第六十一話 全て殺す
「クフフ。これはすごいですねぇ」
バーベルの目には熾烈な猛攻を繰り広げるパルキアが映っていた。
中空に浮かび、杖を振るう度に様々な魔法がゲイズを襲う。
時には火の槍が、時には風の刃が、時には土の槌が、時には氷の弾丸がゲイズを嬲る。
それを行うパルキアは無言で無表情。ただ作業を淡々と進めるように杖を振るっていた。
「この時代にもまだこんな面白い人族がいたんですねぇ」
バーベルは楽しそうにそう言った。
オーカとパルキアという人族を見ての発言。
オーカは異世界人ではあるが、この世界での存在は人族である。多少の補正はかかっても出来る事は人族の出来る範囲での事。
パルキアはガディを使い、アーティファクトを使い、魔法を使う純粋なライフの人族。
この平和な時代にまだ、こんなにもバーベルをくすぐる存在がいる事を嬉しく感じているようだ。
「ですが、彼はそんなに甘くありませんよ」
ゲイズはパルキアの魔法を全て受け止め、なされるがままだった。誰の目にもそう見えていた。
だが、現実は違う。
痛ぶられているだけに見えたゲイズの触腕が光った。その場に臥せる者達をそう至らしめた時と同じように。
するとパルキアは杖を振るうのをやめて、不可視のゲイズの攻撃を見切り避けた。
「素晴らしい」
パルキアの魔法が止まり、ゲイズが唯一顔についた一つ目を細めて言った。
〝おかしな攻撃をするね〟
パルキアの肩に乗っているリーシャがゲイズの攻撃を見て言った。
「貴様らほどでもないだろう」
〝なんかしらの固有能力だね。さっきからパル君の魔法も当たってないし。どんなカラクリなんだか〟
魔族はガディと同じように固有能力を持っている種族である。
ゲイズの固有能力がなんであるかはリーシャにもまだ分かっていない。その為、パルキアへの助言のつもりでそう言ったのである。
「リーシャ少しうるさいよ」
口を閉ざし続けていたパルキアが口を開いた。だが、表情は相変わらずなんの感情も持たせてはいない。
「その蛇は貴様のために言ったのであろう?怒りすぎて敵味方も分からなくなったか?」
嘲り笑いながらゲイズがパルキアを煽る。
「君には喋るなと言った筈だけど」
「ふっ。我に命令出来る、っ」
ゲイズの言葉を遮りパルキアは杖をゲイズに向けた。
すると、ゲイズの周りをバチバチと激しい音を立てて次々に火花が散り始めた。
その火花がゲイズに触れた瞬間、激しい白い閃光と共に火柱がゲイズを包んだ。
火柱の中に閉じ込められたゲイズは喋る事はおろか呼吸すらできる状態ではない事が容易に想像出来る。
パルキアは力尽くでゲイズの言葉を止めたのである。
火柱がまだ立っている状態で、続けてパルキアはまた杖を振るう。
今度は火柱の周りを猛烈な突風が吹きつけた。その突風は徐々に指向性を持ち始め、ゲイズを火柱ごと丸い風の円の中に閉じ込めた。円になった後も突風は緩むどころか、その激しさを更に強め、炎と共にゲイズを痛めつけていく。
そして更にパルキアは杖を振るう。と
〝パル君。うるさいと言われる事を承知で言うけど、少し落ち着いた方がいい〟
「…………」
リーシャの言葉を無視してパルキアは魔法を発動する。杖から次々と岩が射出されていく。向かう先はやはり、炎の突風に包まれたゲイズへ。何発も打たれた岩は突風に砕かれ、細かくなりながらその円の中に加わる。
〝この状況で君がそんな状態でどうするんだよ〟
「この状況ってどの状況?」
パルキアはゲイズから目を離さずにリーシャに問う。
〝分からないのか?この国が今どうなってるのか〟
「僕からすれば父と母が殺され、その殺した張本人が目の前にいる。それが今の状況だよ」
パルキアが歯を見せてそう言った。憤りという感情が初めて表情に宿っていた。
〝君が今どういう気持ちなのかは分からない。僕はガディ。家族なんていないからね〟
「…………うるさい」
〝でもその気持ちを整理するのは今じゃない〟
「うるさいっ!」
感情が露骨にパルキアの表情に乗せられる。
〝残された家族はまだいるだろう。アリア姫を見てみなよ〟
そう言われたパルキアはハッとして雷の牢獄に囚われているアリアへ目を向けた。
止めることの出来ない涙を流しながら、悲壮の表情でパルキアを見上げていた。
〝彼女は今どうしたらいいか分からない。そしてどうすることも出来ない。だけど君はどうだ?〟
アリアを見つめたままパルキアは動かず黙ってリーシャの言葉を聞いている。
〝君にはやるべき事がある。そしてそれを実行するだけの力がある。そんな君が今この状況で何をしてるんだと僕は聞いてるんだよ〟
「あ、あぁ……っ」
パルキアはリーシャの言葉を聞いて涙を流し頭を垂れた。
今まで堰き止めていたものが取り払われ、壊れた蛇口の様に目と鼻から心の滴が吹き出していた。
それと同時に魔法が切れ、ゲイズが解放された。
その姿は全くの無傷。
「素晴らしい魔法であったな。全て貴様の独創魔法であろう。その魔法の才は並の魔族を凌駕するものだ。故に惜しいな」
何事も無かったかのようにゲイズはパルキアを称賛した。
ゲイズの言う独創魔法というのは合っていた。今までパルキアが行使した魔法は全てアドリブのオリジナル魔法。
通常、魔法を独自で創作することなど不可能である。どんなに魔法の結果を想像したところで、構築、詠唱、発動の全てを作り上げるなど人の一生をかけて作れるかどうかというもの。
だが、それを可能にするのが“天杖グラフローレン”とリーシャ、それにパルキアの弛まぬ努力があってこそである。
その才能を確認する為にゲイズは敢えてパルキアの攻撃を全て受け切ったのであった。
〝パル君…………〟
リーシャが肩の上から長い胴を伸ばしてパルキアの顔を覗き込む。
やはりパルキアの涙は止まっていない。
「……リーシャの言いたい事は分かった。だけど今は何も考えられないよ」
それでもパルキアはリーシャに答えた。
そして、杖が鈍く光り始めた。
〝っ!、パル君、杖に魔力を込めすぎだ。このままじゃ「リーシャ」、〟
パルキアは涙を流したまま、顔を上げてリーシャの言葉を遮る。その間もみるみる杖の光が強くなっていく。
「分かった上で言うよ。僕に従え。アイツをっ、魔族共を全て殺す」
決意、怒気、哀愁、色んなものがない混ぜにされた眼差しで強くリーシャに宣言した。
リーシャは一瞬悲しそうな表情をした後、
〝…………御意〟
短く了承の意を主人に伝えた。
そして
「“雷蛇の癇癪”」
パルキアの口から無機質な声音で呟かれた魔法。
突如、皇居室内に雷電の巨大な蛇が現れた。
暴れる雷蛇は獲物を見つける。獲物を見つけた雷蛇は大口を開けて飛びかかる。
雷蛇はゲイズを喰った。
それでも尚、雷蛇は暴れ続けた。
パルキアの代わりに。
雷蛇は猛々しく鳴いた。
パルキアの代わりに。
そして皇居室は雷蛇の癇癪に耐えきれず崩れ落ちた。




