第五十七話 招いた魔族
なんなんだこいつら。
殺しても殺しても全く減らねぇ。もう何匹殺したか分かんねぇぞ。三十?五十?とにかくキリがねぇ。
「オーカ君!次はこっちだ!兵士と一般人しかいないところに上級以上の魔虫が二匹もいる!」
「うるせぇな。テメェも兵士だろ!働けよ!」
クソが。
最初に助けたマックスとか言う兵士が俺を呼ぶ。言われた通りの方へ仕方なく跳ぶ。
「私は君の様に強くない!」
「んな事威張って言ってんじゃねえ!」
「皆さんこちらへ!後はこの人がどうにかしてくれます!」
「クソッたれ」
クソ虫二匹と応戦していた奴らの間に割って入ると、マックスが後ろの方で避難誘導している。
今度はなんの虫だ?とりあえずデケェな。
「ま、関係ねぇけどな」
先に俺に襲いかかってきた虫を、跳んで躱して力一杯殴る。
それだけで顔面が潰れて体液を撒き散らかす。そのまま、もう一匹のクソ虫の懐へ入って、力一杯蹴り上げる。それだけでハラワタをぶちまけて倒れる。
弱い。
いや、俺が強いんだ。
この兵士達もそれなりの訓練を積んでる筈だ。俺と違ってガディもいるんだろうしな。
それでも歯が立たない。このクラスの魔物に。
それだけ俺は強くなったんだ。
だけど、それでも。
あのバーベルって奴は段違いに強かった。
どれだけの研鑽を積んで、どれだけの人間を殺したらあぁなれんだよ。
それに比喩表現やなんかでは無く、アイツは本当に人間じゃなかった。
アイツ自身が言ってたが戦闘でガディを使わない人族はいない。
これは裏を返せば、アイツが人族じゃないとも言える。
「オーカ君!次はこっちです!」
そして、そんな奴が現れたこのタイミングで、このクソ虫共。
状況的に考えれば、この国を狙った他種族の奴が、選抜試験に潜り込んだ。
問題はなにが狙いなのか。
スクエラへの侵略?
「でけぇアリンコだな。死ね」
だとしたら、戦力が中途半端だな。スクエラの侵略、征服を考えるなら、魔虫だけに頼らず、もっと知略的な奴らがいてもいいだろう。
じゃあなんだ。
何かを奪いにきた?
だとしたら規模がデカすぎるな。
ざっと見た感じシカク全域、ないしもっと広くにクソ虫が散りばめられてる。
何かを奪いにきたのなら、皇城のモノだろう。それにしては目に見えて皇城に、魔虫が群がる様子はない。
魔虫が城下に撒かれたのならば、その狙いは揺動。多分これは間違いない。
そう考えれば、やはりこの首謀者は皇城に用がある。そして、その計画を滞りなく完遂する為に魔虫を揺動に使った。
そう考えれば皇城に魔虫が群がらない理由も説明がつく。
「オーカ君!今度はこっちです!」
俺が目指さなきゃならないのは皇城か?
それともこのままクソ虫の殲滅を優先か?
「気持ち悪りぃな。ムカデかよ」
パルキアは皇城。
アイツなら、多分俺には城下の殲滅、ないし救護者の救助を望む。
ジジィなら、同じか。
じゃあしばらくはこのまま
「オーカ君!」
「テメェさっきからなんで俺ばっかにやらしてんだよ!ムカデはともかくあのアリンコはテメェでもヤレただろ!」
「無理だ!私は弱い!」
「だから威張ってんじゃねぇ!」
コイツの誘導通り動くのがベスト。
今は俺がこの世界の人間じゃねぇとか、うだうだと悩んでる場合じゃねぇ。
◆◇◆◇◆◇
メリートリス視点
「ここですね」
「…………」
皇城二階軍務部室。
ここに、件の首謀者イディオがいる。
ダルイスさんが気を引き締めろと言っている。中には恐らく、イディオの私兵が何人もいるだろう事はダルイスさんも分かっているからでしょう。
こんな無言での気遣いが私をドキっとさせるけど、今は集中しないと。
逃すのはもってのほか。捕縛して、どうにかこの状況を打破させる。
一つ大きく深呼吸して、扉を開ける。
扉を開けると、一つの大きなテーブルを囲んだ二十人近くの兵とイディオが一斉にこちらを向いた。
「おぉ。ダルイスか。ふんっ、その腰巾着の様子を見るに、何やらいらんことに気付いたようだな」
「何を抜け抜けと!お前もこれで終わりだ!」
「黙れ小娘。ワシはダルイスと話しておるのだ。ダルイス。どうだ、ワシに付かぬか?今までの事はそれで水に流そうではないか」
この豚ガエルめ!馬鹿にして!
「有り得ん」
「ふんっ。そうだろうな。貴様はそう見えて義に厚い男であった。で、あれば好きにすればいい。だが、ワシに手を出す事はお勧め出来んぞ」
「宮廷貴族が私達騎士を舐めるな!お前ら如き私一人で充分です!」
舐めすぎです!
アーティファクトの“嵐扇”を構えてセレナを呼び出そうとすると、ダルイスさんに無言で静止させられた。
「聞かせろ」
「なっ、!ダルイスさん!?」
何を言ってるんですか?!
「全く。貴様はいつも言葉が少なすぎて敵わぬ。何をじゃ?」
「ダルイスさんは『その余裕は一体どこから来る?お前が俺を欲しているのてあれば、その意図を聞かせろ』と仰ったのです」
「クヒヒヒヒ。そうか。いいぞ。教えてやる。では、ワシのガディは知っておるか?」
イディオのガディ?
宮廷貴族のガディなんて諜報担当の私達でも、いちいち調べたりしない。宮廷貴族は基本戦うこともしなければ、皇城外に出ることも少ないから。
ただ、イディオは外交などで国外へ出ることがたまにあるから、近衛騎士に戦力把握のために教えていたはず。
確か、フェアリークラスのガディだった。だから、イディオのガディに出来ることなんてたかが知れている。
「クヒヒ。ワシのガディはモウス。フェアリークラスの毒蛾じゃよ」
毒蛾、だと。
ガディの中で毒を持つ生き物というのは非常に稀だ。よりによってこんな奴に。
「ワシのモウスはな。長年自らの毒を繭に溜め込んでおるのだ。その意味は分かるか?」
「で?」
「ダルイスさんは『勿体ぶるのは止めろ。それで?』と、仰っています」
「その毒は遅効性でな。その毒にかかった者は長い時を苦しみ、いずれ絶命する。だが、ワシはその毒を解毒する事ができる。ワシのみがな。更に、繭に溜めた毒はワシが起爆するか、ワシに危害を加えた瞬間にモウスが自動的に起爆する手筈になっておる」
最悪だ。
その繭の毒爆弾がどこにあるのか分からない。場所なんていくら尋問しても吐くはずがない。
ここから離れて毒爆弾を探しに行けば、恐らくイディオが起爆。
だからといって、イディオを叩けばモウスが爆弾を起爆。
どうすれば。
「大人しくここにいればいい。そうすれば毒にかかることもない。ワシは自分で招いた魔族を、頃合いを見て自ら殺す。その為の繭なのだ。念を押してその毒の範囲はシカク全域に及ぶが、なに、ワシが全てを救うてやるわ」
なるほど。
これも狙いか。
この毒を魔族側のせいにして、それを救うイディオ。その称賛で手に入れる絶対的権威。
下衆め。
だが、この状況を打破する事は出来ない。
流石と言うべきか豚ガエルめ。




