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第四話 本当に痛い

「死ねぇぇぇっ!!!」


 ジトが烈士の怒気を大声に乗せ、右拳を振り上げ突っ込んでくる。


 うるさい。そして遅い。


 俺はゆっくりとした動きで、右手を後ろに伸ばしてパルキアの胸ぐらを掴み、左前方へ投げ飛ばす。その際パルキアが苦悶の声を上げるが御構い無しだ。

 そうして目の前に来ている拳を最小限の動きで躱しパルキアとは逆の方向へ避ける。


 盛大に空振りしたジトは俺の方へ向き直り


「殺ぉぉすっ!!!」

「いちいちうるせぇよ」


 安い挑発をしながら振るわれる拳を小さな動きで躱し続ける。

 その間に状況整理と作戦を立てる。


 ジトはこのまま放置で問題ない。いずれはバテて動けなくなるだろう。

 ラチュに動きはない。椅子に座ったまま俺を睥睨している。

 娘はまだ起きる気配がなく、パルキアは目を点にして俺達の動きを追っている。

 ここの逃げ口は一つだけある扉。


 達成条件は娘とパルキアを連れてここから失せる事。


 となると早いうちに動いた方がいいな。

 ラチュが動いてくる前にこの場からバックレる。


「ちょこ、まかと。ハァハァ。クソがぁっ!」


 明らかに動きが鈍くなり始めたのを見て、腰からナイフを抜く。

 ジトが殴りかかるのを小さな動きで躱し、すれ違いざまにナイフを脚に当てる。

 ジトは一瞬鈍い声を出すが構わず向かってくる。

 躱して、また脚をナイフで撫でる。

 避けて、切る。

 ひたすらこれを繰り返していく。



 …………チッ



 しかしこいつマジで人間かよ。もう何回切りつけたか分かんねぇぞ。普通ならとっくに転がってる。


 だが、そろそろメンタルが壊れる頃だな。


「くっ、もう知らねぇぞ。何も関係ねぇ」


 ジトが完全にイった目をして呟き、一拍おいてまた殴りかかってくる。

 よく見るとジトの周りを飛ぶ黄色い光の様なものが見える。


 なんだ?結局バカみてぇに突っ込んでくるだけか?あの光はなんだ?魔法?

 モーションも変わらず武器も持って無い。

 光以外はまるでさっきと同じだ。

 魔法だろうがなんだろうが当たらなければ意味はねぇ。


 そう思いジトの右拳をまた小さな動きで躱す。


 と、衝撃。


 左半身に猛烈な痛みが走る。

 謎の衝撃に吹き飛ばされ、壁に激しく身体を打ち付ける。


 痛ってぇぇぇぇ‼︎‼︎


 なんだ、なんなんだ。何が起きたっ!

 意識が飛びかけたぞ今。


 壁に背を這わせて上体を起こしてジトを見ると。右手に岩がくっ付いてる。


 なんだあれ。


 パルキアが駆け寄ってきてあわあわ言いながら何も出来ずにいる。


「おいジトぉ。ガディは流石にまずいだろぉ」

「うるせぇ。もう関係ねぇ。ぶっ殺す」


 ラチュが椅子に座ったままジトを諌めるが、ジトは完全にキレていた。


「パルキア、落ち着け。大丈夫だ。それよりありゃなんだ?魔法か?」

「大丈夫じゃ、ないでしょう……あれはガディじゃないか」

「ガディ?」

「ガディを知らないの?あの黄色い光はがマナの塊。つまりジトって人のガディはスピリッツ。だからアーティファクトは属性石だと思う」


 ガディ、マナ、スピリッツ、アーティファクトか…………あぁ


「なんにも分かんねぇや。とりあえず魔法みたいなもんだな」

「まぁ、そんなかんじだよ。でもありえないよ。皇都内では特別な許可無くガディの使用は禁止されてるのに」

「……へぇ」


 痛えなぁ。

 俺に一発入れた事でジトに余裕が出来たのか、ゆっくりと右手の岩を見せつけるように近づいてくる。


 本当に痛い。


「パルキア。あいつが俺にまた殴りかかってきたら走って扉から外に出て、お前が思う安全な場所へひたすら走れ。俺はこのガキ担いで追いかける。絶対に振り返るな」


 あー痛い。

 隣で寝ている娘を顎でしゃくり示し、小さな声でパルキアにしか聞こえないように話す。


「でもっ」

「うるせぇ!兄貴の言うことが信じらんねぇのか?!」

「っ!」


 クソ痛ぇな!

 気合いで立ち上がりパルキアを扉の方へ蹴り飛ばす。

 それにつられてジトが俺の方に殴りかかってくる。


 めちゃくちゃ痛い。

 一回だけ避けられりゃそれでいい。

 壁に背を預けたままジトの右拳が狙いの距離に来るまで待つ。

 目の端でパルキアが扉まで駆けていることを確認した。


 ここだっ


 狙いの距離まで来た瞬間全身の力を抜き身体を床に投げ出す。

 痛い。


 ジトの右拳が見事壁をぶち抜き回避を成功させる。

 すぐさま痛む身体に気持ちで鞭を打ち、持っていたナイフをラチュに向かって投擲する。

 当たったかどうかも確認せず、娘を右腕一本で持ち上げて背負う。そうして今開けてもらった新たな出口から逃げ出す。


 外に出た時点で俺達の勝ち。


 どうやらガディは人目のある場所で使ったらまずいらしいから外に出ればもう使えない。

 ジトは言わずもがな、ラチュもジトの攻撃を見ていたし、ダメ押しでナイフを俺が投げつけることによってパルキアを追う考えに至るまで数瞬は稼げた。

 それにガキを背負って左腕と肋骨がバキバキに砕けてようとも、アイツらに捕まるようなヘマは絶対にしない。


 ざまぁみろ馬鹿野郎。


 あー、クソ痛ぇ。

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