閑話 はっぴーでちょっぴりばっとなぐれいとふるでいず 後編
※三人称表記です
日中は人で溢れる公園にも既に人が少なくなっていた。芸者の大道芸や紙芝居も、集客のピークが終わって後片付けをしていたりと、徐々に人気が無くなりつつあった。
「さっきはびっくりしたなぁ。それにしても助けてくれた人、すごい綺麗なメイドさんだったなぁ」
ミラはベンチで独り言ちに腰掛けて父を待っていた。
「オーカもああいう人が好きなのかなぁ?」
オーカがこのミラの独り言を聞いたらブチ切れるだろう。
が、それを聞いていたのは別の人物であった。
「恋、ですか?」
またもいきなり声を掛けられ、ミラはビクっとして声の方へ目をやると、隣のベンチにローブを纏った女性がいた。
「あ、はぁ。あなたは誰ですか?」
「あ、すいません!わた、くし、は…………同じ悩みを持つ、者です」
明らかに挙動不審になったローブの女性。
彼女はテイラー。
普段の彼女であれば、まず間違いなく見知らぬ相手に声などかけるはずもない。だが、同じ悩みを吐露したミラに反応して目を向けると、何故か初めて会ったとは思えぬ程、親近感が湧いてしまい、つい口をついて声をかけてしまったみたいだ。
そんなテイラーをミラはまじまじと見つめ
「あなたにも好きな人がいるの?」
「う、うぅ。そう、なんです」
テイラーがミラの問いに答えると、ニパッと笑い、テイラーに密着する。
「そうなんだ!どんな人!?カッコいいの?優しいの?」
テイラーは驚いて流石に顔を背ける。
「はいっ!とってもカッコよくて、誰よりも優しい方なんです」
「そうなんだぁ!でもね!オーカの方がきっとカッコいいんだよ!それに不器用で優しいんだけど、そこがまた大好きなんだぁ」
「パ……いや、私の好きな人だって本当にカッコいいんですよ!温かく微笑まれたら、ドキっとして、上手くお話が出来なくなってしまいますの」
初対面女子会のスタートである。
テイラーはミラの顔を見る事は出来ていない様子だったが、初対面とは思えないほど仲良くなり話に花が咲いた。
が、終わりは唐突に、そして意外な形で訪れた。
「でね!私は大きくなったらオーカと結っ、きゃ!」
「え?あ、あれ?」
ミラの話が途中で突如止められ、不審に思ったテイラーがミラの方を見ると、そこには誰もいなかった。
だが、視線を上げ少し先を見ると、ずだ袋を担いだ男達が走り去っていくのを目撃した。
「あ、あれっ、て」
「テイラー!お待たせー!はい、アイス。すごい並んでて時間かかっ、ん?どしたの?」
テイラーが頭の中で状況を整理していると、パルキアが帰ってきた。
「パルキア様!大変です!今お話ししていた女の子が攫われてしまったかもしれませんっ!」
「え!」
ミラ二度目の拉致事件である。
ミラを攫った犯人は貴族街の人目の付かない所を走っていた。
だがそれを目撃していた人物がいる。人一倍目付きの悪い、黒髪黒目の少年であった。
「ありゃあ、人攫い、か?こんな貴族街でご苦労なこった」
彼は父に頼まれた三十分もあれば終わる買い物を、五時間程かけてやっと終わらせたところであった。
それも、目に付いた食事処に片っ端から入り、遂には八軒ハシゴして、それだけの時間が掛かっていたようだ。
「ま、おれには関係ねぇな…………ん?ミラ?……。いや、まさかな」
そう、彼はオーカ。
彼は以前にあったミラの拉致事件を思い出し、今目撃したものとダブらせていた。
そして、それは奇しくもまさにミラなのである。
犯人の男たちは、止めていた馬車にミラの入ったずだ袋を積み込み、また走って行った。
そうしてミラを乗せた馬車をしばらく走らせ、ある屋敷の敷地へ入っていった。
「戻ったか」
「へい、坊ちゃん。坊ちゃんの未来のお嫁様です」
犯人達がミラを抱えて屋敷の中に入ると、そこには偉そうにしている豚リッチが、無い首を長くして待っていたようだ。
「ふん。コイツはまだ子供だからな。俺の凄さが分かっていないんだ。だから、俺の求婚を断るんだ」
「全くバカな子供ですね!」
「まぁいい。俺の凄さが分かれば泣いて謝って求婚に応じるだろう。袋を開けろ」
「へいっ!」
ミラを攫った人物がずだ袋を開けようとすると。
「そこまでです!」
「誰だっ!?」
屋敷の中に豚の聞き覚えのない声が響き、声のする方へ振り返る。すると、何もなかったはずの壁が綺麗に一部くり抜かれ、そこにローブを纏った二人の人物が立っていた。
