも言えばいいのでしょうか。幼い見た目に反し美しくすらある。
「理解できました。急ぎましょう!」
〝はいっ!〟
…………行きましたか。
しかし素晴らしいですね。
恐らくあのロディと呼ばれたガディの固有能力でしょう、“エンジェルパフューム”ですか。
発動した瞬間にロディから神子への情報疎通が完了していた。
あのロディというガディのハイスペックな能力を示唆しています。流石は神子のガディ、と言うことですか。
しかし、本当にあの状態のパルキアさんを回復させる事が出来るのでしょうかねぇ。
何にせよ、唆る展開になってきましたねぇ。
◇◆◇◆◇◆
アリア視点
はやく!
はやく!
はやく!
なんであたくしは塔にいる間、運動の一つもしてこなかったのでしょうか。
今になって悔やんでも仕方ありませんが、あの魔族の方の言う通りです。
泣いてる暇なんてなかった。
とにかくはやくにぃにの元へ!
「にいに!」
近くで見ると傷の凄惨さで目を逸らしたくなってしまいます。
〝姫〟
リーシャちゃんがわたくしを酷く悲しげな眼差しで見つめてくる。必死に血を止めようと頑張ってくれていたんですね。
でも、もう大丈夫。
「リーシャちゃん。ありがとうございます。もうわたくにお任せください!」
〝え……どういう――〟
「“ピーチシャボン”」
桃色の小さな沢山のシャボン玉を生み出して、にぃにの傷にくっ付けます。
桃色のシャボン玉には傷を癒したり、細胞を再生させる力かあるのです。詳しい事は正直まだ、わたくしには分かりません。そこはロディが代わってやってくれます。
ただ、シャボン玉が多ければ多い程傷を癒す力が増す。だからとにかくわたくしは、シャボン玉を生み出し続ける!
〝アリア様、もう十分です。既に血は止まり、細胞の再生も直に終わります〟
「もう大丈夫なのですね!?」
〝はい。間に合いました。ただ、かなり失血量が多いので、まだしばらく目は覚さないでしょう。ですが、完璧に山は超えました〟
「ふぅ」
良かった。
また、家族を失うところでした。そうなっていたらわたくしはもう、立ち直れなかったでしょう。
全てはロディのおかげ。
あの時にわたくしの元へ降りて下さったおかげ。
これで、にぃにはもう大丈夫。
〝すごい。この傷を一瞬で…………確実に極級以上の回復魔法がなければ治らなかった。これが、アリア様の力〟
リーシャちゃんが驚いたように目を細めます。
わたくしだけの力ではないのに。
でも、それでも、今までなにもできす、何もしてこなかったわたくしに与えられた力。
幸運、偶然、それでもわたくしにも出来る事ができた。
この力はわたくしだけに与えられた力。
そうであれば、わたくしに何かの使命と付与して与えられたと考えるべき、です。
使命、ですか。
「に、さん」
〝パル君!〟
「にぃに!」
〝信じられません。もう意識が、何という精神力〟
よかった!本当に大丈夫でした!
「兄さん!んっ、ぅ」
「いけません!まだ起き上がれるような状態ではありません!」
〝パル君。彼は君が、もう助からないと思って、自棄になってしまっているんだ〟
にぃにのお兄さん?
今ボロボロになって戦っていらっしゃる、あの黒い髪の方でしょうか?
「ダメ、だ……。兄さんっ!止めて!!!、ゴホッ!」
〝パル君!無理したらダメだ!〟
あの方が、にぃにの、
でしたら!
「にぃに!大丈夫です!わたくしがあの方を、にぃにのお兄さんを、お助けします!ですからご安静ください」
「アリア……?」
〝パル君。君の傷も姫が治してくれたんだ。信じて、じっとしているんだ〟
「ロディ!」
〝はい〟
使命。
分かりました。理解できました。
わたくしが傷付いた方々をみんな癒すのです。
あの魔族の方が仰った通り、この現状はわたくし神子の力のせい。
わたくしには戦う力はありません。ですが、戦って下さった方々を治し、癒すのです。
それがわたくしの出来ること。
わたくしにしか出来ないこと!
使命を!全うします!
「もう、大丈夫ですよ。にぃにのお兄様。にぃにとにぃにのお兄様はアリアが癒します」




