第四十九話 変な夢
俺は“叡智の泉”から転移して、さっきまでいたドラゴリア邸の地下に戻ってきた。そこには、ジジィとラナが待っていたんだが、帰ってきて早々俺の傷を見るなりてんやわんやだった。
「全く、なんでGBFというめでたい日に血塗れになって帰ってくるんじゃ」
「だから、なかなかガディが出てこねぇから血が足りねぇと思ってやったんだよ」
「やはり馬鹿ですね。一度くらいなら平気だと思って中に出す馬鹿と同レベルです」
「なんかよく分かんねぇけど多分違ぇからな!」
そんなやりとりをしながら止血をしてもらった。
「そんな怪我までしてガディは手に入らなかった、というわけじゃな」
「あぁ。理由は、謎に俺がマナに嫌われてるから。っていうのが俺の見解なんだが」
「うぅむ。恐らく間違っておらんじゃろうが、よもやガディも付かぬとはのぅ」
やはりそうか。それ以外には考えられないからな。そうなると、ガディ、魔法抜きで騎士になり、成り上がらなきゃならない。
控えめに言ってかなり難儀だな。
「で、手に入れたのがその黒光りした大きな玉という事ですか」
「それは、泉から湧いたのか?それとも中空に顕現したのかの?」
「いや、落ちてた」
「「は?」」
「あ?」
二人とも俺を馬鹿みてぇな面で見てしばらく固まる。
「童貞。残念ながらそれはただの黒光りする石です」
「うむ。アーティファクトには幾つかの現れ方があると聞くが、落ちていたなど聞いたことがないのぅ。恐らくそれは」
「ただの石、か?いや、ジジィ。これは間違いなくアーティファクトだ。なんつーか、上手く言えねぇけど、何かを感じんだよ」
足元に転がってるこの玉を見つけた時、確かに何かを感じたんだ。見たこともねぇし、知りもしないのに、なんか懐かしいもんを見つけた感覚。手に取った時、俺の一部を取り戻した様な不思議な感覚。
この玉は俺のもので然るべきだという確信さえある。
「じゃがの。それの使い方は分かるまい」
「使い方?」
「通常アーティファクトはガディと共に現れるのです。そして、アーティファクトを手に入れた時、ガディがアーティファクトの使い方を当人の脳内へ直接ブチ込むのです」
「左様。仮にそれが本当にアーティファクトだとしても、ガディがおらねば使う事が出来なんだ」
この玉の使い方か。
なるほど、全く分かんねぇ。
「使い方が分かんねぇなら試してくしかねぇだろ」
「それが本当にアーティファクトなら、ですがね」
「形状を見る限り属性石や、魔石ではなさそうじゃからのぅ」
「その属性石とか魔石ってやつならどう使うんだ?」
「魔力を込めるんじゃよ。そうするとガディの持つ魔法や特性なんかが使えるようになるんじゃ」
魔力を込める、か。
黒い玉を持つ手に魔力を集める。そこから、玉に送り込むイメージ。
「「…………」」
「違うな」
じゃあ次はどうするか。
割ってみるか。
玉を持つ右手に思いっきり力を込める。が、割れねぇな。
それなら
「ふんっ!」
「お、おい!」
地面に思いっきり叩きつけるが、それでも割れない。拾い上げてみると傷一つ付いてねぇ。
次は、地面に玉を置く。
魔力纒身
「ふんっ!」
「何をしとるんじゃ!」
やっぱり割れねぇ。
硬さだけは半端じゃねぇな。
また拾い上げて、今度は舐める。
うん。無味。そして何も起きない。
今度は振ってみる。何も起きない。
今度は口に入れて
「オーカ!もうやめておけ!今度は吞み込むつもりじゃったのか!そんな物吞み込めるわけなかろう」
「じゃあ他になんか案はねぇのかよ」
「呪文や詠唱で発動するケースもあります」
呪文や詠唱、か。
「――例えばどんな?」
「知るわけないでしょう」
「使えねぇな」
「なんか、試しに言ってみたらどうじゃ?」
試しに、つってもな。
「開け、ごま……解き放て黒い玉…………なんか起きねぇと本気で壊すぞ?……マジで壊すぞ馬鹿野郎――」
「「……………………」」
「そんな可哀想な人を見る目で俺を見てんじゃねぇ」
「オーカ、今日はもうここまでにしておかぬか?明日また儂も改めて考えてみよう」
「これ以上は見るに耐えませんからね」
そうして、今日の所はこれで終わりにして明日また改めることとなった。
自室に戻って黒い玉を見つめる。なんかしらこの玉にはある筈なんだ。
使い方、か。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
晴れ渡る青い空。だが、日の位置がどこにあるのか分からない。それほどに周りにはやたらに高い角ばった建物が立ち並んでいる。
また、あの変な夢か。
「志狼ぉ!やっとここまで来たなぁっ!」
「あぁ」
大きな壁の様に立ち並ぶ建物の一つに、二人の話し声が聞こえる。一人は黒髪、もう一人は銀髪のやたら目立つ奴。はっきりは見えないが何故か懐かしさを感じる。
「きったねぇ所だが、ここから始まるんだ」
「一々改まってんじゃねぇよ。入るぞ」
二人が建物の中に入っていくと、自然と俺の視界も二人に付いていく。
「まだソファしかねぇのか」
「今発注してんだけどまだ来てないんだ。それよりも見てみろよ志狼」
銀髪の男に指さされた、窓の上の壁に貼り付けられた古い木製の看板。
そこに
“銀狼會”
と彫られている。
読める。
見たこともない字なのに。何故か、俺はこの文字を知っている。
「控えめに言ってダセェな。なんだよ銀狼って」
「お前の白銀志狼の名から沼田の親分が決めたんだろ。確かにダサいな」
そう言って二人はソファに座って笑う。
銀狼會。これも知ってる気がする。この銀髪の奴も、この部屋も。
「でもこれからは、お前が俺の親分て事になる。そうしたら志狼って呼ぶのは違うよな」
「何を今更。別にいいだろ。そんな呼び方なんて」
「いや、ここはしっかりとケジメをつけなきゃダメだ。親父……親分…………ボス――」
「どれも気持ち悪いだろ。今まで通りでいいんだよ」
「兄貴……兄ィ。これだな。兄ィだ。これならしっくりくる」
「気持ち悪りぃだろ」
「その気持ち悪さも今だけだろ。これからきっと慣れてくる。兄ィこれからも、この水村仁よろしく頼みます」
「好きにしろ」
ひ、とし、?
なんだ、胸がざわめく。コイツ、やっぱ俺にとってなんらかの関係性ある人間、て事なのか?
つまりこの夢の内容自体、俺の前世?
いや、そんなわけがない。前世の夢を見るなんて、そんな話聞いた事もない。
〝今は分からなくてもよいのです。ですが、これは貴方様の力となります。いずれ全てをご理解頂ける日が来る事を、私は切に願っております〟
誰だ?
俺がそう聞いた瞬間、視界が白く染まる。
〝“レガリアル”ファーストフェーズのアクティベートに成功しました。以下の能力を使用可能です〟
――ドーグ 三種解放――
【バッド】
【ドス】
【ハジキ】
――ドレス 三種解放――
【スーツ黒】
【スーツ灰】
【スーツ紺】




