第七十話 慈愛の笑み
「にぃにーーーーーっ!!!」
嘘……だろ……
なんだよあの血の量。
なんでアイツ俺の弾が当たったのに動けんだよ。
嘘だろ。パル……
〝何をやってるんだ!早くパル君の元へ!〟
白蛇に言われて弾ける様にその場からパルの元へ跳んだ。
俺はなんで言われるまで動かなかったんだ?
そんな事を思ったが、パルの側に来てすぐその答えも分かった。
尋常じゃない量の血溜まりに伏したパルを見て。
それでもなお血の止まらない傷口を見て。
どこを見てるか分からないパルの目を見て。
認識したくなかったんだ。
パルはもう、助からない。
なんでだよ。
すげぇいい奴なんだよ。
なんで死ななきゃいけねぇんだよ。
こうなるべきは俺だったんだ。その為に騎士になった。
いつもそうだ。
いつも、いつも、いつもいつもいつも!!!
なんでこうなんだよっ!!!
背後から殺気?
この目玉野郎はまだパルになんかしようってのかよ。
ふざけんなよっ!
全部コイツらのせいだ。
〝残存魔力50%以上の解放を確認しました。人体に影響を与えます。このままでは危険です〟
誰だよ。そんなことはもうどうでもいいんだよ。
〝自動処置を開始します。解放した魔力で魔力纒身を実行〟
コイツらがなんの為か知らねぇが、いきなりこんな酷ぇ事しやがるから――――
〝魔力纒身失敗しました。纒身魔力過多の為の裂傷が次々に確認されました。魔力解放を抑えて下さい〟
いや、違うな。
それも道理だ。
〝さらに魔力解放上昇中。魔力纒身の出力上昇中。非常に危険です〟
コイツらはなんかしらの目的の為に大義を背負って来てんだ。
この国もいつかそういう事が起きる事を想定していた筈だ。
その為に、パルキアの為に、失いたくないもんの為に、俺は騎士になったんだ。
なんだ、そうか。
全部
「また、俺のせいだ」
すげぇ昔にも同じ様な事があったんだ。
よく思い出せないが、あの時も俺を孤独から救い上げてくれた奴らがいた。俺はそいつらを守ってやりたかったんだ。
だけど、みんな死んだ。
圭太も将人も浩介も蓮刀も陽介も、剛基や翔や仁でさえも。
そして俺だけが生き残った。
全てを失って。何一つ守れなかった俺だけが。
〝血液の損失が危険域に達しています。魔力解放を抑えなければ活動限界まで10分を切りました〟
今もその時と似ている。
もういい。俺が、俺だけが生き残っても仕方ねぇんだよ。
魔族?人族?国?
知らねぇよ。
俺の守りたかったもんはもうない。
〝血液損失率上昇中。内部損傷確認しました。魔力解放を止めて下さい〟
うるせぇ。もうどうでもいい。
だが、最後にコイツらだけは、殺す。
なにがなんでも。殺すという言葉が生易しい位の地獄を味わわせて、塵一つ残さず消してやる。そのあと死ぬならそれでいい。死んでやる。
それが俺のケジメだ。
絶対に許さない。存在したことが後悔するほど斬って、刻んで、殴って、砕いて、蹴って!潰して!叩いて!斬って刻んで殴って砕いて蹴って潰して叩いて斬って刻んで殴って砕いて蹴って潰して叩いて斬って刻んで殴って砕いて蹴って潰して叩いて斬って刻んで殴って砕いて蹴って潰して叩いて斬って刻んで殴って砕いて蹴って潰して叩いて――
ぶっ殺してやるよ馬鹿野郎ども。
「兄さんっ!止めてっ!!!」
!!!
俺の耳に聞けるはずのないと思っていた声が届いた時、脳に衝撃が走った。
気付くと、俺の足元にゲイズがボロ雑巾の様に地に伏してた。
全身に銃弾の穴が無数に開き、触腕は全て疎に無くなっている。右足は骨など無いかのようにフニャフニャに曲がり、左足は膝から下が無くなっていた。
コレ、俺が、やったのか?
瞬間
「いっ!つぅぅ」
身体中に激痛が迸った。
やべぇ。意識がぶっ飛ぶ。
なんだコレ。身体の中から皮膚ブチ破って血が噴き出したみてぇだ。
この痛みには覚えがある。
修行中、魔力纒身の魔力配分しくった時こんな感じになった。
だが、その時と比較にならねぇレベルだなおい。
俺は一体何したっつうんだ。
ダメだ。
気を失っちまう。
あの声は、確かに、パル、だった。
確認、してぇけ、ど。
意識が、落ちる、
寸前。
身体を優しい光と暖かな熱が包んだ。
「もう、大丈夫ですよ。にぃにのお兄様。にぃにとにぃにのお兄様はアリアが癒します」
霞かかった俺の視界に、天使が慈愛の笑みを浮かべて語りかけていた。




