第六十七話 感情の爆発
バーベル視点
クフフフフ。
このくだらない世界に私が生を授かり数百年。
こんなに愉快な日が来るとは思いませんでした。
オーカさん。
彼が“異世界人”である事はもはや間違いありません。
不思議な事に、ご自身でしっかりと自覚してはいないみたいですが、あの格好、あの武器、極め付けは黒髪黒目の容姿。
あの方とまるで同じ。
やっと、これでようやく、糸口を掴めた気がします。私の目的に指先が触れた感覚すら持てました。
これで、この組織に身を置いた意味が出来ました。
私からすればこの組織の目的なんてどうでもいい。もしかしたら、あわよくば、この組織の目的が私の目的と合致する可能性があった為に入りました。
ですが、もういい。
オーカさんさえいれば、私は楽しめる。
勇者でもない、この世界に来た意味さえも知らない異世界人。
今後何を仕出かすのか。
この世界に何を齎すのか。
この世界の意思にどういう選択をするのか。
楽しみですねぇ。
今はまだ心も力も発展途上でしょう。
それでも私と拳を交わした時はまだ本気ではなかったみたいです。
ペンドラとの戦いを見るにまだ、奥の手すら持っているように見えます。
何より、とても楽しそうに戦っている。
それは、彼がいるからなのでしょうかねぇ。
スクエラ第二皇子パルキア・ブーヤ・スクエラ。
彼もまた面白い逸材です。
オーカさん程ではないにしろ、人族にあるまじき魔力量。
高い応用力。
それを実行しうるポテンシャル。
何よりあのガディです。恐らくは“ソーサリオン”クラスではないでしょうか。
彼らの関係性は種類は違えど、あの方と”黒の忿怒”を彷彿とさせるものがあります。
将来が非常に楽しみです。
故にここで彼らを散らせるわけにはいかない。
そこに
「なんでっ、ぐずっ、こんな、事にぃ……」
この神子。
覚醒の兆候が出ていますねぇ。
恐らくは肉親を目の前で殺されたことによる精神的自己防衛本能か。額の刻印に魔力が集まっている。
この刻印は確か、“煌めく盾の紋章”でしたか。
さて、どうしたものでしょうねぇ。
パルキアさんの張ったこの雷の檻。
正味、壊す事は容易。
このまま捕らえられていた方が色々な意味で得策。
でしたが、ここを出た彼らの反応も見てみたい気もしますねぇ。
ただ、彼らにとってこの神子はある種のアキレス腱。
彼らの反感を買うのは頂けませんか。
であれば、一度コミュニケーションを取ってみますかねぇ。
◇◆◇◆◇◆
「なんでっ、ぐずっ、こんな、事にぃ……」
何故、あの方々はこんなに酷い事が出来るのですか。
わたくし達が一体何をしたと言うのですか。
お父様とお母様が殺されなければならない程の何をしたとっ、
「悲しいですねぇ」
「えっ」
後ろを振り向くと、冷たく端正な顔立ちをしている男性が、にぃに達の戦いから目を逸らさずにそう呟いていた。
この方もわたくし達と同じ人族の姿をなさっていますが、恐らく魔族の方なのでしょう。
「ですが、あなたが泣いていても何も変わりませんよ」
何も、変わらない?
この人は一体何を仰っているのでしょうか。
「お兄さんが哀れですねぇ。あなたと同じか、それ以上に辛い思いをお兄さんもしている筈。それでもなお、泣いているあなたを助けようと必死に戦っている。それなのに、あなたはただ泣いて、事が終わるのを待っているのみ」
「わた、くしは、ぇぐっ、ひっ、」
そんな事言われてもわたくしには何もっ、
「また、泣くのですか?自分には何も出来ないと言い訳をして。ずるいですねぇ。あなたのせいでこのような状況になっているというのに」
「わた、くしの、せい?」
「当然でしょう。この悲劇を巻き起こした我々魔族の狙いはあなたですからねぇ」
分かっては、いました。
わたくしの神子の力。
昔からよく言い聞かせられてきたんですもの。
この力は世界のバランスを守る力。
それぞれの種族に与えられる限られた神の因子。
でも、わたくしにそんな力なんてっ!
大体この人はなんでこんな事をわたくしにっ!
「あなたは一体何が言いたいのですかっ?!」
「おっと、怒れるんですねぇ。ではその怒りと悲しみを爆発させてみなさい。そうしたら何かが変わるかもしれませんよ?」
「…………どういう、」
「あなたの神子の力はまだ眠っているのですよ。それを感情の爆発で呼び覚ますのです。そうすれば、あなたもお兄さんの力になれますよ。クフフ」
感情の爆発。
そうすればにぃに達の力に。
でも
「何故、貴方がわたくしにそんな事を?」
「簡単な事です。面白いから、ですよ」
面白い?
この人が何を仰っているのか分かりません。
「貴方は一体…………」
「私のことはいいのです。そんなことより、見て下さい。お兄さん、ピンチみたいですよ」
「えっ!?」




