第三十四話 目指す皇
「なんで、パロマ」
そう溢れるように僕の口から言葉が漏れた。
そこには、へたれこむように座り込んだパロマが僕を無感情な表情で見上げていた。
「パルキア……殿下」
〝君は一度ならず二度までも、僕の主人に危害を加えた。その罪は万死に値すると心得よ。楽に死ねると思うなよ。女下僕〟
部屋全体を冷気が満たしリーシャがパロマを威圧する。
「リーシャ、落ち着いて。僕はリーシャのおかげで無事なんだから大丈夫。でも、テイラーさんはそうはいかない。パロマ、なんでこんな事をしたんだ」
貴賓室まで送ってくれた時のパロマの表情と今の表情がまるで別人だ。
今でもパロマの表情はなかなか表に出ない。だけど出会った当初と今とでは、上手く言えないが全然違う。
今のパロマは昔に戻ってしまったかの様な顔つきだ。
「また、失敗してしまいました、か。仕方、ありませんね」
「パロマ。質問に答えて」
「いいえ。答えません。ただ、最後に一つ」
パロマはそう言うと一瞬顔を俯かせて、僕の顔を再び見る。その顔は変わらず凍った様な無表情なのに、瞳からは滂沱の涙が流れ出ていた。
無表情という仮面を被りつつも、心で泣きじゃくっているかの様に。
「私は偽る事なくっ、パルキア殿下が皇になられる事を願っておりますっ、どうかっ、負けないで下さいませ」
パロマは言い終わると、懐から小剣を取り出し、そのまま自分の胸へ突き立てる。
刺さる瞬間
〝許さないよ。自害なんて〟
リーシャがパロマの小剣を持った右腕を凍らせた。
だけど僕はそこで違和感を覚えた。
なんでかは分からない。
パロマが最後の言葉を言い終えてから、三秒もまだ経っていない。だから細かい理由を考え見つけたわけじゃない。
ただ、焦燥感が僕を駆り立てた。
その焦燥感に従うまま、僕は走った。
そして
「パロマ!ダメだー‼︎‼︎‼︎」
叫んだ。
一瞬、パロマの無表情の仮面が驚きに変わった。が、すぐに元の顔に戻った。そして左手で指を弾いて小気味良い音が鳴らした。
すると、パロマの真下に魔法陣が描かれていたらしく、その魔法陣が発光する。
まずいっ。
「“エアブースト” 」
風の初級高速移動魔法。
初級魔法にする事で発動時間を劇的に早められる。中級魔法は発声してから発動までに1秒程のラグがあるけど、初級魔法はコンマ1秒を切る。
間に合えっ!
両手を前に突き出して、パロマに突貫する僕の視界は、周りの動きがスローになっていた。
パロマがまた、驚きと悲痛の表情を浮かべ、涙が溢れた瞬間まではっきりと見えた。
そして
触れた。
風の魔法の惰力で少しづつパロマに力が入っていき、ついに押し飛ばした。
やった!
瞬間、地面の魔法陣から幾本もの棘がせり出してきた。
〝“アイスロック”〟
地面から出てきた棘が僕の身体中を突き刺す。だが、リーシャの魔法で棘を氷で固めてくれたおかげで僕に全てが刺さることはなかった。
でも、すっごい痛い。
腕、脚、お腹。至る所に大小様々な穴が空いているが、致命傷にはなってない。
「なんで……」
僕に吹っ飛ばされて、横たわる体勢のままパロマが呟く。
「なんではこっちのセリフでしょ。痛いなぁ、もう」
「もう私には生きる意味なんてないのに。なんで助けるんですか!私は貴方を殺そうとして、更にはリッツカール王女をも殺そうとした国家反逆者なんですよ!?」
大粒の涙を零しながら、いつものパロマらしからぬ激情をぶつけてくる。
「そうだね。でも、君はその前に僕の侍女だ。僕の目の前で死ぬことは許さない。そして裁かれるなら然るべき所で裁かれなければならない。だから、その前に何故こんなことをしたのか教えてほしい」
「……それ、は――――」
ポツポツとパロマが語り出した。
母親をガルシア兄さんに助けられた事。
それにより王宮付きになった事。
そこで様々な訓練を受けた事。
訓練が終わりガルシア兄さんの諜報員として僕の侍女になった事。
ガルシア兄さんに僕を殺せと命じられた事。
その後の僕の対応でパロマはこんなことをしたくないと思った事。
最後に母親を殺されたくなければリッツカール王女を殺せと命じられた事。
「ガルシア……兄さん」
分かってはいた。
ガルシア兄さんが僕の事を疎んでいることも、剰え殺そうとしている事も。
だけどそれを関係のない人間まで巻き込んで、脅してやらせるなんて。
〝パル君。まずは傷の治療を〟
「うん。でもその前にこの話は急を要する。分かるね?」
〝分かるけど、そのままってわけにはいかないでしょ。治癒魔法は得意じゃないんだけどな。“アクアヒール”〟
傷ついた箇所にリーシャが放った水玉がくっ付く。すると水の張り付いた箇所がぼんやり光りを発した。
くすぐったいけど、心地いい。
「パロマ。君のした事は、君の言う通り国家反逆だ。唆した首謀者が王族だろうと、やった事はやった事だからね。でも、それは不本意だったんでしょ?パロマの本心を聞かせてほしい」
「勿論でございます。生まれ変われるのであれば、今度こそ誠心誠意パルキア殿下のお側に仕えたいと、神に懇願するばかりです」
「分かった」
悪いのはパロマじゃない。
ガルシア兄さんだ。
もっと言えば、この皇位継承戦制度。
こんな制度が無ければ僕たちは争わずに済んだし、関係のない人が巻き込まれることもなかった。
だから、僕はせめてパロマだけでも救ってあげなきゃいけない。
僕の目指す皇は、そうゆう皇だ。
と、なると。
「テイラーさん。お話をさせていただいてもよろしいでしょうか」