「僕はっ!えーと……通りすがりの…………ヒーローですっ!」
恐らく、ローブの人物は正体を隠したいヒーローに憧れた小心者なのだろう。自分で言った後に恥ずかしくなって一人悶え始めた。
もう一人のローブの人物はそれを見て、やはり何やら悶えている。悶えた理由は違えど、他所から見ると酷く滑稽である。
「…………は?貴様、おふざけでうちの壁に穴を開けるとは。覚悟はできているんだろうな?」
それは豚のくせに、大いに一理ある。が
「ふざけてなんかいない!その子を解放しろ!」
悶えの彼方から正気に帰って来たローブの人物が、気を取り直して叫ぶ。そう、一応彼はふざけてなどいない。至って真面目なのだ。
「貴様には関係なかろう!コイツは俺の許嫁だ!」
「嘘をついてもダメだ!攫ったって言う目撃者もいるんだ!」
「えぇい!うるさい!おい!コイツを黙らせろ!」
「へいっ!お前ら!出てこい!」
ミラを攫った犯人の一声でワラワラと豚の手下が現れた。
どうやら豚の家の私兵みたいだ。
「くっ、ここでやろうって言うのか。仕方ない」
「待てぇっ!!!」
「「「「!?」」」」
突如、またも新しい声が高らかに響き渡り、そちらに皆が視線を送る。
そこには赤を基調としたメタリックスーツに、頭部から大きな角が三本生えたマスクを被った変態が、何やらポーズを決めて立っていた。
「弱き者が助けを求めた時、降臨せし正義の使者!我が名はジャスティマン!!!!」
世界一痛くて強い本物のヒーローが現れた。
「今度はなんなんだ!」
「じゃ、ジャスティマンっ!」
豚が新たな変な乱入者に困惑し、ローブを纏った人物は声に憧れを乗せて、キラキラした瞳でジャスティマンを見つめる。
そんな時、誰にも気付かれずに皆と同様オーカもジャスティマンを見ていた。
ジャスティマン登場のほんの少し前に、屋敷の二階の窓から侵入して、階下の様子を見ていたようだ。
「ジャッジメントターイム!!!!悪に身を落とした子猫ちゃん達!この正義の使者ジャスティマンが君達に救済という名の裁きを下そう」
「もう意味が分からん!お前たちさっさとそこのバカも黙らせろ!」
「Are you ready?」
「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」
「Go!!!!」
一瞬。いや、刹那。いや、瞬く間に。
ジャスティマンはどんな言葉でも形容の出来ない速さで動いた。そして、人がバタバタと音を立てて倒れていった。
ジャスティマンを見ていた人からすれば、ただポーズが変わっただけとしか認識出来ない程のスピードで、豚の取り巻きを眠らせた。
「これが私の朱華流星群【メテオヴァーミリオン•フォーム】大人しくそこのベイビーを解放してくれるかな?子ね……子豚ちゃん」
一々ポーズを変えて台詞じみた言葉を話すジャスティマン。
それに対する反応は三者三様。
「なん、なんだ。こんな、奴が、」
「なんてシブいんだ。今日は赤のスーツ。あれがメテオヴァーミリオン•フォームか…………カッコいい」
「相変わらず見てて聞いてて恥ずかしくなるな。ま、もうコイツが居れば問題ねぇな」
そうして、オーカは人知れずその場から撤退した。
その後、ジャスティマンによって豚もといミミガ・ブヒリッチを捕縛され、騎士達が来る前にローブの二人組もその場を離脱した。
こうして第二回ミラ拉致事件は一件落着で幕を閉じた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ミラ、ミラ!ミラ!」
「ん、っん。パ、パパ?」
ミラが目を覚ますと、いつの間にか父との合流場所である公園にいた。
「しばらくここにいなかったから探したんだよ。いくら探してもいないから戻ってきたらこんな所で寝てるし。なんかあったのかい?」
父にそう聞かれミラは少し考えて。
「んー、と。別に、何もないよ!」
「そっか。じゃあ帰ろうか。ママが待ってるよ」
「うん!」
ミラが、何もなかった。と言ったのはオーカが面倒な事は全て隠していた為、それに倣ったのだろう。
そうすることによって少しオーカに近付けた様な気がして、嬉しくなるミラであった。
こうして、不思議なすれ違いが続いた、奇跡の様な一日が終わった。
今度はすれ違わずに、皆笑顔で話し会える日がきっと必ず来るのだろう。
そんな愉快な日常を、とある憐れな豚とは違って、しっかりと首を長くして皆で待っていよう。




