第六十六話 今度は俺が
ここからが本番。
切り替えるぞ。
とにかく今は魔族を退けるんだ。
兄さんと一緒にこの国を守るんだ。
だけどこのまま同じように攻撃していたって意味がない。なんらかの方法で僕の魔法がレジストされている。
「先ずは相手の能力を理解しないと、か」
〝いい考えだね。一番最初に僕が言った事と同じだ〟
「…………耳が痛いです。ごめんなさい」
リーシャかなり根に持ってるなぁ。
〝ま、それはもういいとして、試したい事があるんだ〟
「何?」
「練兵場でマナを理解させるために僕が君にした修行、覚えてる?」
「あ〜。忘れる事は生涯ないよ」
あんな地獄みたいな修行、今考えると身の毛もよだつな。本当、恐ろしいヘビだよこの子は。
〝あんなに大きくする必要はないけど、そこから始めてみよう〟
「よし。“フレアビッグサン”!」
杖を頭上に掲げ魔法名を口にして、中空にまん丸の大きな火の塊を出現させた。
〝先ずは11発同時に着弾させてみようか〟
「……なるほどね」
フレアビッグサンから、直径50センチ程の火球を十一発分離させた。
「ほう」
ゲイズが黙って僕らの動きを見ていると思ったら、感心したような呟きを漏らした。
恐らく僕が今からする事を理解したんだろう。
僕もリーシャの試したいことは読めた。
あの不可思議な見えない波動は、あの目玉から発生させた何か、であるという仮説を実証しようとしてるんだ。目玉の数は触腕と顔の目玉を合わせて10個。
つまり。
分離させた十一発の火球をゲイズに向けて射出!
火球の速度をゲイズの体に同時に着弾させるように調節する。
「だが、無意味」
ゲイズの体に触れる前に全ての火球が消えた。パッと見、当たっているかのようにも見えるけど、実際は当たっていない。
でも、無意味ではなかった。
〝うん。やっぱりそうだね〟
「魔法が掻き消えるタイムラグ、だね」
ゲイズはやはり、リーシャの仮説通り目玉から放出するなんらかの波動で魔法を消している。
現に今、僕が放った11発の火球の内10発が同時に消失して、僅かな時間差で残りの1発が消えたように見えた。
〝そう。なんとなく分かってきたね。次は、アイツがダメージを負った理由〟
「雷蛇の時の、か」
アイツは同時に10回までの攻撃をなんらかの方法で消すことが出来る。
なのにもかかわらず、雷蛇に喰われて出てきた時、多少ではあるけど傷を負っていた。
だけど、アイツは今もそうだけど、わざと僕の攻撃を受けている。
だからあの時も抵抗せずに雷蛇に喰われたんだ。
でも、出てきた時に確かに言った。
『我に少しでもダメージを与えるとは』と。つまりアイツはダメージを受けるつもりはなかったという事。
「おい貴様。やはり殺すには惜しい。悪いようにはせん。こちら側に付け。ある程度の便宜も図ろう」
何を言い出すかと思えば。
「ふざけるなよ。僕の家族を殺し、僕の国をめちゃくちゃにして、今もまだ僕の妹は捕らえられているこの状況。君たちは絶対に許さない」
「しからばそこは詫びよう。だが、我らも大義の元に動いている。貴様もこちら側に付けば理解できよう。それに、この先神子には傷一つ付けないことを約束する」
「ふ、ざけるなァァア!!!」
残ったフレアビッグサンに更に魔力を込めてゲイズに向けて放った。
「分からぬか」
ゲイズはそれをいとも簡単に避けた。
避けたのだ。
〝パル君〟
「分かってる。大丈夫だよ。“フローズンフィールド」
もうキレたりしない。
そうなれば相手の思うツボ。
なんの生産性もない。
