第五十話 夢の先で
「いつまでそうしてる?次が来る。行くぞ」
「あぁ」
俺をここまで連れてきたモブ騎士に先導されて、また皇城の廊下を歩く。
こんなモブ野郎でもガディはいるんだよなぁ。そう考えると嫉妬しちまう。ガディさえいれば、この二年間もっと楽に修行が進んだはずだしな。
マジで地獄だったからな。ガディは来なかったが、アーティファクトは出てきた。それはいい。それはいいんだが、使い方がマジで難しすぎだ。使い方自体は、あの変な夢を見て以降不思議と分かった。だが、実際使いこなせる様になるまで散々だった。
形が上手くまとまらねぇわ、まとまったと思ったら今度は機能しねぇ。ひたすら練習して機能する様になっても、戦闘中、咄嗟に使おうとすると、また上手くまとまらなくてラナにフルボッコにされて。
とにかく慣れるまでクソしんどかった。
それが、ガディさえいりゃ自ずと使い方が分かって、こんなに苦労もしなかったって話だ。俺からすりゃガディがいる奴の方が狡りぃとさえ思える。
パルの奴はどうしてっかな。この二年間、アイツも頑張ってたんだろうしな。
俺より強くなってねぇだろうな。
「ん?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
※パルキア視点
「ふぅ。疲れましたね」
「殿下は働きすぎです。少しお休みを取られた方がよろしいのでは?」
「そうですぞ。今や少しばかり手を抜かれても殿下の優位は揺るぎませぬ」
確かに少しくらい休んでもいいのかもしれない。でも、そうも言ってられない。次、ガルシア兄さんがどういう動きをしてくるか分からない。まともに戦って勝てるという保証が無い以上、サボってる暇はないんだ。
「じゃあもう少し頑張ったら考えてみようかな」
「全く。殿下には敵いませんね。これでは我々も休むに休めないではないですか」
「はっは!然り然り。だが、だからこそ我々は殿下に着いていくのだ。次の茶会にいるガルシア派にも分からせてやろうぞ。殿下、情報の方は叩き込めましたかな?」
「もちろんです。今日の茶会の狙いはユージュン子爵とフダイン男爵のお二方」
昨日から徹夜で、この二人の情報は頭にしっかり入れた。
ユージュン子爵とフダイン男爵は二人とも若く、ご近所領主と言うことで比較的仲がいいみたいだ。それにお互い色々と困っている様子。
ユージュン子爵は稲作が盛んなドッチ領の領主。だが近年は害虫被害等に悩まされて、ロクに対策を立てられておらず、領民から強い反感を買っている。それも、先代の領主が早くに亡くなってしまい、ユージュン子爵は齢十八で跡を継いだ。
その為、ユージュン子爵は農業や内政など、まるで分からない状態で困っているんだろう。
フダイン男爵はドッチのすぐ南にある、ツカズ領の領主。ツカズはシカクとアキナールの中継地にあり、古くから宿屋街として万人にかなり重宝されている。その為、基本的には放っておいても領民が勝手に稼いでくれるので徴税には困らない領らしい。ただ、最近はフダイン男爵自身にキナ臭い噂が立っている。ギャンブルにどっぷりハマり、裏組織に弱みを握られているとかいないとか。
この辺を突いて反応を見てみようと思う。
我ながら悪どいもんだなぁ。なんか少し兄さんみたいになってる気がする。兄さんは今頃何やってるんだろう。
「あの二人の籠絡は殿下であれば最早容易でしょう」
「左様。今やあの二人がガルシア派にいる旨味は無かろう」
「まだどうなるか分かりません。向こうにはイディオがいますから」
そう。イディオ大臣。
この人は本当に何を考えているのか全く掴めない。一つ言えることは、ガルシア兄さんを確実に皇に押し上げようとしているという事。だが、最近はこちらへの嫌がらせも牽制も無くなった。何か他に狙いがあるのだろう。政治の裏で何か手を回されていたら正直僕に勝ち目はないと思う。
「なんの!こちらにはレイナード殿が居ります」
「そうです。レイナード殿は本当に頼りになりますからな」
レイさんは本当に心強い味方だ。すごい忙しい人の筈なのに、少しの時間を見つけたら僕のところに来てくれる。アドバイスをくれたり、魔法の修行を見てくれたり、気さくに僕の心にゆとりを与えてくれる。あの人がいなかったら僕はここまで頑張れていないだろうな。
「そうですね!うん!頑張りましょう!」
「その粋です」
「我々もレイナード殿に負けず、殿下に頼りされるよう頑張りましょうぞ」
そんなやりとりをして廊下の角を曲がる。すると前方から二人、こちらに歩いてくる。一人は騎士、もう一人は変な格好してるな。
「え?に……兄さん」
兄さんだ。
あの目つきの悪さ、ひねくれた性格がよく出た表情、おかしな格好をしてるけど間違いない。
なんで、兄さんが。
そうか、騎士選抜。
兄さんは騎士選抜を受けてたんだ。
どうして兄さんが騎士に?
いや、理由なんて決まってる。多分僕の為だ。あの一件以降、兄さんも考えたんだ。どうしたら僕達がまた、あの幸せな日々を取り戻せるのか。
兄さんの答えが、騎士になることだったんだ。
兄さんはいつだってそうだ。出会ってからずっと。僕やミラちゃんの為に考えて行動してる。
僕が悩んでた時も、ミラちゃんが狩りに行きたいって言った時も。いつも、僕達の為になるように話して、動いてくれてた。
だから僕も、元々の兄さんの様なスラムの人でも平民も貴族も王族も、分け隔てなく手を取り合える国にしたいと思った。
だから、そんな国に変えられる様な、優しい皇になると決めた。
兄さんはあの一件で、きっと僕が皇子だってなんらかの情報で知ったんだ。そして、兄さんは僕が皇を目指すと思った。だから騎士になる事にした。僕を側で支えられる様に。ミラちゃんも守れる様に。
やっぱり、兄さんはすごいや。
声を掛けたい。
話がしたい。
今まで僕はこんなに頑張ってたんだよ。この僕が、僕のくせにこんな事まで出来るようになったんだよ。兄さんは?今までどうだった?たくさん苦労もしたんだろうね。
そんな風に笑って話しがしたい。
でもどうやって話しかけたらいいんだろう。
そんな事を考えてるうちに兄さんはすぐ目の前まで来ていた。
そしてすれ違う、その瞬間。
「まだだ」
一言だけ置いて兄さんは僕の背後へ去っていった。
まだだ。
とても短い言葉。たった三文字の、あまりにも不器用な兄さんの言葉。
だけど不思議と理解出来た気がする。
まだ、言葉を交わす時ではない。
まだ、お互いに達成出来ていない。
まだ、互いに顔を合わせられる程の力を得ていない。
兄さんらしいや。
ここで話をしたら、また僕は兄さんに甘えてしまう。だからこれでいい。
「殿下、今あの者に何か言われたようですが」
「いや、なんでもないよ」
今はこれでいい。僕が皇戦に勝って兄さんが騎士となるその時までは。
その時にゆっくり話をしよう。今までの二年のこと。
なにより稽古がキツかったなぁ。先生が先生だったから。
〝呼んだ?〟
「呼んでないよ」




