第五十六話 本気で行く
皇居室
「やはり、あやつが」
伝令を受け、ジャルジアが顔を歪ませそう溢した。
「やはり、ですか?以前からイディオ殿に何かしらの疑念をお持ちだったのですか?」
リヒトがジャルジアの言葉に引っ掛かり質問する。
「うむ。信じたくはなかったが、その可能性が高いと、ゼルの奴に言われておってな」
「ゼルバトス様が……数年前に突然ボケられ、表舞台から去った事は、俺も訝しんでおりました。何かを探られてたのですか?」
「うむ。アリアの事でな。無理言ってゼルに内部を探らせておった」
ジャルジアがゼルバトスにしていた密命とは、内部調査であった。
ゼルバトスは独自の情報源から、神子であるアリアの身に危険が迫ることを察知した。その旨をジャルジアに伝えると、古い旧友として、ゼルバトスを頼ったのである。
そうしてスクエラ内部を追求していくと、イディオの怪しげな動きにゼルバトスは気付いた。
だが、いくら何処を探しても証拠が出なかった。
「何故イディオ殿はこんな、事を」
「ゼル曰く、あやつの狙いは皇位。歪んだ構想を持って、儂を陥れ次期皇をブーヤの血筋から外す事が目的なのじゃろう」
「そんな……では、何故魔族がそんな事に協力を」
「それがアリアじゃ。北の尖塔にアリアがいる事はイディオも知っておる。敵は魔族。エルフの結界をも壊せる術もあるやも分からぬ。だから敢えてアリアをここに連れてきた」
「神子の力、ですか」
イディオの狙いに、厳しい現状に、皇居室にいる誰しもの顔が暗くなっていた。
「しかしご安心を!我々がここに居る皇家の方々には指一本触れさせませんよ!」
そう言って気丈にリヒトは笑った。
「そうです!リヒト様がおります!」
「我々も伊達にリヒト様の鍛練に耐えてきたわけではないのです!」
「違いない!高々魔族の二体なぞ、我々だけで充分ですとも!」
団長の笑顔に金糸雀騎士団の面々はつられて笑う。自分たちの団長がそう言って笑っているのだ。何も問題ないと。
そうやって笑う騎士たちに、アリアや皇妃も表情がすこし安らぐ。
だが、ジャルジアの表情だけは変わらず優れなかった。
それを見た、リヒトはジャルジアに近づく。
「陛下。大丈夫です。ダルイスもすぐに来ます」
「いや、ガルシアが心配でな。あやつのガディの力があれば問題ないとは思うが」
突如、皇居室の入り口が綺麗に消えた。
「「「!?」」」
「なっ!」
皇居室に居る人間がそれぞれ驚愕し、扉ごと真四角に穴が空いた場所を見る。
そこには
「お前が神子か」
目玉だらけの魔族がアリアを見つけそう言った。
「金糸雀騎士団!陛下達を囲め!」
「「「はっ!」」」
リヒトの指示は迅速であり、部下の金糸雀騎士団員達も的確に命令に従った。
「お前、一人か?俺はリヒト!リヒト・ブライトネスだ!名乗れ!」
リヒトの問いに、目玉の魔族、ゲイズは顔に唯一ついた大きな目を細め間を置いて
「それは、必要か?」
顔には一つの大きな目しかないのにも関わらず、心底不思議そうにゲイズが言った。
その瞬間、リヒトは憤怒の表情でゲイズに向かって突貫した。
愛剣アロンダイトを大きく振りかぶって斬りかかる。
が、ゲイズが触腕を翳すと不可視の波動の様なものにリヒトの剣が止められた。
「怒っているのか?」
「気にしなくていい。俺が討伐する魔族の名を知りたかっただけだ!シュナイダー!」
〝はい〟
リヒトはガディを呼び出し、ゲイズから改めて距離を取った。
「本気で行くぞ。エボルシオン!」
シュナイダーが光の粒子となり、リヒトのアロンダイトへ吸収されていき、リヒト自身が強く発光する。
光が収まると、リヒトの両腕に自身の身長よりも大きな大剣が付いていた。
それは剣を握ってるわけでは無く、実際にそれぞれの腕に剣が生えているのだ。
「ラストホープ!」
更にシュナイダーの固有能力”ラストホープ”により、身体能力が爆発的に上がる。
「我を討伐、か。冗談にもならんな」
「あぁ!笑わせようとなんてしてないからな!行くぞっ!」
そう言ってリヒトは両腕で自身を抱く様に構える。魔力が目に見えて両腕の大剣に集まる様に青白い光が強くなっていく。
そして、リヒトが好戦的な笑みを浮かべた。
「”グローリークロス”!!!」
リヒトは叫ぶと、身体を抱く様に構えた両腕の剣を一気に開放した。
すると、青白く光る大きくクロスした斬撃が皇居室の床を抉りながらゲイズを襲う。
「「「おおぉぉぉおお!!!」」」
「やった!」
「流石団長だぜ!」
骸になったゲイズを隠す様に抉れた床の土埃が上がり、徐々に収まっていく。
ゲイズが自ら開けた穴の向こうの壁は、クロスした斬撃がそのまま刻まれ城外が見える。
誰しもが、ゲイズの死を疑わなかった。
だが、土埃の中で何かが複数光った。
すると、音を立てて皇居室内の人間が次々に倒れていく。
その中にはリヒトもいた。
「やはり、報告の通りレベルが低いな」
土埃が完全に晴れると、無傷のゲイズが触腕を広げて立っていた。
「な、にが」
「お母、様?」
立っていたのは二人。
ジャルジアとアリアだけだった。
「なに、簡単な事だ。見ての通り貴様ら以外死んだだけだ」
圧倒的。
スクエラ皇国の精鋭、金糸雀騎士団が何もできずに瞬殺。
団長リヒトすら、なにが起きたか分からないままに死亡した。
「そんな、馬鹿な。こ、ここまで、とは」
「お母様ぁぁああ!!!」
泣きじゃくるアリアを背後に庇い、ジャルジアは息を呑んだ。




