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第二十八話 気色の悪い

 ※ガルシア視点


「なんだよ」

「まぁ、座れ」


 いきなりまた親父に呼び出された。

 やっとあの出来損ないの弟を排除する算段でも出来たんだろうか。


 もう無理だ。無理に決まってる。魔法も凄くて、努力も出来て、あんなに優しい奴。ああいう奴が皇になるんだ。

 勝てっこない。


 でもアイツが皇になったら俺は、きっと。


「この前の話の続きじゃ」

「そっか!流石親父だぜ。で、どうするんだ?」


 良かった。本当に良かった。親父はまだ俺を信じて皇にしようとしてくれてる。


 アイツさえいなければ俺だって。アイツさえ、いなければ。


「うむ。まずワシはな。ワシの子供達を、お前達を傷付け合わせたくないと考えている。それを踏まえて決断した」


 え?何を言ってるんだ?どういうこと?


「争うのは仕方ない。そして長男のお前がそれだけ焦るのも仕方ない。だが、父としてお前達が傷付け合うのは見たくない。だから、お前達がみんな幸せになれるような案を考えた」


 みんなが幸せ?

 そんなの、ある筈無いじゃないか。


 俺が皇になったらアイツは殺さなきゃいけない。いつ反旗を翻すか分からないし、アイツの力がすごい事くらい他の連中も分かる。

 そうなったら比べられて俺がバカにされる。パルキアは凄いのになんで俺は、って。


 そんな惨めな思いをし続けたくない。


 もし、俺が負けたら、今まで俺がしてきた嫌がらせの仕返しをきっとされる。

 下手をしたらアイツも俺を殺すつもりかもしれない。


 怖い。

 だから絶対にアイツにはいなくなってもらわないといけない。殺してでも。


「その案とはな。パルキアをリッツカール帝国へ婿に出す。以前からその話は帝国側から出ていたんじゃが、つい先ほどその話を固めた」

「え?婿?」


 どういう事だ?


「パルキアを帝国へ婿に出し、この国から出すのだ。そうすればお前がここの皇となり、お前は幸せ。パルキアは帝国の軍事力に守られパルキアも幸せ。そしてこの国もワシの次男を帝国に婿へやった事で、他国との争いが起きる事はしばらくない。どうじゃ?」


 確かに、パルキアをこの国から追い出せればこの国の皇となるのは俺だ。


 だが、それで本当に大丈夫なのか?


 アイツが婿に行くのを嫌がったら?

 帝国の王女がパルキアを嫌がったら?

 そもそもアイツは女が苦手だろ?嫌がるに決まってる。


 ダメだ。そんなんじゃまた失敗する。


「そんなんじゃダメだ。不確定要素が多すぎる。どうなるか分かったもんじゃない」

「そこはワシがどうにか話を固める!大丈夫だから安心して待っておれ」


 このまま親父に任せていたら、また同じ事の繰り返しだ。

 結局、親父は甘いんだ。


 みんなが幸せ?

 ふざけた夢物語だ。


 だが、それでも現状、俺に次善策があるわけじゃない。

 この前の暗殺失敗で、もう次は親父ですら庇いきれなくなってもおかしくない。


 今は嫌でもこの策に乗るしかないか。


「くっ。もういいっ!」

「お、おい!ガルシア!」


 そう言い放った勢いのまま立ち上がり、執務室を後にする。


 クソが!クソクソクソクソクソ!


 もう、嫌だ。

 なんなんだよ。親父はあんなで使えないし、パロマは失敗するし、なんでこんな上手くいかないんだよ。


 そもそもなんでこうなったんだ。長男が皇になるもんなんじゃないのかよ。なんでアイツの方が優れてるんだ。


 分かってるんだ。俺だってアイツの方が出来がいいって事くらい。

 でも、長男が普通は継ぐもんだろ。どこの国も大抵はそうじゃないか。なんで、うちの国だけこんな訳の分からない皇戦をさせられなきゃならないんだよ。


 そうだよ。

 俺は皇戦をさせられてるんだ。

 戦いたくもないのに。だから、仕方ないんだ。

 俺が弟を殺したって。やらされてるんだから。俺が皇になる為には、アイツを殺さなければならない。そうだよ。


「ふふふ、ふふ、はははは」

「大丈夫ですかな?ガルシア殿下」

「っ!イディオか」


 イディオ大臣。

 チビデブハゲの三拍子揃った不細工な奴。

 だが、皇国内ではかなりの発言権を持っている。親父ともほぼ対等に口を聞ける数少ない人間だ。


 イディオは昔から俺の事を可愛がってくれる。パロマの飼い慣らし方を教えてくれたのもイディオだ。

 パルキアの陰口も嫌な顔一つしないで聞いてくれる唯一の俺の理解者。


「聞きましたぞ 。パルキア殿下を婿に出そうとなさってるようで」

「なっ、もうイディオの耳に入ってるのか?」

「この皇城でワシの耳に入らぬ事などありませぬぞ?ぐふふ」


 相変わらず気持ち悪い笑い方だな。


「そうか、イディオには隠し事など出来んな」

「そうですぞ。殿下が陛下のご提案に納得いっていない事も、このイディオには分かっております故」

「そうか。だが、今はそれに乗る他ない」

「何を仰いますか。とても堅実なご提案と、この不肖イディオ愚考致しますぞ?」

「アイツが婿行きを嫌がったらどうする?帝国側の王女が嫌がったらどうする?不確定要素が多すぎるであろう」

「いえ、殿下。その不確定要素の無い結果に持ち込めばよろしいではないですか?」


 不確定要素の無い結果?

 どういうことだ?

 パルキアか王女の弱みを握ってそうなるように仕向けるって事か?

 いや、王女の弱みなんて今から簡単に掴めるようなもんじゃ無い。

 そもそもパルキアの弱みの前に、アイツは女が苦手なんだ。縁談すらうまくまとまらない可能性だってある。


 そんな事イディオも分かっているはず。

 じゃあなんだ?


「回りくどい言い方だな。はっきり申してみよ」


 そう言うと、イディオは顔を近づけ耳元で言った


「何も、パルキア殿下が死ななくとも殺す方法はある、という事です」


 そう言ってイディオはうす気味の悪い笑みを浮かべて俺から顔を離した。

 とても悪い、気色の悪い笑顔だった。


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