第五十九話 策は繊細
「おいおいこれじゃあキリがねぇな」
「ですねぇ」
「お二方!お話ししてないで手伝って頂きたい!」
とある三人も、魔虫殲滅に尽力していた。
並の兵士では手に負えない上級以上の魔虫も三人の連携で次々と撃破している。
「デブさん!あちらにかなり魔虫が密集しています!」
傷だらけの兵士が走ってくると、その三人に向かって大声で助けを乞うてきた。
「誰がデブだ!俺様はデーブだ!テメェから先にぶっ殺すぞ!」
「そんなことしたらシャレになりませんからね」
「デーブ殿!ノビル殿!早く次に向かいましょう!」
とある三人。
これは、オーカと共に特別枠にされ騎士選抜を三次まで受け抜いた、デーブ、ノビル、ナッパの三人であった。
「あのクソヘボ兵士のツラは覚えたぞ。後で絶対ぇヤキ入れてやる」
「はいはい行きますよ」
「これはっ、すごい数ですぞ」
三人がクソヘボ兵士の案内について行くと、ものすごい密度で魔虫が集まっていた。
数もさることながら、種類も雑多、上級以上の魔虫も中には何十体といる様な状況。それに加えてここには騎士が一人も居ない。替わりに何十人もの一般人が決死の表情で魔虫と向かい合っていた。
「おいおいどういう状況だコレ」
「簡潔に説明します!魔虫の群がる一軒の家にまだ一家三名が取り残されております!魔虫の数は約100体!近所の一般人がこぞってそれらに対応している状況!」
「なんだそりゃ。他の民家に生存者は?」
「いません!要救助者は全て避難が完了しており、戦闘が出来る一般人が周りにいるだけであります!」
「クソヘボ兵士もちったぁ仕事をしてるわけだ」
デーブがクソヘボ兵士から簡潔な情報を汲み取り、思案する。
「よし。ナッパ!今から俺様がお前をぶん投げる!着地した瞬間に思いっきりぶっ放せ!ノビル!お前はここから直線で、糞虫が集まっている一軒家の手前ビタ101mの地点の魔虫共をブチ抜け!」
「御意」
「了解」
「行くぞぉ!ポッチャ!」
〝あいあい!〟
デーブにポッチャと呼ばれた、ふくよかな妖精のガディが出現する。
「“ビッグダブリング”」
ポッチャの固有能力ビッグダブリングは術者の身体を巨大化させるというもの。
みるみる大きくなっていき、体長5メートル程となったデーブは無造作にナッパを掴んだ。
「ノビル!」
「分かってますって。“スナイプ・サンダーカノン”」
ノビルの上級雷魔法サンダーカノン。ノビルの卓越した空間把握能力と動体視力と良すぎる目で、狙った標的は絶対に外す事はない。
狙った先の魔虫を3匹黒焦げにする。
「おっしゃー!一般人共ぉ!死にたくなきゃ離れてろぉおっ!!!」
デカくなったデーブは声もまたデカくなっていた。そんな大声で周りにいる一般人に注意を呼びかけた。
そして魔虫が所狭しに蔓延る中、ノビルの空けた穴へ目掛けてデーブがナッパをぶん投げる。
だが
「デーブ殿!少し勢いが強すぎませんか!?」
ナッパはノビルの空けた穴を少し超えてしまい、魔虫と衝突した。ぶつかった魔虫は勢いのまま軽く吹き飛ぶ。
そして、その間にナッパはノビルの空けた地点へと移動し
「ジータ!やりますよ!」
“さっさと殺りやがれ〟
ナッパのガディ、ジータと呼ばれたM字ハゲのちびマッチョ妖精が、投げやりにナッパへ返す。すると、ナッパが薄らと光を発した。
そして、ナッパが人差し指と中指を勢いよく“クンッ”と持ち上げる動作をする。
瞬間。ナッパとジータの周り半径100メートル程の地面が、建物が、魔虫と共に一瞬にして吹き飛んだ。
この凄まじい威力の大爆発は、ジータの固有能力“ラストエクスプロージョン”。これは、ナッパが一時間掛けて貯めた魔力と引き換えに起こす諸刃の大爆発である。この能力を使った後、一時間はジータを顕現させる事が出来なくなるという制限がある。それを差し引いても強力な能力である事に違いはない。
「ぃよーっし!テメェら!俺様に続けぇ!!!一家三人速攻で救助だぁ!!!」
「「「「おおぉぉぉおお!!!」」」」
このエリアにいる大半の魔虫をデーブ、ノビル、ナッパの連携により殲滅した事に周りの市民の士気も高まった。
ナッパが空けた一家三人のいる一軒家までの魔虫の群れの穴をデーブが走る。ノビルは当たり前のようにデーブの肩へ飛び乗り、市民達がそれに続く。
「いやぁ、やっぱり見掛けと性格によらずデーブさんの策は繊細ですねぇ」
「テメェもうるせぇな!口動かす暇あんなら詠唱しとけ!」
「分かってますって。でも、しばらくナッパさんは使い物にならないですね」
「ありゃあアレでいいんだ!その間は俺達がカバーすんだからよ!」
地響きを立てながら走るデーブが、途中でナッパを拾い上げ一軒家まで突っ走る。ノビルは周りから迫る魔虫を魔法で撃ち抜き援護をする。
「ナッパお疲れさん!お疲れのところ悪りぃがまだイケるか?」
「当然です!その為に鍛え上げたこの身体!魔力がなくとも問題ありません!デーブ殿指示を下さい!」
「ギャハハ!そりゃ頼もしい!じゃあ一家三人担いでまた出て来い!そしたらまた拾ってやる!」
「え?どうやってあそこまで、って、またですかー?!」
迫りくる魔虫がまた一軒家までの道を塞ぎ切る前にデーブはナッパを掴みぶん投げた。
「うわぁ。容赦ないですねぇ」
「うるせぇ!働かねぇならお前もぶん投げるぞ!」
「――“スナイプ・サンダーカノン”!!!」
「それでいい!ギャハハ!!!」
そして、デーブの情け容赦の無い投擲に使われたナッパは見事一軒家に到着……もとい玄関をぶち破りながら突っ込んだ。
「くぅぅ、痛たた。これでは後でノビル殿に酒を奢ってもらわねば割に合いませんな」
小言を言いながら辺りを探し始めるナッパ。どうやらこの民家は食堂のようだ。テーブルが並べられ、奥に広いキッチンがある。
「誰かいませんかー!?助けに参りました!」
ナッパは大声を上げながらキッチンに入ると、一人の男性が物陰から出てきた。
「良かった!無事ですな!?」
「はい。でも、周りにまだ化け物達が」
「何、大丈夫!我々にお任せください!三人いると聞いたのですが、他のお二方はどちらに?」
「アイシャ!ミラ!出てきなさい!助けが来てくれたよ!」
ここは赤の雀亭。
怯えながらミラとミラにそっくりな母親が物陰から出てきた。




