第二話 憧れと勇気
「不思議な子だったなぁ」
僕はあてもなく平民街をぶらついていた。
思い返すのは先程まで一緒にいた黒髪の男の子の事だ。
僕とそんなに歳は変わらないと思うけど、すごく大人びた子だったなぁ。
きっとすごく大変な環境を強く生きてきたからなんだろうな。
スラム出身……か。
僕とは全部が正反対だ。
何不自由無い暮らし
与えられた教育
決められた生き方
あの子が欲しかったはずのモノを僕は持っている。
そんな周りから見れば恵まれた環境に居るにも関わらず、僕はそれから逃げている。
あの子みたいになれたら何か変わるのかなぁ。
「って、あれ?ここどこだ?」
相当考え込んでいたんだな。
大通りから一本路地に入った所でふと気付き、辺りを見回すと見知らぬ所へ来てしまった様だ。
とりあえず元の道を戻ってみるか。
そう思い踵を返そうとした時、
「お願い!それ返してよぉっ!!!」
「しつけぇぞ、ガキャァ!!!」
すごい怒鳴り声だ。路地の奥の方から、一つは女の子の声、もう一つは野太い男性の声。
何かと思い悲鳴の聞こえた方向へ恐る恐る進んでいくと
「キャアアア!!」
今度は女の子の悲鳴だ。
僕は慌てて走り出すと、ちょうど行き止まりに人影が見えた。嫌な笑みを浮かべた大柄な口髭を蓄えた山賊の様な男が少女を脇に抱えていた。
なにこれ……
もしかして僕はとても大変なところを目撃してるんじゃ。
その男が、こっちに歩いてくる。
僕は慌てて物陰で息を潜める。
冷静に考えれば行き止まりなんだから戻ってくるよね。
「いい拾い物したぜ、今日はついてるな」
足早に男は少女を抱えたまま僕が来た道とは違う方向に立ち去っていく。
これって間違いなく、
「人攫い……」
どうしよう。
この辺りの騎士の詰所が分からないし、探している間に人攫いの場所が分からなくなっちゃう。
でも、僕が人攫いからあの女の子を助けるなんて出来っこないし。最悪僕も捕まってしまったら元も子もない。
彼だったらどうするんだろう。
こんな時にあの黒髪の子を思い出す。
怖くないのかな?
きっと怖がったりしないだろうな。こんなに考え込んだりもしない筈だ。
僕もやるべきことを真っ直ぐにやろう。
あの彼の様に。
とにかく付いて行く。まずはそれからだ。
人攫いは人通りのない路地をすり抜けて、すぐにスラム街へ入った。スラム街へ入ると人攫いは人目を気にせず往来を少女を抱えて歩き出していた。誰も少女を抱えた男に目を向けない。それどころか皆、僕を見ている気がする。僕がこの辺の住人じゃないからかな?
ともかくスラム街ではこんな事が日常的にあるんだ。だから周りの人たちは全く気にしない。
スラム……なんて所なんだ。
そのまましばらくスラムを歩き人攫いに隠れて付いていくと、一軒の小屋に入っていった。
ここが人攫いの人の家なのかな?
これからどうしよう。
騎士の詰所に行って騎士を呼んで来ようか。
いやダメだ。
まずこの近くの騎士の詰所を僕は知らない。
知ってる所だと今から走って行っても15分くらいかかる。説明して人を集めてもらって、ここに戻ってくるまで一時間くらいかかってしまうかもしれない。もっとまずいのは僕の身元がバレてしまった時。どれだけ時間がかかるかわかったもんじゃない。
とりあえず、一度小屋の前で様子を見てみよう。
小屋の周りを見てみると窓らしき窓は無く中を見る事が出来なかった。仕方なく扉の前で聞き耳をたてると、内容はよく分からないが男達の怒鳴り声が響き渡る。
何か揉めてるんだろうか?
そんな事を考えていた時、小屋の中で何かがぶつかる様な大きな物音が聞こえ、驚いてして体が強張る
どうしよう。
中で何が起きてるんだ。全く分からない。
人攫い同士で揉めているのか?
それとも、攫ってきた人に何かあったのか?
だめだ。状況が分からない。
どうしたらいいんだ。
いや!違う!
考えたって分かるわけないじゃないか。
僕は何しに来たんだ。
やるべき事、それは助ける事!
行ってどうなる、どうする、そんな事を今考えたって分かりっこない。
とにかく今は!
扉に手をかけ、勢いよく開け放ち、
「そ、そ、そそにょ子をか、返してくだしゃい!」
猛烈にどもってしまった。




