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第三話 義理の兄弟

 その場は騒然としていた。

 ジトの奴は独断でガキを攫ってくるわ、変なガキが乱入してくるわ、更にはそれがパルキアと来たもんだ。カオスだ。


 俺と分かれた後、パルキアはジトとそこのガキとのトラブルをたまたま見てしまった。そして助けようと付いてきたらここだった、って事か。

 どんな偶然だよ。


 さて、どうしたもんか。

 最善は、トラブルもなくパルキアを奪取してこの場を去る。一応パルキアは知り合いだし、このまま放っといても寝覚めが悪い。赤の雀亭のガキはどうなろうと俺には知ったこっちゃないし、そこまでパルキアに付き合ってやる義理もないだろう。


 そしてマストは、俺一人でもこの場を去る。

 これだけに徹するのが一番簡単だ。パルキアを見捨てて力づくでこの場を去り、しばらくどっかで潜伏か。


 だが、どちらも結果として俺の冒険者になる可能性が遠のくのと、しばらく飯を食うのにまた盗みがメインになってしまい、質素な飯になることか。

 ま、それはどの道そうなってたし、最初から期待なんてしてないからどうでもいいんだが。


 であればパルキアを連れて逃げる方法だ。

 ここで一つ避けなければならないのは俺とパルキアとの関係がジトとラチュにバレる事。十中八九、貴族であるパルキアとの繋がりをつっつかれるのも面倒だし、その後俺経由でパルキアに何かあっても


「あ!君なんでこんなところにいるの!?」


 はいアウトー。


 パルキアが震える足を押さえつけながら泣きそうな顔で辺りを見回し、俺を発見するやいなや袖で目に光る何かを拭い聞いてきた。


「なんだてめぇは!またガキじゃねぇか!!」


 ジトがパルキアに怒鳴り散らし、パルキアの顔面が真っ青に染まり、足が小屋を揺らさんばかりに震え出している。


「おいおい。本当にどうなってんだ。いつから此処は孤児院になったんだ?それに、孤狼よぉ。あいつお前のお友達なのか?」


 まぁ、そうなるわな。

 ラチュが俺を見下ろし聞いてくる。

 さて、いよいよどうするか。この質問に対してどう答えるかでこの後の流れが決まる。

 事実パルキアの事はよく知らないし、適当な嘘で切り抜けるのがいいか。嘘だとバレても特に問題は無いし、答えない方が状況を悪くする気がするしな。


「あいつは俺の弟だ」

「弟?孤狼に弟なんているわけねーだろ……生き別れた弟かなんかか?」


 おっ、ラッキー。


「そんなとこだ。俺がここに入ってくのを見て、なんか勘違いしたんだろう。そいつを連れて俺は帰る。この件は俺もバレたらまずいんだ。誰にも喋りはしねぇよ」


 ラチュはこう見えて理知的な男だ。これで理解出来るだろう。だが、これで理解しないのが


「ふざけるな!弟?知らねーよ!お前も!コイツも!殺す!!俺は誰も信じないぞ!」


 ジトだ。こいつは脳筋。だから、周りの奴らに騙されて利用されてばかりだった。唯一心を許したのがラチュで、ずっとコイツらはツルんでいる。実際のところラチュもジトを上手く利用してる節があるがな。


「まぁ、待てよジト。いいか孤浪。ジトが既にコイツを攫ってきちまったんだ。赤の雀亭を強請るのは鉄板。そして、お前の生き別れた弟だが……おい!お前貴族だろう?」


 最悪のパターンだな。

 声をかけられたパルキアは、未だジトに凄まれた緊張が解けず耳に何も入っていない様子だ。


「ダメだなありゃ。おい兄貴。あいつをダシにまたその貴族から強請れば、赤の雀亭のとを合わせれば結構な金になる。孤浪、お前も一口乗れ」


 論外だな。俺は真っ当な道で食っていきたいからこそ自力をつけて、冒険者になれる道を模索してきた。だが、これではしばらくは食い繋げても、結果盗賊落ちがいいところだ。


 こうなれば、話し合いでは解決出来ないな。先ずは放心状態のパルキアをどうにかするか。


「俺一人では決められないな。弟と話をしたい」

「いいぞ。ジト、いつまで鼻息荒くしてんだ。一度落ち着け」

「チッ。だが、断れると思うなよ。その時は二人とも殺す」


 なんとかなったか。

 ジトはラチュに諌められ、ラチュの隣の椅子に鼻息を荒くしたまま腰掛ける。


 俺はパルキアの前に立ち、わざとラチュとジトに背を向け、パルキアの肩に手を置き揺すり起こす。


「おい。いい加減に起きろ。」

「……ん、はっ!」

「落ち着け」


 自我を取り戻したパルキアを揺すり続け、後ろの二人に起きたことが分からないように小声で話しかける。


「あっ、君!なんでこんなところっ、え、ちょっと、」

「…………」


 コイツに空気読んで貰おうと思った俺がバカだったな。


 もういい。どうにでもなりやがれ。


「よく聞け。コイツらはお前を監禁して、お前の家から身代金を要求したいそうだ。どうする?」

「え、どうゆうこと?監禁?身代金?僕が?」

「落ち着け。そして今の状況を理解して、お前がどうしたいのかを言え」


 今まで泳ぎまくっていたパルキアの目が、俺の言葉により真剣な眼差しで見つめ返して逡巡する。


「その子を助けたい」


 考え抜いて出した答えがこれか。

 その子、と言うのはパルキアとの関係性が無いという事だろう。それでも救いたいとおもう理由は俺にはまるで分からない。

 だが、コイツにとっては大事な事なのだろう。


 すごく、とても、めちゃくちゃ面倒だが、コイツの思考には少し興味がある。

 乗ってやるか。何より今ここだけではパルキアは俺の


「弟がこう言ってる」


 俺はそう言って振り返りパルキアを背に、ジトとラチュを正面に見据える。パルキアは「弟……?」と小さな声で困惑しているがそんなことは知らない。


「兄貴としては、弟の意を汲んでやらなきゃなぁ」

「孤浪よぉ何が言いたい?」


 ラチュが怒りを顔に貼り付け、静かな声で俺に問う。それと同時にジトが立ち上がった。


「お前らぶっ飛ばしてバックレるっつってんだよ」

「死ねぇぇぇっ!!!」


 俺の宣言にジトが怒気を張り上げ交渉が決裂したのだった。

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