第五十五話 機嫌が悪りぃ
城下
街ではスクエラ兵士が騎士と合流し、隊列を組んで城下にいる魔虫の殲滅に尽力していた。
その中でも、パルキアから鼓舞を受けた兵士や騎士は異常な奮戦を見せていた。
「うぉぉお!!!死ねぇ虫畜生共ぉ!!!」
「殿下にばかり仕事をさせてなるものか!!!」
「パルキア殿下が我々に期待してくれている!これに応えずしてスクエラ兵を名乗れるかぁ!!!」
「「「うぉぉおおおお!!!」」」
このパルキアに鼓舞を受けた、極めて高い士気はみるみるスクエラ全兵に伝わり、徐々に魔虫を圧し始めていた。
更にパルキアの鼓舞は兵や騎士以外にも広がっていた。
兵士の奮戦を目にした一般人もその戦禍に加わったのだ。
この世界の人族の大人はガディとアーティファクトを100%所持している。その為アースの一般人は戦闘教育を受けずとも、単純に強い。
数は暴力である。
千数百体の魔虫とは言えどシカクの住民は述べ千五百万人。戦いに参加する人間が仮に1%だったとしても一万五千人になる。戦闘に疎い一般人でも、例えるなら様々な銃火器を所持した人間が一万五千人という事。
その為こアースではガディ、アーティファクトに対しての法律が事細かに定められている。無論、街中での許可の無い人間はガディを使用出来ない。
だが、この時。
「スクエラ皇国民よ!シカクの住民よ!我々の国!街を!こんな虫風情にめちゃくちゃにされてなるものか!?断じて否だ!皆!武器を持て!勇気を持て!我々と共に武勇を掴もうぞ!スクエラの栄光は我々の手で守るのだ!」
非常事態防衛措置法が適用された。
スクエラの騎士がそう触れ回った事により、騎士の指示に従いながら一般市民も戦いの渦に参加していったのである。
だが、中には上級以上の魔物も混ざっている。
兵士や一般人では、碌にダメージを通せず結果として魔虫に軍配が上がってしまう状況も増えていった。
「クソが!俺たちの攻撃じゃビクともしねぇ」
「仕方ない。切り替えるぞ!騎士様方が来られるまでは非戦闘民たちの救助、安全地帯への誘導を最優先として動くぞ!」
「「「了解!」」」
そうして少しづつ救援部隊が増えていき、魔虫に襲われている者や、崩落した建物に閉じ込められた者などの捜索、救助が優先して行われていった。
そこに崩れた外壁に埋もれている少年が発見された。
「大丈夫か!?今助けてやるからな!安心し…………」
すぐさま兵士が少年に駆け寄り言葉を掛けるが、兵士の言葉が途中で止められる。視線の先には全長四メートルはあるカマキリ型魔虫がこちらを見ていた。一目見た瞬間に上級以上の魔物だと分かる程の威圧感に
「嘘だろ。おい」
と、一言を吐き出し、兵士はその場で立ち竦んでしまった、
まさに蛇に睨まれた蛙。カマキリに睨まれた餌と言える。
目を離す事も出来ず、ピクリとも動けないでいた。当然カマキリ魔虫は目の前の餌に襲いかかる。死神の鎌と同意の右腕で、音を切りつつ兵士に斬りかかった。兵士は走馬灯でも見ているかの様な、諦念の眼差しで切り裂かれるのを大人しく待っていた。
「……なっ!」
が、兵士を襲った衝撃は、背後からの蹴りであった。兵士はそのまま前のめりに倒れ、カマキリの鎌から回避された。何が起きたのかと背後へ視線を向けると、その瞬間に何かが飛び跳ねて、カマキリの顎を爆散させる瞬間だった。
その何者かが静かに着地して、兵士に振り向くと。
「助ける側が助けられてどうすんだ馬鹿野郎」
それは、今兵士が助けようしていた少年であった。
だが、この時兵士はそれに気付かない。何を言われたのかも理解していなかっただろう。
なにより、兵士は必死だった。
自分が生きる事よりも、敬愛するパルキア殿下の頼みを全うする事に。
そして
「頼むっ!助けてくれ!この街を!この国をっ…………」
それだけを考え、通常こんな少年に対して言うはずのない言葉を恥ずかしげもなく言い放った。
言われた少年。
つまり、オーカはその言葉を聞いて辺りを見回す。
「あぁ〜、なんだ。確かにグダグダ考えてる場合じゃなさそうだな。俺が言うのもなんだが、あんたも働けよ」
こうして、オーカのスクエラ騎士としての初日の仕事は急遽として迎えられる事となった。
そうこうしているうちに、兵士では手も足も出なかった上級以上の魔虫がわらわらと集まってきた。
それを見た兵士は短い悲鳴を上げ尻餅をついたまま後ずさるが、オーカはニヒルに笑う。
「さて、俺は今最っ高に機嫌が悪りぃんだ。出来るだけ俺の発散に付き合えよ。クソ虫共」
そんなヒールな発言を悪意に満ちた目つきで言い放つのは、この物語の主人公である事を改めて明言しておくとする。




