第六十八話 最強の武器
「えっ」
氷像と化したゲイズにペンドラが強烈な勢いでぶつかった。
まだ凍りついて間もないゲイズは身体の芯まで凍ってはおらず、表面の氷が所々砕けながらペンドラと共に地面に倒れた。
それをパルキアは間抜けな顔で見ていると
〝パル君、口開いてるよ〟
肩に乗ったリーシャがジト目で指摘すると、パルキアはすぐに我に戻り表情を正した。
「兄さんか。相変わらず無茶苦茶するなぁ」
パルキアは飛んできたペンドラを見て、その要因を作った張本人を思い浮かべながらそう言った。
ただ、無茶苦茶やってるのはお互い様である。
〝そんなこと言ってる場合じゃないよ。このまま一気に二体とも消してしまおう〟
「分かってる」
リーシャの言葉を受けてパルキアは杖に魔力を込めて構える。
もう、パルキアは理解していた。
ゲイズの弱点。
ゲイズは目の数だけ不可視の波動で魔法を壊すことができる。
ただ、壊すことが出来る魔法にも制限があった。それは魔法に込めた魔力量である。
ゲイズがダメージを負った魔法。即ち“雷蛇の癇癪”と“フレアビッグサン”
パルキアが使った他の魔法との違いはその魔法に込めた魔力の量。
要は一定の魔力量を超える魔法は壊すことが出来ないのである。
「“ライトニングオーバー”」
バチバチとパルキアの杖に紫電が迸り、更に魔力を込めた。
そして杖を振り下ろし中空を凪いだ。
「“エクスターミネーション”」
爆音。
シカク中に耳を押さえたくなるような爆発音が轟いた。
フローズンフィールドで著しく気温の下がったエリアを、雷電が爆発しながら広がったのだ。
後には何も残っていなかった。
人影どころか、崩れた城壁の一部や瓦礫までもが等しく粉塵となり一帯を無に帰していた。
〝流石に魔力が心許なくなってきたね〟
「はぁ、はぁ……でも、もう終わった、よね」
〝まだだよ〟
「まだだ」
パルキアの言葉に否定の言葉を呈したのはリーシャと、いつの間にか隣にいたオーカだった。
パルキアがオーカへ目をやると、オーカは空へ逃れたゲイズとペンドラを見ていた。
「兄さん……」
「少し休んでろ」
パルキアの顔色を見たオーカはそう言い残し跳び上がろうと屈んだ。
「待って、リーシャ。兄さんをサポートしてあげて」
〝…………いや、僕はパル君を置いていけないよ〟
「あぁ。別に必要ない」
オーカはそう言って、両足に力を込める、と。
「ダメだ。ゲイズの能力を知らないまま、兄さんを行かせるわけにはいかない。僕は少しの間、役に立てそうにないから」
悲壮的な表情を浮かべてパルキアは言葉を絞り出した。
それを見たオーカはまた動きを止めた。
〝……それは、命令かい?〟
「違う。お願いだよ。頼む、リーシャ」
〝…………分かった〟
リーシャは少しの逡巡の後、オーカの肩へ飛び移った。
「じゃあ、行くぞ」
そして今度こそオーカは跳び上がった。
弾丸のような速度でゲイズとペンドラの元へ向かうオーカに
〝ゲイズの目玉に注意するんだ。見えない波動のようなものに触れば、多分死ぬよ〟
「分かった」
短いやり取りをしている側からゲイズの目玉の一つが光った。
「くっ」
中空にいるオーカが突如、直角に方向転換して、不可視の筈の波動を躱した。
〝へぇ〟
そして、更にまた直角に方向転換して、ゲイズに突っ込み釘バットを振り上げた。
「ほぅ。貴様も見えるのか。では、これは――「待ちなさい!コイツはアタシがヤルぅ!!!」」
ペンドラがオーカの釘バットに合わせて角の腕を振るい弾いた。
だが、オーカは体勢を崩すことはなく、そのまま返す釘バットを振るった。
ペンドラもそれを見越して釘バットを躱し、鎌の腕をオーカの首に目掛けて振った。
と、同時にゲイズの目が光った。
〝避けるんだ!〟
「クソっ、たれェ!」
油断なくゲイズの動きを見ていたリーシャの助言を受けたオーカは突然、重力のままに落ちた。
オーカが空中で大地の上で戦っているのと同様に戦えている理由。それは、魔力で瞬間的に空中に足場を作っているからである。
普通の人間はそんなこと出来ない。
否、訓練をすれば出来はする。だが、出来ても戦闘中に魔法やガディの能力を使いながら、行うとなれば一度か二度体勢を変える事が限界。
故に常人はこんな魔力の使い方をしない。
だが、オーカには使っても使い切れないほどの魔力量を有している。更に言えば彼は魔法も使わなければガディの能力も使わない。いや、使えない。
だからこその戦闘方法であると言える。
「器用な人族だな。だが、甘い」
ゲイズとペンドラの攻撃を躱したオーカが再び見上げると、ゲイズの目がまた光った。
当然のようにオーカはまたそれを躱した。
オーカはゲイズの攻撃を見えていない。
それでも避けられる理由は、簡単に言えばただの勘である。
感覚で嫌な魔力が自身に向かって放たれている様な気がして避けているだけ。
二年の修行の中で幾度も死線を切り抜けたからこそ、身に付いた超直感である。オーカは今、考えればラナとゼルバトス様々であった。
「いくらやっても当たらねぇよ」
〝ちょっと待って、もう一匹は!?〟
「なっ!?」
言われて、ハッとしたオーカは辺りを見回す。
〝パル君!〟
いち早く気付いたリーシャが主人の名前を叫んだ。釣られてオーカがパルキアへ目を向けると、ペンドラがパルキアへ向かって急降下していた。
「ヤベェ!」
オーカはそれを見て、アーティファクトの形を変える。
釘バットは黒い靄となり右手に収まる小さな形に変わった。
オーカは形の変わった小さな黒いアーティファクトを、両手で包むように握りペンドラへ向けた。
それは対生物最強武器。オーカがゼルバトスの前でコレを見せた時、ゼルバトスはそのアーティファクトの危険性から使用禁止を命じた程の武器。
だが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。
「くっ、“フレアジャベリン”!」
パルキアも自身に向かって来るペンドラに魔法を放つ。が
「フフフ!死ねえェッ!!!」
角の腕でパルキアの魔法を簡単になぎ払い、鎌の腕を振り上げた。
そこに、大きな乾いた音が三発鳴り響いた。
「ぐぅっ!?」
音の発生源はオーカの手元。小さな黒いアーティファクトからは煙が立ち上っていた。
“レガリアル”ドーグシリーズ“ハジキ”である。
所謂、銃、鉄砲、チャカと呼ばれる、オーカの前世で最強の武器であった。
生き物を殺す為だけに人の手によって作られた銃器。それをこのファンタジー世界に顕現させたのである。
ハジキから音が鳴り響いた瞬間には既にペンドラの体に鉛の弾が着弾していた。
ペンドラは空中で体勢を崩しよろけた。
だが、
「死ねェェェッ!!!」
その時にはもうペンドラの眼前にパルキアが立ち尽くしていた。
そして、
ペンドラの凶刃がパルキアの胴を舐めた。




