第二十七話 皇女は美少女
スクエラ皇城、北の尖塔。
この尖塔はスクエラ皇国内で最上級の高等結界が張られている。
そこには国を挙げて守りたいモノが、護りたい者がいる。
それは僕の妹、アリア・ブーヤ・スクエラ。
国宝級の可憐さを持つ、優しく慈愛に溢れた最強の妹。
ただ可愛いから守られているわけではない。
アリアは全世界で稀に生まれる、神様の転生体“神子”として生を授かった。
この世界ライフでは、魔法属性ごとに神様がいて、その神様が気分で下界を観察に来るんだそうだ。その為にこの世界の人間の誰かに転生する。それが神子。
転生と言っても人格はアリアそのもので、神様の人格というわけではない。神様は神子の身体のどこかに刻まれている刻印にいて、そこから世界を見ていると言われている。
アリアには、おでこの左上部分に小さな黄色いギザギザした変な刻印が刻まれている。
そんなアリアには家族の僕でも一ヶ月に一度しか会うことが出来ない。
今日がその日。
北の尖塔に着くと、いつも通りアリアの部屋の前で結界の管理をしているフォードさんがいた。
「フォードさん毎日毎日ご苦労様です」
「パルキア殿下。この度はご成人おめでとう御座います」
フォードさんはいつ見ても渋い。綺麗でいて精悍な顔立ち。背は二メートル以上あるが、細身ののっぽさんで、何よりフォードさんの耳はとても長く頭の上まで伸びている。
フォードさんはエルフだ。
アリアの為だけにわざわざ、エルフの里を出て、ここで結界の番人をしてくれている。
結界術を得意とするエルフの中でも指折りの実力者なんだそうだ。
「ありがとうございます。あ、これいつものです」
「おっ。いつもありがとうございます。いやぁ、殿下がこっそりお持ちくださる、この本だけが私の心のオアシスです」
「大袈裟ですよ」
フォードさんはここをずっと離れない。
アリアの結界をコントロール出来るのがフォードさんだけだからだ。ご飯もここで食べるし、寝るのもここで寝る。僕がまだ小さい時に、トイレはどうしてるのか聞くと、秘密だ、と言われたのを覚えている。
だから、僕は小さい時にフォードさんに聞いたんだ。
『退屈しないの?』と。そしたらフォードさんは
『それが私の使命ですから。ただ、欲を言えば何か読み物でも、里から持ってくれば良かったと思っています』と答えた。
それを聞いて、その次の月からアリアに会いにくる度に、僕は本を持ってきては、先月渡した本を回収するという流れが出来た。
「いえ、パルキア殿下の優しさは本当に心地いいです」
「いつも妹を守ってくれて頂いていますから、これくらいさせて下さい」
「大人になられましたなぁ。おっと。いけませんな。早く殿下を行かせなければ、またアリア様に叱られてしまいます」
そう言ってフォードさんは、尖塔の扉と向き合う。尖塔に入る扉は城内の、どの扉とも違う。高さ五メートル程ある重厚感抜群の扉だ。
その扉と向き合うと、目を閉じて呪文を唱えながら両手で不思議な形を次々に作っていく。
これは、“印”と言うらしい。一つ一つの手の形に意味があって、呪文と掛け合わせることにより大きな力を発揮するんだそうだ。
これはエルフの里の特殊な魔法らしい。
しばらく見ていると、大きな音を立てながらゆっくりと扉が開いていく。
「お待たせしました。どうぞ中へ。アリア様もお待ちです」
「ありがとうございます!いってきます!」
扉を抜けると、赤い膜のようなものが張られていて、そこを突き抜ける。
すると、そこは広い草原に繋がっている。
尖塔の中の筈なのに、ここには太陽があり、川が流れ、草木が生い茂っている。
生き物だっている。兎や鹿や鳥、川には魚やなんかも。
もちろん
「にぃにだー!」
アリアも。
綺麗な銀髪を膝の下まで伸ばし、白いワンピースで駆け寄ってくる。
綺麗な白い肌に髪と同じ色の睫毛と眉毛。大きくクリクリした紫色の妖しい瞳。十二歳の少女なのにもかかわらず、妖艶さも兼ね備えた、我が妹ながら最強の美少女だ。
「おはようアリア。また裸足じゃないか」
「遅いです!にぃには真面目ですから時間を違うはずがありません。またフォードの長話ですね!んもぅ!あれだけ言ったのにっ」
「まぁまぁアリア、落ち着いて。さて、今日は何をしようか?」
「はいっ!今日はですね!わたくしが――」
こうして毎月どこかの一日だけアリアと過ごす時間が作られ、僕は一日中アリアと過ごす。
アリアは家族とも簡単に会えずに寂しいだろう。
だけど、それもこれもアリアを守る為。
ひいては人族を守る為。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「にぃにっ!お味の方はいかがですか?」
「とっても美味しいよ!また腕を上げたね!」
アリアの焼いたクッキーを小屋の中で食べていると、アリアがキラキラした瞳を更に輝かせて聞いてきた。
「嬉しいですっ!家族の誰かが来てくれたら作って差しあげようと思って、ずっと練習してたんです。最初がにぃにでよかった」
「そっか。みんな喜ぶと思うよ。最近は誰か来たの?」
「いえ。お母様は毎月にぃにと同じで来ていただけるのですが、お父様とガル兄様はずっと来ていただけていません」
「そっか」
この結界の中には五人の人間しか入れない。普段はアリアと侍女の二人とフォードがいて、アリアの面倒を見てくれている。その為、結界内に入る人間は必然的に残り一人になる。
だから、僕達家族も代わり番こにアリアの部屋に遊びに来る。
でも最近はガルシア兄さんと父上は来ていないらしい。
皇戦で忙しいから仕方ないけど、僕は自分の息抜きも兼ねてくるべきだと思う。
だってこんな可愛い妹が待ってるんだもん。
「みんな今は忙しい時期と聞きました。にぃにも、もうすぐ来れなくなってしまいますね」
「え?僕は毎月欠かさず来るよ。どんなに忙しくてもね」
「でも、お母様からもうすぐ婚約なさると聞きました」
「え、誰が?」
「え、にぃにです」
「は?」
〝ぶっ〟
え、コンヤク?
僕が婚約?
結婚の約束ってコト?
いや、聞いてないんですけど。
なによりしないよ?
そんな話誰が持ってきたの?父上?それとも母上?
しかもなんでこの時期に?
ドウイウコトダ?
「にぃに、大丈夫?」
〝いや、多分大丈夫じゃないね。こんな目を回して分かりやすく混乱してる人初めて見たもん。あ、妹ちゃん、紅茶もらっていいかな?〟
「え、でも、にぃにが」
〝放っておけば大丈夫だよ。同年代女性恐怖症って言うふざけた持病なんだ。大したことはない。だから紅茶ちょうだい〟
「あ、はい」




