第六十九話 時間の問題
真っ赤なレースが揺らめく様に鮮血が舞った。
ゆっくりと赤いレースが地面を汚した時、パルキアとペンドラが同時に倒れた。
ペンドラはオーカのハジキから放たれた銃弾が重傷を与えていた。それでも、倒れる直前に鎌の腕を振り、パルキアを斬りつけたのだ。
「ぁ、パル……」
「にぃにーーーーっ!!!」
オーカの溢れるような言葉を掻き消すようにアリアが叫んだ。
〝何をやってるんだっ!早くパル君の元へ!〟
リーシャに怒鳴られるままにオーカはパルキアの元へ跳んだ。
〝パル君!しっかりするんだ!〟
パルキアは胴を袈裟斬りにされ、身体から泉の如く血が湧き出ている。目の焦点も合っていない。
辛うじて生きてはいる、そんな状態だった。
〝……ダメだ。パル君の魔力量が少なすぎて治癒魔法も使えない〟
リーシャはパルキアの魔力を使い自ら魔法を行使する事ができる。だが、パルキアの今の魔力残量では出来ることが少なかった。
「此奴はもう死んでいる。見れば分かるだろう。身体に魔力が微かに残っているところを見ると、どうにか魂が身体にしがみついているようだが。時間の問題だ。さて、次は黒髪、貴様の番だ」
いつの間にかオーカとリーシャの背後にゲイズが来て言った。
〝うるさい。魔族畜生め。パル君が諦めていないんだ。僕も諦めない〟
リーシャはゲイズに一瞥もくれることなく言った。パルキアの残り少ない魔力を使って、どうにか止血に努めているが、溢れ出る血液が止まる気配はなかった。
「我は、たかがマナ畜生に話かけているわけではない。黒髪の。貴様も見所がある。どうだ?我と共に来ぬか?悪いようにはせん」
ゲイズは性懲りもなくオーカも誘った。
そんなオーカは何の反応も示さない。
ただ、パルキアを見つめている。
何をするわけでもなく、ただ見ていた。リーシャに治療されているパルキアを。
「友を亡くし失意したか。あれだけやれても精神は童、ということか」
ゲイズは誰にでもなくそう呟き、ゆっくりとオーカの元へ歩いた。
そして眼前にオーカの後頭部が来るところまで来て立ち止まり
「ならばせめて、共に逝かせてやろう」
そう言って、二つの触腕を動かした。
刹那。
「ぐっ!」
強烈な魔圧がその場を支配した。
それは重力と言い換えても差し支えがないほどの圧力。
ゲイズが不意の魔圧に身体を一瞬縮こませ、口から苦悶を漏らした。
「なんだ、と」
ゲイズは理解出来ない。この魔圧がどこから発されているかが分からない。
全部で十個の目玉をいくら泳がせても自分に魔圧を向ける存在を確認することができなかった。
それもそのはず。
魔圧は目と鼻の先にいるオーカから発せられているのだから。
それも普通の魔圧ではない。
ただ魔力を身体から解放させただけ。それだけで皇城周辺を飲み込むだけの広さの魔圧を放出したのだ。
皇城内、皇城付近にいるものは誰もが気付いた。いや、気付かざるおえない。敵味方等しくその魔力に身構えた。
そしてその広げた魔圧が一瞬で消えた――。ゲイズや、その魔圧を感じたものには“その様に”見えただろう。
しかしその瞬間、オーカの全身にいくつもの裂傷が生まれ血が吹き出した。だが、そんなオーカの表情は変わらない。眉一つ動かさずパルキアを眺めていた。
消えた様に見えた魔圧。実際は広げた魔圧をそのまま纏い、魔力纒身したのだ。
自身の何%の魔力かもオーカは理解していない。
だが、未だかつてないほどの魔力を纏った。自身で体を傷つける程の魔力を。
しっかりと纒身しきれてるわけでもない。身体中から血液を吹き出してると共に、魔力も身体から散っているのだから。
それでも
「くっ、なんなのだこの魔力はっ!?」
そう言ってゲイズを下がらせるだけの事が出来た。
更に
「なっ、!?」
気づけばオーカはゲイズの方へ身体を向けていた。
そして充分にオーカから距離を取ったゲイズの触腕がいつの間にか九つとも全て消えていた。これもまたいつの間にか握られていたオーカのメリケンによって。
ゲイズが下がる瞬間に、ゲイズが知覚する事が出来ないほどの速さで、触腕全てを殴り飛ばしたのだ。
ゲイズは理解出来ない。
唐突に変化したオーカに頭がついていかない。
ここへきて初めて、ゲイズの一つ目しかない顔に焦りが表れた。
「また、俺のせいだ」
そう言って顔を上げたオーカの目からは、涙の様な血が流れていた。




