第十九話 あの夢この現実
ここはどこだ。
かなり栄えた夜のネオン街か。見覚えはあるが思い出せない。
ん?あれは。
〝狼共ぉ!天誅!!!〟
広い道の真ん中を歩く黒スーツ六人の男達に二人の柄の悪い男達が大声を張り上げ襲いかかった。
〝兄ィっ!下がれ!〟
六人の中の一人を庇うように他の五人が囲む。
あぁ、ダメだ。
襲いかかる二人の手には短機関銃が握られ、雑にスーツの一行に向けられている。スーツの一行も懐から拳銃を取り出ししっかりと二人に向け構えた。
やめろ。やめてくれ。
無数の破裂音が立て続けに鳴り響き、遂には辺りに静寂が訪れた。
違う、違うんだ。俺は……
そこには血の海と表現できるだけの血液と六体の屍が伏していた。
五人に守られた男は無傷。何故かその男の顔が陰り見えないのだが、深い悲しみは自分の事のように胸を掻き毟る。
生き残ったもう一人のスーツの男は、銃弾を無数に浴びた筈だが、爛漫の笑顔を守った男に向けると。
〝兄ィよ。そんな顔すんな。兄ィが俺達を守りてぇ様に俺らも兄ィを守りてぇんだ〟
俺はもう失いたくないだけなんだ。
◆◇◆◇◆◇
「っはぁ!くっ……」
起きた瞬間、身体中に異常な激痛が走る。
「目が覚めましたか。おはようございます。ですが、まだ身体とナニは起こさない方がよろしいかと」
痛みに悶えながら身体を再びベットに倒しながら横を見るとラナが付いてくれていた。
心配してるんだか、ふざけてんだか分からねぇが座ったまま、体を起こした俺を諌める事もせず無表情でそう言った。
久しぶりにおかしな夢を見たせいで寝起きから力が入ってしまった。
アレは一体誰なんだ。どうも他人事には思えない。
しかし身体中が痛いな。
俺は確か……!!!
「ラナ!パルとミラは!?」
「落ち着いてください。二人とも無事です。まずはご自身のカラダにお気を遣い下さい」
よかった。無事なのか。
まだ頭がボーッとするが、確か最後はラチュの野郎がミラに攻撃する直前、半端じゃない光があの場を包んだ。そこから先は全く思い出せない。
なんにせよ、パルとミラが無事ならそれでいい。
「襲撃してきた奴らは?」
「十一人もれなくそこで死んでました」
「そうか」
粘った甲斐があったな。あの光は誰かが助けに来てくれた瞬間だったんだ。そのまま全員殺して、俺たちを保護してくれたんだ。
だが妙だな。
何も全員殺す事はなかったんじゃないか?一人二人生かして拷問にかけるのがセオリーの筈。じゃなければアイツらの狙いや、真相は分からず終いだ。
「それでは貴方が目を覚ました事をゼルバトス様に伝えて参ります。何かご入り用はありますか?カラダに障る様なコトじゃなければナイショで奉仕させて頂きますが」
それと俺をここに連れてきたのは誰だ?
俺がドラゴリア邸に居候している事を知ってる奴なんていない。なんせ俺がここにいる事を他の奴らに知られたらジジィの具合が悪いからだ。そうなるとジジィ本人が俺を回収しに来たって事は考えにくい。ラナも同様、ジジィ唯一の専属侍女って事は貴族の間では有名な話らしいからな。
そうなると一体誰が。
「……無さそうですね。伝えてきます」
ラナはそう言って少し寂しそうに部屋を出て行った。
それにしてもあの夢。久しぶりに見たな。それに今度のは具体的、且つはっきりした夢だった。
ネオン街、スーツ、銃。
どれも今考えれば理解出来るが、ここの世界のものではない。ここアースでは見たこともなければ聞いたこともない。
何故俺に理解出来ていて、今まで忘れていたのだろうか。
ジジィの言った、俺はこの世界の人間ではなく、それを自覚していない。
本当にそうなんだろうか。
何より今でもネオン街、スーツ、銃の事はしっかりと認識、理解出来るがその他の事は全く分からない。なんていう名の世界のなんという国に居て、どういう生活を送り、何の経緯でこの世界へ来たのかが全く分からない。
恐らく何らかの事象を体験すると、頭の中で記憶が蘇り、夢として自分で認識出来るようになる。という感じだろうか。
「起きたかの」
考えているうちにラナがジジィを連れてきたのか。
「あぁ」
「そうか。説明出来るか?」
昨日の出来事を簡潔に詳しく話した。
発端はミラが魔物を狩りたがったって事。
それを叶えさせてやりたかった事。
荷馬車に忍び込んでシカクを出た事。
魔物との戦闘中に襲われた事。
相手は前の事件のラチュとジトだった事。
賊は総数十二人だった事。
パルキアが皇子だった事。
ラチュ曰くパルの実兄が首謀者だって事。
ミラが俺を守ろうとしてくれて嬉しかった事。
守りきれずに死ぬほど悔しかった事。
「なるほど、の」
「悪かった。俺の勝手で爺さんに迷惑をかけた」
「気にするでない。童が爺の心配をする必要はないんじゃ」
「俺をここに連れてきたのは誰だ?俺がここで厄介になってる事が周りに知られたら面倒なんじゃないのか?」
「気にするなと言うたじゃろう。そんな事よりも身体はどうなんじゃ」
全身が抜群に痛い。動かさなければ大したことないが、起き上がろうものなら骨、神経、筋肉が痛みで以って動くなと全力で伝えてくる。
「問題ない」
「噓をつけ。お主昨日は九割死んでおったんじゃぞ?骨は全身で細かいところを抜いて三十二本の骨折。所々身体から骨が飛び出ておったそうじゃ。更に三ヶ所の内臓破裂。今こうして話している事が奇跡じゃ。お主じゃなければの」
俺じゃなければ、か。
含みのある言い方だが、恐らくは俺がこの世界の人間じゃないからって事を言いたいんだろ。
「じゃから一気に治癒魔法で治そうとすると、細胞がびっくりして良くないらしい。よって一日に一度治癒魔法をかけ一ヶ月で治すそうじゃ。その間大人しく寝ておれよ」
「分かった」
「本当じゃな?」
「あ?」
「実はの。もう一つ言っておく事があるんじゃ」
「なんだ勿体振りやがって」
「……もう、お前さんはパルキアとミラとは会えんのじゃよ」
は?




