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第二十三話 表と裏

 あの事件から身体も全快した三週間後の朝。俺はまたボッコボコにされている。


「まだそんなことをしているのですか。二十八回前の調教の時にも、それは潰したはずですが。貴方まさかドMですか?」


 イラつく。ついクセで出ちまうな。

 大振り攻撃のフェイントからの足払い。大概の奴はこれで必勝だったのを、いとも簡単に止められちまう。

 確かに何度か止められてんだが、攻撃の当たらないストレスでたまに、そのくせが出ちまう。


 足払いのモーションに入る前に顔面に喧嘩キックをくらう。


「ぐっ、てめぇ!容赦ねーなおい!そんで毎回稽古の内容覚えてんのかよ。どんな頭してんだよ」

「容赦?教えを請うてるのは貴方の方でしょうが。ゼルバトス様の頼みだから渋々、嫌々、しょうがなく受けているのです。感謝しなさい居候」


 顎を突き出し腕を組み、尻餅をついて倒れている俺を見下しながらそう吐き捨てるラナ。さらに続ける。


「フェイントがあからさま過ぎます。フェイントの途中で次の狙いに目がいっていてバレバレです。そんな技術では全くイケませんね。こんなでは調教を続ける意味がないと言えます」

「だからって教わった型じゃ、あんたに通用しねぇだろ」

「あなたが異端だからです。まずはそこを自覚しなさい。魔法の使えない人族なんて聞いた事もありません。試しに童貞を三十路まで守り抜いて見せなさい。もしかしたら魔法使いになれるかもしれません。その時は場所と時間を変えてお相手しましょう」


 そう。俺は魔法が使えなかった。

 オールストーンの結果では無属性の適性があったのにも関わらず、何の魔法も何をしても発動しなかった。


 理由は簡単。

 俺がマナに嫌われているからだそうだ。


 魔法を発動をするには術者体内の魔力と自然界のマナと呼ばれるものを合わせ、そこに魔法のイメージをする事で発動する。

 イメージというのは例えば火の魔法を使う時に放射させるのか、玉にして飛ばすのか、灯すのか。そして大きさ、動きの速さ、威力、ここを脳内でしっかりイメージするということ。

 それを踏まえて簡単に言えば

(魔力+マナ)×イメージ=魔法

 この様な形であると言える。


 だが、俺はそもそもマナに嫌われている為マナが俺の魔法発動に協力してくれない。

 嫌われている理由は、ジジィに言われずとも察した。俺がこの世界の人間じゃないからだ。


 この世界の人間じゃないとかその辺の事は考えても仕方がないからもう考えない様にしている。

 ムカつくだけで何の解決にもならねぇからな。


 で、だ。俺は魔法が使えないから今はひたすら体技を伸ばさなきゃならないと。

 そこで、ジジィに言い渡された一日の流れが


 朝起きて朝食を摂り

 午前は体技

 昼食を摂り

 午後は魔法

 晩御飯を食べた後

 夜に座学


 これをひたすら繰り返していくらしい。

 基本午前はラナが体技を見てくれて、午後からはゼルによる魔法講義と実技。

 この午後の魔法は、俺に合わせた特殊な魔力運用を教えてくれるらしい。


 まぁ、控えめに言って充実した毎日を送れそうだ。

 目的があり、その為に手を貸してくれる人達がいる。


 がっかりされない程度には頑張らねぇとな。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 皇城執務室。

 豪奢な椅子に腰掛け、両ひじをこれまた豪奢な机に付き、顔の前で手を組む疲れた初老の男。精悍な顔つきで金髪、金眼が鋭く油断ならない雰囲気を醸し出していた。


 現スクエラ皇 ジャルジア・ブーヤ・スクエラその人である。


「まさか暴挙に出るとは……油断していたな」


 目の前に並べられた二枚の報告書を見ながら呟く。どちらもパルキアが襲われた襲撃事件のことについて書かれている。

 一枚は[偶然盗賊に出会い襲われた]とされているが、もう一枚のジャルジアの密偵に調べさせた報告書には[ガルシア皇子がパルキア皇子を暗殺するために引き起こしたもの]との記載がある。


「どうしたものか」


 皇位継承がかかっているが故に兄弟が争うのも、ある意味昔からの伝統なのだ。ただガルシアの場合、特にプライドが高く傲慢であった。その為、長男の自分が皇になれないなど許されないという行き過ぎた考え方からパルキアに対し早めの対策を取ろうとしていた。


 パロマもその一つだった。

 元々パロマは、小さな村で病に伏せた母を養う健気な一人娘であった。そこにガルシアは付け込み大金を払い、半ば奴隷のように買い取って来た。そして暗殺術等の教育を施し、監視代わりに皇子付き護衛侍女としてパルキアに貼り付けていた。

 今回の一件にも一枚噛まされているということはジャルジアには容易に想定できるものであった。


 ジャルジアがそんな思考に耽っているとドアをノックする音が聞こえる。


「入れ」


 扉を開け入ってきたのは、ジャルジアと同様、金髪金眼で鋭い眼光を放っているが、少しふくよかな体躯をした青年。


 スクエラ第一皇子 ガルシア・ブーヤ・スクエラ


 その顔には焦りと不安が浮かんでいた。


「なんだよ呼びつけて」

「解っておろうが、呼び出された理由位」

「ちッ」


 ジャルジアはこのまま放っておけば、ガルシアが更なる暴走を引き起こすことを懸念した為に呼び出したのであった。


「親父の事だから、調べはついているんだろうな」

「案外あっさり認めおったな」

「あぁ。悪いが皇になる為なら邪魔するやつは全員消す」

「落ち着け馬鹿者。パルキアを手にかけたところでバレたら元もこうもないじゃろ」

「だったらどうしろってんだよ!!!」


 ガルシアがこうなることはジャルジアからすれば想定内であった。だからパルキアを守る為に、今まで極力ガルシア贔屓に動いていた。だが、そこまで何かをする必要はなかった。パルキア自身、皇選に積極的では無かったからである。


「クソがっ!あのクソメイドもしくじりやがって、誰のお陰でこの皇城に入れたと思ってやがるっ!」


 ガルシアは目の前の椅子を蹴り飛ばしパロマに対し悪態をつく。


 元々パロマからパルキアが城を抜け出し、街に降りているのは聞いていた。

 初めてパルキアが城を抜け出したと聞いた時は驚いたが、パロマも付いているし、あわよくばそのまま皇選から別のところへ興味を持ってくれればと放置していた。


 だがそれはジャルジアの誤算を生み出した。


 まず友を作り、勇気を持ち、根性を得た。

 元々あった魔法の才も伸び、年齢に似つかわしくない博識な知識もさらに増えていった。苦手だった戦闘も、どういう訳か人並み以上にこなし、怖がっていた人付き合いも今では自分で茶会を開くほどとなっている。


 異常な成長。


 全ての能力で三つ年上のガルシアを上回る程に。


 急激な変貌を見せたパルキアを見て周りの貴族や皇城勤務の使用人までもがこう言った。


 ブーヤ家始まって以来の傑物。

 神に愛された人族最高傑作の神童。

 そして

 パルキア様が皇と成ればスクエラは安泰だ。と。


「このままじゃ俺……」

 頭を抱え込むガルシアを見ながらジャルジアは深く長いため息を吐いた末、決断する。

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