第六十話 作戦の成功
「さぁ、皆さん私の側へ。私が三人を抱えて外へ出ます」
そう言ってナッパは両腕を広げる。スキンヘッドで髭面の筋肉達磨がにこやかに。
「あの、抱える必要ってあるのでしょうか?」
ヒキ気味でミラの父親がナッパに恐る恐る聞く。ミラの母親も引きつった表情で父親の言葉に同意しているようだ。
「そう言う手筈になっているんです。何も心配はいりません。お任せください。さぁ」
安心させるようにナッパが柔らかな表情でそう言うが、父親も母親も躊躇いが止まらない。
だが、ミラがナッパの元へ駆け寄った。
「パパ!ママ!大丈夫!早く行こう!」
ミラがそう言うと、観念したのか父親と母親も渋々ナッパの側にいるミラを二人で抱えた。
「ありがとう。ミラちゃん、ていうのかな?君のおかげで安全に助けられる確率がグッと増しました。では、行きましょう!」
ナッパがミラに感謝を伝え、三人を抱え上げた。
そして走り出す。家の外へ。
ブチ壊れた玄関から外へ出ると、辺りにはやはり魔虫の群れにまだ囲まれていた。
「くっ、殲滅は出来ていませんか」
と、ナッパが溢す。と
「「「「え?」」」」
不意に四人を浮遊感が襲った。
「ナッパ!死んでも離すんじゃねぇぞ!」
赤の雀亭の入り口の近くで待機していたデーブに四人もろとも掴まれたのだ。
それを理解したナッパはデーブの発言に嫌な予感を感じた。
「ちょ、子供もいるんですよ!?」
「知るか!行ってこい!!!」
「「「「ぎゃーーー!!!」」」」
了承の意も有無も言わせずにデーブはまた全力でぶん投げた。
「テメェらー!!!行ったぞ!!!」
デーブの馬鹿でかい声が戦場にこだまする。と
「みんな!来るぞ!力一杯引くんだ!」
「「「おー!!!」」」
デーブの投げた先には、沢山の布団を背後に構え、厚手の布を四方で引っ張った男たちがいた。
その布にナッパ達四人が突っ込んだ。
布の四方を引く男達も勢いに負けて軽く吹っ飛んでいた。
「くっ、う。皆さん大丈夫ですか?」
最初に立ち上がったのはやはりナッパ。布の向こうに用意されていた沢山の布団のクッションで無事だったようだ。
「はい、なんとか。あ!ミラ!ミラ大丈夫か!?」
「ミラ!?」
「大丈夫だよ!すっごい楽しかった!皆さんありがとうございます!」
ナッパの頑張りと布を引っ張る男たちと布団のおかげで全員が無傷で、戦線の離脱に成功した。
「デブさん!みんな無事だ!」
一般市民の一人が声を張り上げてデーブに作戦の成功を伝える。
「誰がデブだこの野郎!!!後でぶっ殺してやるからここからさっさと離れてろ!」
「また、ツンデレな。デーブさんは男前ですね」
「うるせぇ。無駄口叩いてねぇで働け」
デーブとノビルが二人で殿を務め、ナッパ達は安全地帯へと移動を開始した。
それを上空から眺める一体の魔族がいた。
「ウフフ。あの人族を生かそうと必死になってるのねェ。ゴミ風情の人族が随分と健気ねェ。邪魔したくなっちゃう」
ゲイズにペンドラと呼ばれた女魔族がそう言ってミラ達の元へ飛んだ。
「デーブさん!あれ!」
「あ?」
いち早くノビルがペンドラに気付き、デーブに伝える。
「魔族か!ノビル!どうにかしろ!」
「んな、無茶苦茶な!ドラン!」
〝呼んだかい?ノビル君〟
すぐにデーブとノビルがペンドラの狙いに気付き対応する。ノビルがドランと呼ばれた小太りの青い妖精を呼ぶ。
「頼む。いいもの出てくれよ。“フシギナポッケ”」
ドランの固有能力“フシギナポッケ”。これはランダムで何かしら便利な道具を出すというもの。
〝空気キャノン〜〟
「よし!まだ当たりだ!」
ドランの独特な声色で取り出された道具は手に装着する小さな砲。
ノビルはすぐさまそれを右手にはめた。
「ノビル!」
「分かってますって――」
距離は800メートル程。魔虫や、一般市民が壁となるが、デーブの肩の上に載っているノビルは真っ直ぐペンドラを狙えていた。遮蔽物さえなければノビルは
「——絶対に外しませんよ。“ドカーン”!!!」
ノビルが大声で空気キャノンのトリガーを唱えた。すると砲から空気が圧縮された弾が勢いよく飛び出した。
ペンドラは嗤う。ミラ一家に向かって飛んでいき八つ裂きにした後の事を考えて。
「し・ね」
まだ気付かないミラ一家達へペンドラが突っ込む。その時
「ぐっ!!」
ノビルの空気キャノンがペンドラを捉えた。圧縮された空気が一気に炸裂して、ペンドラが地面に転がる。
その時初めてナッパとミラ一家達がペンドラの存在に気付いた。
「な、魔族!?」
「ひ、ひぃ」
ナッパはすぐ様、ペンドラとミラ一家の間に立つ。
「皆さん!早く逃げてください!」
ナッパにそう怒鳴られた、ミラの父親はミラを担いで、ミラの母親はそれを追いかけ走る。
「やってくれるわねェ。人族のくせに。糞虫共がぁぁ!!!」
「なっ!」
激昂したペンドラはナッパの目からは消えたように見えた。嫌な予感を感じナッパが振り向き、ミラ一家の方へ目をやる。すると、ペンドラがミラ一家の背後で尾を構えている瞬間だった。
「や、やめろーっ!!!」
父親に担がれているミラは、ペンドラと目がしっかりと合っていた。
ミラは怯えペンドラを見る。
ペンドラはそれを満足そうに見る。
尾が振り抜かれる。
その刹那。
黒い何かがミラの目の端に映った。
その黒い何かをミラが認識した時には、既にペンドラは吹き飛んでいた。
「久しぶりだな。ミラ」
「ォ、オーカ」
オーカがこの戦場に参戦した。