だけど、感情を捨てることなんて僕にはできない。
だから冷静に考えて、激情に行動する。
矛盾のようで至極合理的。
ゲイズの周りを冷気で包む。
範囲は広く、決して避けられないように。
「むっ」
気づいた時にはもう遅いよ。
広げた冷気に一気に魔力を送り込む。リーシャが僕の送った魔力を魔法術式として変換する。
「“クライシスパニック”」
ゲイズを周りの大気ごと一瞬で音を立てて冷凍した。
瞬間
「えっ」
兄さんが戦ってた筈の魔族が凍りついたゲイズに、ものすごい勢いで突っ込んできた。
◇◆◇◆◇◆
速いな。
気持ち悪りぃ見た目になる前とは比較にならねぇ。元から気持ち悪いが。
虫のツノみてぇな腕と鎌みてぇな腕が、音を裂きながら弾幕の様なレスポンスで打ち続けてきやがる。
ま、躱せない速さではないがな。
それでも避ける事はできるが、受けて防ぐ事が出来ねえのはストレスだ。多分この形状じゃ防いだ俺の腕なり足は、千切れてふっとんじまう。
「避けてばかりではラチがあかないわよォ!フフフ!」
確かにな。防ぐ事が出来ないっつうのはデメリットでしかねぇ。敢えて受けてカウンターを入れる選択肢が取れないとなると、基本相手に先手を譲ってる様なもんだ。
ってかどうでもいいけど近くで見ると余計に気持ち悪りぃな。
仕方ねぇ。
バックステップで大幅に三歩下がり距離を取る。
「ウフフフフ!もう諦めて逃げるのかしらァ?」
「いや、今度は俺がお前に面白いもんを見せてやるよ」
スーツの袖がモヤとなり右手に棒状の形が形成されていく。
俺はそれを右手に握り肩に担ぐ。
「何かしらソレは?今度はその棒でアタシと戦うつもり?」
「あぁ。だが、これはただの棒じゃねぇぞ?“釘バット”だ」
俺のアーティファクト“レガリアル”のドーグシリーズ“釘バット”
コイツにも“メリケン”と同じ様に特性が付いている。
「なんだか知らないけど、そんな棒っきれでアタシの攻撃が防げるのかしらァッ!?」
好戦的な笑みを浮かべながらペンドラが角の付いた腕を引いて突貫してくる。
そんな分かりやすいテレフォンパンチ当たるわけがねぇ。だが、それだけの自信って事。あの角の硬さ、強さが俺の釘バットに打ち負ける筈がないと信じ切っているからこそ、か。
なめんなよ。
肩に担いだ釘バットを片手でそのままペンドラの角に合わせて振り下ろす。
「な!にっ」
俺の釘バットにペンドラの角は弾かれて地面に突き刺さり、軽く地面にクレーターが出来上がる。
ペンドラの体勢が崩れた。そして、俺は釘バットを振り下ろした勢いを使って身体を捻り、回転を加えた左足をペンドラの頭上から叩きつけた。
「んぐぅっ、」
地面に叩きつけられたペンドラはバウンドして中空に身体を躍らせた。
そこに俺は、釘バットを両手で握り、肩幅に足を広げて、右足に重心を持っていく。
そしてペンドラが重力に引かれて落ちてくるタイミングを合わせ、一気に左足へ重心を移動させて、腰を捻り釘バットを
「フルスイング!!!」
「がっはっ!」
気持ちの良い快音を響かせてペンドラがライナー軌道で吹っ飛んでいく。
釘バットの特性“クリティカル”の効果だ。
完璧なタイミングて完璧なスイートスポットにフルスイングする事で、対象に攻撃力補正と吹っ飛び補正がかかる。
吹っ飛ぶ先も計算済み。
何故か氷漬けにされているもう一匹の魔族にぶち当たる。
「やっぱこれキマると気持ちいいな」
1月1日(水)、1月5日(日)の投稿はおやすみさせて頂きます
1月8日(水)より通常通り投稿させていただきます




