第三十八話 寝たきり不能
第三十八話
「……っん」
いつもの天井、か。って事は生きてんのか。
身体中痛みはないが、ギッシギシで動けねぇな。
痛みがないのは、魔法か。
じゃあ俺は気を失った後、ラナに介抱されて医者に治療されたって事か。
だけど、あの時のラナの殺気は本物だった。
今まで生きてきて、色んな奴に殺意や敵意を向けられてきたが、あれだけ濃密な殺気を向けられたのは初めてだったかもしれない。
俺を殺すという強い意志。
殺す為の思考。
殺す為の動き。
全てが本物だった。
だがその後、俺はラナに助けられた。
「どっちが……」
本当のラナなんだろうな。
「どちらも私です」
「あっ!?」
急に聞き覚えのある冷たい声が俺の思考に割り込んできやがった。
「まだ勃てないでしょう。昨日は激しかったですからね」
うるせぇ。相変わらずめんどくせぇニュアンスで話しやがる。
しかし
「俺、口に出してたか?」
「何をやらしい事を。そこまでの世話は命じられていません」
「ちげぇよ!俺の思考が言葉に出てたか?って聞いたんだよっ!」
「あ、そっちですか。はい。漏れていましたよ。なので処理させていただきました」
「質問をな!めんどくせぇ」
つっこまねぇって決めてても、ついコイツのペースに巻き込まれちまう。
「貴方を殺したいと思っているのも本当の私。ですが、貴方を強くしたいというのも、また本当の私です」
「つくづくめんどくせぇな」
「そうでしょうか。私は一つの強い意志の元、そう考えているだけです」
強い意志の元。
「ジジィ、か」
「無論です。貴方が強くなればゼルバトス様は、お悦びになる。そうなれば私を褒め、その流れで「もういい」、そうですか。失敬」
完璧超絶美人のラナだが、ジジィの話になると顔面がいつもヤベェことになる。
めんどくせぇ。
「ですが、貴方が使い物にならなくても、お優しいゼルバトス様は、厄介なだけの貴方を抱え続ける事になる。そうなるくらいなら、私は貴方を迷わず殺します」
「そうかよ」
俺は身元不明の糞餓鬼。
あぁ見えても名の通った貴族のジジィだ。そんな胡散臭ぇ奴を抱え続けて、ジジィの事を蹴落そうとする奴らにバレれば、どうなるかは大方見当がつく。
少し学んだが貴族って奴らは、ほぼ全員ネチっこく、小賢しい。自分の権力、財、を守り、でかくする為なら手段を選ばない。
俺はそう理解している。
だから、俺はそんなジジィの為にも騎士にならなきゃならない。
俺は腐っても受けた恩は返したいからな。
死んでも口には出さないが。
「ですが貴方は強くなりました。まだキッカケを掴んだに過ぎませんが、私にその可能性を信じさせるだけのモノは見せつけられたのです」
“魔力纒身”
死ぬ気で、いやほぼ死んでる状態でやっと完成できた。
あの決死の状況で、馬鹿みたいな集中力と『ヤってやる』っつう強い意志を持って初めて。
不思議と今でもすぐに出来る気がする。
一度歩けるようになれば、歩き方を忘れないのと同じなのか、感覚で分かる。
出来る、と。
まぁ、今はやりたかないが。
「実際大したモノでしたよ。今や魔力纒身なんて芸当、好き好んで使う人間などいないでしょうから」
「あ?そうなのか?」
「えぇ。普通は魔法を使えますから。そんな大変な思いと、時間をかけて使えるようになりたいと思う人間は変態だけです」
「言葉を選びやがれくそったれ」
それにしてもそうか。
道理でしんどいわけだ。
確かに、魔法使えてガディも使えれば、魔力纒身を時間かけて出来るようになるより、魔法とガディの戦闘を伸ばした方が手っ取り早い。
「それにしても大した回復力です。本来なら医療魔術師にも一週間は目を覚まさないと言われました。ですが、それだけ達者に話せるのであれば問題無さそうですね」
「まぁ、おかげでこちとら死にかけたからな」
身体が全く動かねぇから確認することが出来ねぇが、全身穴ボコだらけだったはずだ。骨も何本折れてるか分かんねぇくらいだったし、何より血を流し過ぎて焦ったな。
肉食いてぇな。
「そういえば、ジジィはいねぇのか?」
「ゼルバトス様は野暮用でしばらく外出されています。あと二、三日は戻らないでしょう。なのでそれまでに傷を完治するように」
「お前めちゃくちゃだな」
「極力ゼルバトス様にご心配をかけたくありませんので」
「お前が言うなクソエロサイコめ」
ジジィがいない時を、わざと狙ったのはジジィの心労を気に掛けたからか。
どこまでも、ジジィ心酔ド変態サイコメイドだな。
「では、私はこれで失礼します。寝たきり不能の貴方に付き合ってる程、私は暇ではありませんから」
「うぜぇ言い方しかできねぇのかテメェは」
ラナはそう言って立ち上がり扉まで歩くと
「昨日の最後の一撃。あれは、素晴らしかったです。それと、、、昨日の私の貴方に対する暴言、謝罪しておきます」
最後に振り向くこともせず、そう言い残し扉から出て行った。
「チッ、めんどくせぇな」
憎むに憎めねぇじゃねぇか。




