第三十五話 僕の道
「お話、ですか?」
「はい。先ずは我が国、スクエラ皇国を代表して此度の無礼、リッツカール王女の御身を危険に晒してしまった事を、深く謝罪させて下さい。本当に申し訳ありませんでした」
「……えっ」
テイラーさんは極端に顔を俯かせて僕の顔は見ていない。だが、僕が頭を下げているのは目の端に捉えているはずだ。
先手必勝。
とにかく先に謝る。
悪い事をしたんだから当然だし、本当に申し訳なく思ってる。
だけど
「何より、テイラーさんにお怪我が無かった事だけは不幸中の幸いと思わざるを得ません。この度は私パルキアとの縁談の為に態々御身にご足労頂いたのも、我が国スクエラと貴国リッツカールの婚儀が成れば、アース大陸の平和の礎になるからと愚考します」
「……ぃや、ぇ」
そう。縁談のそもそもの理由は、十中八九大陸平和の筈。
であれば
「そこで一つ、誠勝手ながら、王女の懐の広さを見越してお願いがあります。此度の件、大々的に露見すれば、我々の国は他国を巻き込み大規模な戦争となると予想されます。ですが、それは王女様としても不本意な筈。であれば「お待ちくださいっ!」っ!」
テイラーさんは振り向き、こちらに背中を見せて僕の言葉を制止した。
ダメだったのか。
「ともかく一度落ち着きましょう。先ずは、謝罪を受け入れます。パルキア様が身を呈してお守り頂いたお陰で、私も無傷です。が、起きてしまった事実を無くす事は出来ないでしょう」
終わった。
そりゃそうだ。他国に縁談しに来て、その国の人間に殺されかけたんだ。
無かったことになんて出来るわけがない。
それなら
「事実を無くすことは勿論出来ないでしょう。ですが、このまま事を表沙汰にしてしまっては、関係の無い人達が沢山死んでしまう。苦しんでしまう。そんな事……あってはいけない」
「だからなんですか?」
やむを得ない、か。
「私に、出来る事があるならばなんでもします。なんでもしますから、この事を胸の内に秘めて頂けませんでしょうか」
「愚策、ですね。一つ聞いてもいいでしょうか?」
「はい」
「何故、その様な形式張ったお話の仕方をなさるのですか?」
かしこまった話し方をする理由?
なんでそんな事を聞くんだろう?
答えは当然。
「国の大事だからです」
「それが間違っているのです。勿論、事は簡単なものではありません。ですが、貴方が今、私に対して行っている事は懇願です。ならば皇子として話すのでは無く、パルキア様としてお願いするのが道理だと思うのです。何故ならば、私が王女としてその話を受けるのであれば、答えはNOです。私個人で決めていい事案では無く、国に持ち帰り考察する必要があるからです」
その通りだ。
でも、僕がパルキアとして話をしたところでテイラーさんの答えは変わるのか?
それは分からない。
となると、間違ってしまった僕が今できる事。
「テイラーさん。お願いします。僕に協力してほしい」
愚直に言われた通りパルキアとして頭を下げる事。
これしかなかった。どう抗ったらいいか分からないなら、少しでも可能性のある事を試していくしか無い。
僕は未熟だ。
それでも皇になる為に恥をかなぐり捨ててでも成長するしか無いんだ。
どんな答えが、どんな結果が待ち構えていようとも。
「えぇ。喜んで協力しますわ」
テイラーさんは僕の方に振り返り、顔を真っ赤にしてニッコリと微笑み、そう答えてくれた。
「え、本当!?」
「えぇ。勿論」
僕をしっかりと見据えて、微笑んだまま肯定してくれた。
なんでこうなったのか僕には全く分からない。でも、結果として僕の願いはテイラーさんに届き、快諾された。
でも
「だけど、僕はまだテイラーさんを、お嫁に貰うと約束は出来ないんです。僕には皇になるという目的があるから。だから、少し待ってもらえませんか?」
途端にテイラーさんの顔がキョトンとした顔になった。
そりゃそうだ。お願いにお願いを重ねて、虫が良すぎるにもほどがある。呆れられても仕方ない。
だけど、これも譲れない事実。しっかりと僕と向かい合って、話を聞いてくれたテイラーさんをごまかしたらいけない。
だから、僕も正直に話さなきゃいけない。
「ふふふ。えぇ。いいですよ」
また微笑んで分かってくれた。
「あ、ありがとうございます」
何故こんなに僕にとって良い様に話を受け入れてくれるのだろう。
それに、テイラーさんの笑顔は僕の緊張をほぐして、自然体でいさせてくれる。
ずっと見ていられる笑顔だ。
と思っていたら、テイラーさんの顔が真剣なものに変わった。
「ですが、パルキア様の皇への道は険しいですよ。現に、パルキア様は知らないみたいですので」
「え?何を?」
「私はここスクエラに、パルキア様を婿に迎える縁談をしに来たのです」
「む……こ?」
「はい。パルキア様がそれを知らないという事は、現皇ジャルジア様もパルキア様の敵。ということになります」
「なっ!」
父様も、敵?
いや、なんとなく分かってはいた。
じゃないと説明がつかない事も沢山あったし、リーシャもそれとなくそう言ってくれていた。
だけど、実際突きつけられると辛いものがある。事実上、この皇城で僕の味方は、ほぼいない事が確定したんだから。
「それでも、パルキア様は皇を目指されるのですか?正直かなり絶望的な状況と言えます。お嫌とは思いますが、リッツカールへ婿入りすれば、肩身の狭さなど感じさせず好待遇で迎え入れる事をお約束します」
考える必要もない。
「はい。僕の道は、皇になる事が確定事項ですから」
「即答、ですか。流石でございますね」
また、表情を柔らかくさせて微笑んでくれた。
僕は急に恥ずかしくなって、目を逸らしてテイラーさんの横にあるテーブルを見た。
するとそこには、とても見覚えのある絵本があった。
「あ、これ」
「覚えておいでですか?」
覚えてるも何も、僕の部屋にもある大好きな物語の絵本だ。
あっ!
「思い、出した。小さい頃、僕がリッツカールに行った時、この絵本を一緒に読んだ子がいた。その子も、この絵本が好きみたいだったけど、あんまり話をするのが好きな子じゃなかったんだ。でも、僕嬉しくなって沢山話しかけちゃったんだ」
「はい。それが私です」
そう言って僕はテイラーさんとまた目があった。
不思議だ。
恥ずかしくない。
こんなに、ずっと顔を見てられる女の子なんて、ミラちゃん以外で初めてだ。
ていうか、ミラちゃんともこんなに長い事、目があった事なんてなかった。
〝あの〜、イチャイチャしてるとこ申し訳ないんだけど。このバカ侍女と、この後のことを話しておかないといけないんじゃないかな〟
「「あ、はい」」
リーシャにそう諭されて、急に恥ずかしくなってテイラーさんと同じタイミングで目を逸らしてモジモジした。




