第三十九話 甘くて結構
「見送り痛み入ります。それでは、我々はこれで。テイラー、お前も一言言っておきなさい」
「はい。今日まで大変お世話になりました。私も兄も、ここスクエラ皇国で、とても充実した日々を送ることが出来ました。パルキア様、また会いにきます」
「はい。でもお邪魔でなければ、今度は僕がリッツカール帝国へ行きたいです。国とは関係なく、パルキアとして」
僕がそう言うと、テイラーさんは振り返り僕の目を見て
「い、いつでみょ、いらしてくだしゃい!」
壮大に噛みたおし、またこちらに背を向けて
「楽しみにお待ちしております」
そう、締めくくった。
あの事件の後、僕達は口裏を合わせ事件を表沙汰にせず晩餐に向かった。
リーシャが開けた部屋の穴はリーシャが自分で直して、パロマが荒れた部屋内を綺麗に元通りに直した。
僕の怪我はリーシャの魔法であらかた完治していたので、誰にも見られないように部屋に戻り、着替えを済まして晩餐の席に着いた。
そうして席に着くと、僕がテイラーさんの為に色直しをしたと母さんにイジられたくらいで、恙無く晩餐も終えた。
その後も、リッツカールとの交流とテイラーさんとの親交を深める一週間を、平和に過ごした。
平和に。
こうして事件後、穏やかな日々を送れたのも、僕がしっかりと楔を打ち込んだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
事件当日の晩餐後。
皆が寝静まる深い夜の中、僕は父上の執務室へと来ていた。
父さんとガルシア兄さんに用があった僕は、皆が眠りにつくのを待って、それぞれの自室へ向かうつもりだった。
だが、リーシャの感知で二人が執務室にいる事を知った僕は、丁度いいので二人一緒に話すことにした。
だけど、扉からではなく執務室の窓から入る事にした。
執務室のカーテンの閉まった窓を、高音の炎を剣に形状を変化させる“フレアブレード”で音も無く穴を開けて侵入。
そのまま気配を殺して二人の会話を盗み聞く。
「親父ぃ。なんで邪魔をしたんだ」
「急になんなんだ。なんの話をしている?」
「とぼけんなよ。確かに戦争になっちまうかもしれないが、帝国なんかにスクエラは負けないだろ。たかだか第四王女如きで戦争になるかも分からないしな」
「戦争?第四王女如き?お前一体何をっ!?」
なるほど。テイラーさんを襲わせたのはガルシア兄さんの独断で父さんは関与していないのか。
「あ?パロマを止めたのは親父なんじゃないのかよ」
「パロマ?侍女がなんだ?なんの話をしておる?パルキアを帝国へ婿入りさせるだけの話だろう?なんで侍女が出てくるんだ?」
そうゆうことか。
「ふざけるな!アイツが帝国へ行く保証なんてないだろ!だったらその前にトラブルを起こさせてアイツを脱落させる方が確実じゃないか!」
「お前……一体、何を?」
「父さん。僕から説明するよ」
「「!?」」
カーテンを開けて僕がそう言うと、二人とも僕を見て固まった。
「ガルシア兄さんはテイラーさんを、パロマに氷の魔法を使って殺させようとしたんだ。僕に罪を着せる為に」
「なっ!なんだとっ、第四王女を……殺す」
父さんは驚愕に表情を染め上げ僕を見る。ガルシア兄さんは僕をきつく睨みつけていた。
「安心してください。この件は表沙汰にはなりません。ギリギリ未然に防げましたから。それに僕は帝国へ婿入りはしません。これもテイラーさんには伝えてあります。だからどうか、これ以上何もしないでください。父さんも、ガルシア兄さんも」
父さんは、まだ状況を整理できていないんだろう。驚愕したまま動けてない。
ガルシア兄さんは僕を睨め付けたまま。
「ふざけるな。何もするな、だと?これは皇戦だぞ!腑抜けた事を言うなっ!」
〝おい無脳豚。パル君は汚い事をするな、って言ってるんだよ。お前の脳の無い頭でいくら汚い事を考えても無意味だが、周りへの被害だけは甚大なんだ。それなら正々堂々と皇戦に立ち向かいなよ〟
「ガディ風情が俺に偉そうな事を抜かすんじゃない!」
ガルシア兄さんがリーシャに怒気を荒げてまくし立てると、部屋の温度が急激に上がった。
〝ねぇ。よく考えてみなよ。君が汚い事をしてるのと同じように、パル君も手段を選ばずに行動すれば、結局、得するのはパル君なんだよ。なんなら今体験してみるかい?骨すら残すことはしないよ〟
粘ついた殺気をガルシア兄さんと、更には父さんにまで向け、室温をグングン上げていく。僕の周りだけは適温だけど、ガルシア兄さんと父さんは、止めどなく汗が滴り落ちている。
いつもなら僕は止めるけど、今回はリーシャを止めることはしない。
正直、僕も怒っているからだ。
「ガルシア兄さん。僕はそれでもガルシア兄さんも父さんも家族だと思っている。だから、正々堂々戦おうよ。周りに迷惑をかけないように」
〝これはパル君からの警告だよ。次、変な事をしてみろ。後悔が先に立たない事を教えてあげるよ〟
「ぐっ」
ガルシア兄さんはへたり込み、言葉も出なかった。父さんは状況を整理できないまま、リーシャの殺気に当てられて、僕に畏怖の感情を隠さずさらけ出していた。
そんな状況を確認して、僕は今度は部屋の扉に手をかけ
「それと、ガルシア兄さん。二度とパロマに関わらないで下さい。もちろん、パロマの家族にも。三度目は…………本当に許さない」
魔圧をガルシア兄さんに当てて、最後にしっかりと警告をして扉から出た。
「ふぅ」
〝相変わらずパル君は甘いなぁ。でも、最後のは、良かったよ〟
甘くて結構。
だけど、ダメなものはダメだ。
仮にこれが僕のエゴだったとしても、絶対にブレたらいけない。
それが僕の目指す“皇”だから。
でも、最後は自分でも驚くくらい低く冷たい声が出たな。
それだけ頭にきてたんだな。
でも、もうこれで周りに被害が出るようなことは無くなるはず。
もし次、何か起きた時には。
その時は
〝さっ、パル君。部屋に戻ってお茶にしよう〟
「あっ、うん。そうだね」
リーシャには色々な面で助けられてばっかりだな。
「ありがとう。リーシャ」
〝ロイヤルなお部屋でロイヤルなミルクティ〜〟




