二十六話 新たな力
スクエラ皇国南部。
「神樹ユグドラシル。2000mを優に超える前人未到の高さを誇る超巨大樹。これを記録したのが、全世界で七人しかいない冒険者プラチナムランカーその一人。人族ギラン・グローリーです。登頂に挑戦したギランは次のように述べました。
『ありゃあ、人が登るもんぢゃねーな!おれも最強だが、あくまで人の身での話だ!生まれ変わったら神にでもなれねーかな!?ガハハハ!!』
と。これは遥か昔から神樹の天頂部には神が住まうとされている事から、ギランはそう口にしたのだと思われます。そして話を戻しますと、そのユグドラシルの根元の大きな泉、それが今向かっています”叡智の泉”でございます。この叡智の泉は神樹を一周するようにぐるりと囲まれ――」
この人話長いなぁ。
神樹守護隊隊長ヨマワル・クチャナさん。
僕が余計なこと聞かなきゃよかったんだけど。まさか「泉の守護は大変ですか?」の一言からここまで長々と話されるとは思わないもんなぁ。
でもさぁ、僕は地雷を踏み抜いた本人だし、立場もあるから聞いたフリだけでもしなきゃいけないとは思うよ?でも最初一緒に聞いてた騎士達八人は、もう我関せずを貫いて、あたりを警戒するフリしちゃってる。
警戒する必要なんて全くないのに。
ずるいなぁ。
「――G B F対象者が自分の身体情報、つまり血液を泉に流すことによって対象者に合ったガディ、アーティファクトが与えられのです。きっとパルキア殿下も素晴らしいアーティファトと巡り会えるでしょう」
やっと、喋り終わった。
「パルキア様到着しました」
と思ったらもう着いちゃった。
“叡智の泉”
本来G B F対象者はこの広い泉のどこかへ時間、場所ランダムで転移させられる。
そして、そこで血を泉に流して、ガディとアーティファクトを神から授かることになる。
だけど僕みたいな皇族はあらかじめ強制転移しないように”破魔の冠”を身に着けて、泉近くの皇族専用の別荘で一般のGBFが終わるまで待つ。
そして一般のGBFが終わり、時が来た。
泉まであと100メートル程になったところでこれまで一緒に来た騎士達はそこで立ち止まる。
「ご武運を」
いつもよく喋るヨマワルさんが短く言って、跪く。すると、周りの守護隊、騎士達もそれに倣い跪く。
「いってきます」
僕もその雰囲気に飲まれて神妙に返し、泉へ歩るきだす。
〝固いなぁ。もっとゆるーく行こーよパル君〟
この場に似つかわしくない弛みきった声が僕の力を抜く。
「人間は雰囲気を大事にする生き物なの。分からないならほっといてよ」
〝雰囲気も何も、あの水溜りに唾でも吐きつければ、便利な道具が貰えるってだけじゃないか〟
「……少し黙っててリーシャ」
もうやだこの蛇。
蛇にモラルと空気を理解してって思うのが間違ってるのかな。
そんな下らないやり取りをしていたら、あっという間に泉の目の前に着いてしまった。
気を取り直さなきゃ。
目の前の泉はまるで真っ青な地面の様だ。波紋一つ、水面の揺らぎ一つ無い綺麗な泉。
ここから見ると、青い地面に大きな木が生えている様に見える。
それくらい異様な光景だ。
ここが叡智。
〝ふぁ〜ぁ……あ、ごめんよ〟
リーシャの欠伸を一瞥して黙らせる。次なんか言ったらもう紅茶飲ませてあげない。
「ゴホン」
今度こそ気を取り直して。
懐から小さな剣を取り出し、目を閉じる。
これで僕も大人になる。そしてこれから、
〝だからパル君ナイフは要らないって。唾吐きつけるだけでいいんだって〟
「……もう紅茶飲ませてあげない」
〝え〟
極力声に温度を持たせない様に言って本当に怒ってる事を分からせる。
よし、もう気にしない。
親指に小剣を当てて傷を作る。
そしてその親指を握り込み数秒力を入れる。
その手の力を一気に抜くとゆっくり血液が流れ、拳の中を伝う。
最後に軽く握った手から血が溢れ、泉に落ちる。
綺麗な水面に僕の血が落ちたことによって小さな波紋が広がる。
広がる。
広がる。
そして、静かに元の綺麗な水面に戻る。
一瞬、しん、と何もない時間をおいた後それは起きた。
強烈な光が音もなく泉全体から迸る。
赤、青、黄、緑の綺麗な極彩色が辺り一面を染め上げる。だけど不思議と目が眩むようなことはなくて、美しく変わり変わり輝く泉の光を僕は眺め続けた。
〝いつかパル君は言ったね。『僕は弱い』って。この光が君の力だよ。そしてこの光の種類が君の強み。しっかりと見て感じるんだ。君のポテンシャルを〟
「これが、僕の」
光の色は使える魔法属性。光の強さはそれぞれの適正。光の継続時間は魔力量。これはものすごく大きなオールストーンみたいなものなんだ。
これが僕の力。
リーシャがいつも言う僕の本当の力。
しっかり目に焼き付けておこう。この光を。
そして肌に刻み込もう。この空気を。
それを持って信じよう。自分の力を。
どれくらいの時間を、こうしていただろう。
十分?、いやもっとかな?三十分くらいか?止まない鮮やかな光を全身で眺め感じていた。
すると、広がっていた極彩色の光が、徐々に辺りから僕の目の前だけに収束された。そして、その光の結晶が僕の前にプカプカと浮かんでいる。何かを待っているかの様に。
不思議とどうしたらいいか分かる。
僕の前に集まった光に両手を入れる。
そうすると光が形取られていく。
光が収まるとそれは短杖に。
「“天杖グラフローレン”」
手に持った瞬間グラフローレンの全てが頭に吸収された。と言うより元々知ってたかの様な自然さで扱い方が解る。
理解すると、この杖の性能が半端じゃない事に恐怖を覚える。
ぶっ飛んでる。
こんなすごいものが僕の
〝天杖か。ま、パル君と僕の武器なんだ。これくらい当然だよね〟
「当然、か。そうだね。頑張ろう。リーシャと、このアーティファクトを与えてくれた神様に幻滅されない様に」
〝相変わらず謙虚だねぇ〟
そうだ。
みんな僕に期待してくれているんだ。
リーシャやパロマ、僕を応援してくれる騎士や国民。この人達の期待を裏切らない様に励もう。
絶対に成るんだ。
皇に。
〝何はともあれ、これで神をも殴る力も得たねぇ。もうなんでもパル君の思い通りだ〟
「殴らないけどね!?怖い事言わないでよっ!」
神様を殴るとかはよく分かんないけど、確かにものすごい力だ。
調子に乗らず、今まで通り謙虚にいこう。増長して良いことなんてある筈ないんだ。
堅実に、優良に、目的を見失わない様に。
〝ふぁ〜ぁ。じゃあもう帰ろ。僕、疲れちゃったよ〟
「そうだね。帰っても紅茶は飲めないけど」
〝え〟
空気とモラルを少しでも理解するまでお預けです。




