閑話 はっぴーでちょっぴりばっとなぐれいとふるでいず 前編
※三人称表記です
ある日の昼下がり、オーカは街に繰り出していた。
ラナとの死闘を経て“魔力纒身”を身につけ、ゼルバトスとの試練に打ち勝ち、正式にドラゴリア家の養子に入って間もなくの事。
ある買い物をゼルバトスに頼まれ、使いに出されたのである。
ラナはその日、別件でゼルバトスの使いに出ている為、仕方なくオーカがその使いを請け負ったようである。
「クソめんどくせぇ。が、たまにはこういうのも悪くねぇな」
相も変わらずツンデレである。
頼まれた買い物とは、ゼルバトスの贔屓にしている商人から品を受け取るというもの。
中身はオーカ自身知らず、金だけをゼルバトスから受け取り、使いに出ていた。
「場所は、あの公園から2ブロック南にある派手な店、か」
あの事件が起きるまで、オーカ、パルキア、ミラと三人でよく遊んでいた公園を思い出し、少しセンチなツンデレであった。
歩を進めていくと、あたりは活気に満ちていた。そして、公園までもう少しのところで、ふと胡散臭い会話がオーカの耳に聞こえてきた。
「お嬢さん!お目が高い!こちらは何といっても相思相愛のペンダント。これを意中の相手に渡せばイチコロさ」
「……本当ですか?」
「これでも、俺っちはこの業界で正直者で通ってるんだ嘘はつかねぇ!この商品はなかなか出回らない品だ。買うなら今しかない」
「ど、どうしよ……」
オーカが会話のする方へ目をやると、ローブを深く被った女性がある露店の店主に声をかけられていた。
「さぁ、お嬢さん。普段であればこれは10万キラは下らない。が、旅でこちらに来られたというならば、俺っちも一肌脱ぎましょう!赤字覚悟の大特価!2万キラでどうだい?」
「10万キラが……2万キラ……」
有り体に言えば他所から来たカモに店主が目を付け、大分吹っかけている形だ。
「こんなチャンス二度とありませんぜ?」
「……で、では!思い切って「そうだな、こんな良いチャンスねぇだろうな」え?」
オーカは自然とその会話に割り込んだ。店主も客も目をパチクリさせている。
「旅でこの国に遊びに来てるんだからこの近辺の物価も知らねぇし、簡単に人の話を信用するお人好しの、ガキだもんな。これ程、儲かる話はねぇな」
オーカもローブの人物と年端は変わらないが、言わぬが花であろう。
「ど、どういうことですか?」
「な、なんだお前!!!」
「おいガキ、早く買っちまった方がいいぞ。何だって10万キラの商品が、2万キラだからな。例えその商品の仕入れ値が1000キラ位だったとしても、安くなってるのは事実なんだからよ」
「え?」
ローブの客は驚愕の顔をして固まり、店主は激怒しオーカに突っ掛かかる。
「なんなんだテメェは!なに言ってやがる!口からデマカセ言いやがって!」
「デマカセっていうなら、これを鑑定師に見てもらっていいよな?」
勿論オーカはそのペンダントの仕入れ値なんて知らない。ただのカマかけである。が、あながち間違っていなかったようだ。
「………チッ、クソガキ覚えとけよ。店仕舞いだ。冷やかしなら帰った帰った」
「悪いが、物覚えが良くなくてな、すぐ忘れる」
オーカはローブの人物を連れて店から立ち去る。
「あのぉ」
「あぁ?」
「助けて頂き、ありがとうございます。騙される所でした」
「別に」
「なにかお礼をしたいのですが」
「いらねぇよ。今日は少し機嫌が良くてな。普段ならこんな事絶対しない。じゃあな」
再度言おう。彼はツンデレである。
「ですが……」
「あっ、テイラー!」
遠くの方からロープを被った人物がオーカ達の元に走ってくる。どうやら、このローブの女の連れのようだ。
「ほら、ツレが来たんだろ?じゃあな」
「あ、あの!ありがとうございました!」
テイラーから礼を受けて、オーカはその場から人混みの中に紛れていった。
「さて、さっさと使いを終わらせるか…………しかし、さっきのローブの奴の声、聞き覚えがあるような気がすんな。ま、いいか」
そうしてオーカは気を取り直し、使いを済ませに派手な店を探しに行くのであった。
「少し腹減ったな」
その前に少し寄り道する様である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
同じくある日の昼下がり、パルキアはテイラーと共に認識阻害の術式を施されたローブを纏い、貴族街へ降りていた。
ガルシア第一皇子の策により、リッツカール帝国第四王女テイラー•クウェート•リッツカールの殺人未遂が起きた。
そして、それをパルキアが見事未然に防ぐことに成功。
だが、この事が露見すれば戦争が起きると危惧したパルキアが、テイラーに嘆願することにより事件自体を表向きにしない事を約束した日。
実は、ある条件がテイラーによって付け加えられていた。
「これはずるいかもしれませんが、口止めをする代わりにパルキア様、一つわがままを聞いていただけませんか?」
「分かりました。なんでしょう?」
「あの……デー……街の観光を二人で出来たら良いなと」
「…………構いませんが?」
そして現在、その条件であるデート、もといシカクの観光をしている真っ最中の二人。
