第六十五話 血よりも濃い
空中でオーカに殴られたパルキアが地面に落ちた。それと同時に大蛇が消える。
「痛てて……うわっ!?」
落ちたパルキアを強引にオーカが胸ぐらを掴んで起こし、しっかりと両目を見つめる。
「な、何で……」
パルキアはこの場にいる筈のないオーカが目の前にいることに驚愕する。それでも頭の中では今置かれている状況をなんとなく理解していた。
「大丈夫か?」
暴力的な行動とは裏腹にパルキアを思いやる言動。
昔から変わらない不器用な優しさにパルキアは安堵した。
「に、兄さん……ごめん、なさい。僕は、守るために力を付けた筈なのに……もう手遅れで、失って、悲しくて、辛くて、ワケわかんなくなっちゃって、もういっそのこと――」
目を逸らして俯きながらそう呟いているパルキアの言葉を、遮るようにオーカが勢いよく頭突きをした。
「うっ!?」
「うるせぇ。何をまたうじうじしてんのか知らねぇけどな、お前は守るために戦うんだろ?その為に力を付けたんだろ?だったらそれをその通り行使すりゃいい。それともパル、お前にはもう守りたいものがねぇのか?」
パルキアはまた、はっとしてアリアの方を向く。
変わらずアリアの顔を暗く、淀んだ瞳でパルキアを見ていた。
そんな顔をさせたのは自分だとパルキアは改めて気付く。
そして辺りを見回す。
目につくあちこちで戦火が上がり、未だ悲鳴や怒号が聞こえてくる。
オーカはパルキアの情景など知らない。
それでも淡々と語ったオーカの月並みな言葉。
奇しくも、リーシャが説いた言葉に似た内容の言葉。
だが、だからこそパルキアの表情は晴れた。
下手に飾らない言葉だからこそ。
パルキアの不幸を知らないからこそ、根本がズレないオーカの言葉であった。
そしてこの時初めて、リーシャの言葉もパルキアの中にしっかりと溶け込んだ。
「ありがとう、兄さん」
「ま、話は後だ。とにかくコイツらをどうにかするぞ。俺達で」
「うん!」
久しぶりの再会。
それでも最低限の会話で気を取り直した二人。
それは二人が血よりも濃い運命で繋がり、信頼しあっているからこそ成り立っている。
オーカは変わらずパルキアの為に。
パルキアは万人の為に。
曲がらない二人の信条が目的を明確にし、やるべき事を導き出している。
「なんか、気持ち悪りぃ奴が一匹増えたしな」
「えっ?」
パルキアの魔法が解けたことにより大蛇に喰われたゲイズが出てきていた。そこにペンドラが合流している。
「全く以って信じられん。興味本位でわざと魔法を受けてやったが、よもや我に少しでもダメージを与えるとはな」
ダメージといっても多少皮膚が焦げた程度の傷。ゲイズはそれでも感嘆を漏らした。
それほどの自信。強者の余裕。それらを体現する圧倒的強さを持っての言葉であった。
「ゲイズの体に傷を。信じられないワ」
「ペンドラよ。あまり舐めてかかるな。あの黒髪の方もやるのであろう」
「問題ないワ。だけど、全力で瞬殺してやるワ」
「それがいい。さっさと任務を遂行する。神子を既にズィンブロッシュの手の内だ。後の憂いを断つ為にも、この小僧共を殺して帰るぞ」
「じゃあ、あの黒髪のガキはアタシがやるわァ!」
ペンドラはそう叫ぶと、足を肩幅以上に広げて前傾姿勢に構えた。
そして、勢いよく上体を起こすと気味の悪いグロテスクな音を立てて身体が作り替えられた。
アリの様な顔、カマキリの鎌を携えた左腕、カブトムシの角の様な右腕、バッタの様な足。表皮は黒々とした甲殻に覆われている。背についていたハチの様な羽は無くなり、替わりに尻にハチの毒針が突き出している。
もはや変身と言っても過言ではない変わり様である。
そんなペンドラが左腕の鎌を振るった。
すると斬撃が衝撃波となりオーカとパルキアに飛んでいった。
「“ガイアシールド”」
パルキアが極級の防壁を展開した。
「パル、俺はあの虫を駆除する。目玉野郎は頼めるか?」
ペンドラの斬撃がガイアシールドにぶつかり激しい音を立てて掻き消された。
オーカに問われたパルキアは
「ま、任せてよ!」
先ほどまで感情が読み取れなかったパルキアの瞳に火がついた。
「よし。どっちが先に終わるか勝負だ」
そう言ってオーカは防壁を飛び越えていった。
パルキアは打ちひしがれる思いだった。
あの兄が、今まで守られるだけだった自分に信頼して任せてくれた。
「よしっ」
パルキアは小さくつぶやき、地面を軽く蹴り自ら作った防壁の上に立ちゲイズを見下ろす。視界の端では既にオーカとペンドラが戦いの火花を散らしていた。
そして、パルキアは杖を構えて
「と、その前に。リーシャ、その……ごめんなさい」
杖を構えたままパルキアはリーシャに謝った。
〝…………ふんっ。すこーしばっかりあのオーカとか言う子に嫉妬しちゃうけど、いつものパル君に戻してくれたんだ。よしとしておくよ〟
表情豊かな白い蛇は、ふてくされた顔で嫌味を言ってから、柔らかな笑みで主人を許した。
「ありがとう」
〝終わったら美味しい茶菓子と最高のロイヤルミルクティーで手を打つとするよ〟
「オーケー。じゃあ、こっからが本番だ!」
ここからパルキアとオーカの本領が発揮され、戦いは更に激しさを極めることとなる。