「テイラーさんどこ行きます?」
「…………あの、二人きりの時は呼び捨て呼んでほしいです」
「…………え?」
「テイラーとお呼びください」
「テイラーさん?」
「…………」
〝親しい間柄なら、敬称よりもフランクな方がいいんじゃない?〟
パルキアの頭にリーシャの声が響く。
テイラーが『二人っきり』に拘っている事をパルキアは事前にリーシャに聞いていた。その為テイラーは知らないが、実はこのデートにはテイラーには分からないように護衛が数名付いている。
〝なにより、機嫌を損ねるのは不味いんじゃないかい?〟
呼び捨てで呼ぶことくらいで、何をそんなに悩んでいるのか、玉無しの考える事は不明だが、明らかにパルキアは困惑していた。
「パルキア様」
人の目を見る事すら苦手なテイラーが、顔を真っ赤にさせ上目遣いでパルキアを呼ぶ。
すると
「なにかな、テイラー!」
「っ!!!いえ、な、なんでもありませんわ!」
お互いに真っ赤にした顔を背け、少しの間沈黙が流れた。
ヤキモキするリア充である。
「じゃ、じゃあどこに行こうか」
「パルキア様が行きたいところに行きたいです」
「じゃあ露店を見に行こうか!」
「はいっ!」
終始会話はお互いそっぽを向いたまま行われている。言わずもがな、終始互いに顔は赤くなりっぱなしである。
露店がたくさん立ち並ぶ場所まで来ると
「じゃあ僕はオススメの肉串買ってくるから、テ、テイラー、はここで少し待ってて」
「は、はいっ」
パルキアはそう言って人混みの中に消えていった。
テイラーは一人取り残され、顔を赤くしたままパルキアが見えなくなるまで見送っていた。
そして辺りを見回していると、ある露店に目を奪われた。
そこには《恋愛成就のペンダント》と銘打たれた看板が掛かっていた。
考える前に、足がその露店へと引き寄せられ、あるペンダントに目が釘付けになった。すると
「お嬢さん!お目が高い!こちらは何といっても相思相愛のペンダント。これを意中の相手に渡せばイチコロさ」
「……本当ですか?」
テイラーは胡散臭い商人にカモにされようとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
これまたある日の昼下がり。
家族で定食屋を営む家の娘ミラは、父親と買い出しに商店街を歩いていた。
「じゃあミラ。ここで一回別れるぞ?パパは食材。ミラは調味料と香辛料だ」
「うん!分かったよ!終わったらいつもの公園に集合ね!」
「よし。いい子だ」
「もう、パパ。私はもう子供じゃないの!」
「あはは。分かった。じゃあまた後で!」
絵に描いたような素敵な父娘。
二人はそれぞれの買い出しの為にここで別れた。
ミラは早速、調味料が売っている商店へ入り、慣れた手つきで必要な物を手に取っていく。
「おい。お前赤の雀亭のとこの娘だろ?」
いきなり後ろから声を掛けられ、ミラが振り返ると、そこには丸々太った子豚のような体型と顔をした少年がいた。
「うん。そうだけど、あなたは誰?」
「俺はミミガ・ブヒリッチだ。お前、平民だろ?俺は貴族だ。口の利き方に気をつけろ」
名は体を表す、という言葉を地でいく性格の悪い少年にミラは絡まれたようだ。
「……ごめんなさい。失礼します」
「なっ、お、おい!」
ミラはあからさまに嫌悪した表情を下手に隠しながら謝罪をして、その場から逃げるように商人に品物を渡した。
会計を済まして、振り返るとそこには豚リッチは既におらず、ホッとして店から出ると
「おい。人の話の途中で居なくなるとは平民の癖にいい度胸だ。しかし俺の未来の嫁になるんだ許してやろう」
豚リッチが外でミラを待ち受けており、なにやらブヒブヒ言っている。
「え?なんて?」
ミラにも言葉がよく分かっていなかったらしく悪気なく豚リッチに聞き直す。
「聞こえなかったのか?お前にブヒリッチの姓をやると言っているんだ」
おっと、彼は豚リッチではなくブヒリッチだった。
そんな豚リッチが、鼻を鳴らしながらミラに近づく。
「ごめんなさい!気持ち悪いので近付かないでください!失礼します!」
彼女には悪気は無い。ただ、少し人より正直なだけである。
「貴様っ!気持ちっ、悪いだと?誰に向かって口を聞いている!ふざけるなよ平民がっ」
豚リッチは怒りを露わにブヒブヒと距離をとったミラに更に近づく。
「おやめなさい」
そこに若いメイド服の美しい女性が割って入り、豚リッチを留めた。
「誰だ貴様はっ!」
「私の事などどうでもいい。真昼間からオークが幼気な少女に発情とはどんな淫話ですか」
「オークっ、貴様、俺はブヒリッチ家の者だぞ?!」
「豚リッチなんて家名は聞いたこともありません。さぁ、貴方はもう行きなさい。私はこのオークの相手をしなければならないようです。貴方にはまだ三年ほど早いですから、後はお姉さんに任せてください」
彼はブヒリッチである。
だが、微妙なニュアンスで話す美女に助けられたミラは、短く礼をしてその場を去った。
去り際に助けてくれたメイドの妖しげな嗤い声と、豚リッチの怯えた様な悲鳴が耳に入ったような気がしたミラであった。




