第十八話 最悪の果てに
真っ直ぐにラチュへ突っ込む。と見せかけて直角に右へ跳ぶ。そこにはまだ何をしたらいいか分かっていない馬鹿が三人。
まずは数を減らす。
急に方向転換して自分達の懐に突如潜り込んだ俺にギョッとして体を固める三人。ノータイムで容赦なくナイフを振るい一人目の首を飛ばした。その瞬間、背後で鈍い破裂音と共に強風が吹き付ける。
振り向くと、ラチュがパルに踊りかかっていた。
「魔法使い、遠距離攻撃を先に狙うのは戦闘のセオリーだろぉ?」
そう言って、ものすごい速さでパルに襲いかかる。だが、パルもあの頃のパルじゃない。俺が身体に叩き込んだ護身術がここで生きる。ラチュの振りかぶった右拳を優しくいなして、代わりにボディへ綺麗な掌底を決めた。
ラチュは堪らず腹を抑えて後ずさりパルを睨む。
「僕のことも舐めないで欲しいな」
パルが構え直しながらそう言うとラチュは俯いた。
「……ふふふっ…………ハハハ、ハハハハハッ!」
「!?」
俯いたラチュが突如気でも触れたのか大口を開けて笑い始めた。
やられすぎて壊れちまったか?
関係ない。
ラチュの故障に付き合うことはねぇ。今のうちに数をさらに減らす。
視線を戻し、残りのチンピラ達を睨むと既に戦意は喪失されていた。構えはするものの、顔に覇気はもうない。
「く、来るな!分かったから!もう、諦めるから勘弁してくれぇ〜」
「お、俺もだ!」
そう口々に目の前の大人がガキに向かって命乞いする始末。
みっともねぇ。
「死ね」
ゆっくりと近づき
「うわぁぁ来るなぁ!!!」
「ひぃぃ!!!」
ガディの火やら水やら知らねぇが腕に纏った攻撃も、追い込まれたがむしゃらな攻撃。当たるはずもなく、それぞれ躱し一撃で絶命させる。
これで残り四人。
振り返ると、爆笑していたラチュがやっと落ち着き。
「はぁ〜ぁ、笑ったぜ。あぁ、悪かった。認めてやるよ。お前らは強ぇ。金髪の小僧はそれこそ万能型でツラに似合わず肝も座ってやがる。孤狼は言わずもがな。子供三人殺す簡単なお仕事が、今までで一番の大仕事になるっつうのは笑えるだろぉ?ハハッ!」
なんの話をしてやがる。
「だったら、これでやめてどこかへ逃げてくれませんか?そうすれば僕達はこの件を他言しないことを誓います。ラチュさんの仲間の方々ももう血は流れない」
パルがそう言うと、生き残っているラチュの仲間達がラチュの背後に集まる。
「魅力的な提案だが却下だ。この仕事をこなせば俺達は大金と平民の地位へ戻して貰う事になってるんだ」
ラチュはそう言って笑うが、後ろにいる奴らの表情は暗い。簡単な仕事だと聞いてきたら仲間が既に半数殺されてるんだ。今更やる気を取り戻すのは難しいだろう。
「そんなバカなっ!スラムの人が平民に戻る?そんなことが出来る人間なんているわけないじゃないか!」
「いいや。いるだろぉ?スクエラに唯一」
「っ!ま、まさか」
「そう。この一件の差し金は皇族、ブーヤ家だ」
「そん……な」
「信じられねぇだろうなぁ。お前を消そうとしてんのは何を隠そう、お前の実の兄貴だ」
「…………」
パルキアが皇族で皇子?
面白い冗談ではなく事実みたいだな。それで兄貴がパルのことを邪魔に思い消そうとしてるわけか。救いようのないクソ兄貴だな。同じパルキアの兄貴としてヘドが出る。
「憐れなもんだ。血の繋がった実の兄貴に殺意を向けられ、終いにゃ殺されるなんてなぁ」
ラチュかそう言う中オオシがパルの真上で小さな翼を広げ発光している。
あれは、さっきのエグいクレーターを作った魔法かっ!
「オオシよ。一思いにやってやれぇ」
ラチュは気味の悪いねっとりした笑みを浮かべてオオシにそう命じる。
クソが!
足元の土を爆散させる勢いで飛び出し、パルの元へ駆け出す。
大丈夫、間に合う。だらし無く頭を垂れ下げたパルキアを抱え上げ思いっきりぶん投げる。
あとは俺がここから。と思った時、視界の端でラチュのおかしな行動を捉えた
「お前ならそうすると思ったぜぇ。罠だよ、ぶぁぁかぁっ!」
腹が立つ事この上ないツラと殺意の湧く声音で発せられた言葉を理解する間も無く、身体は動く。
一瞬で身体を撓ませて、弾くように伸ばすとその場から三メートル程離脱する。間に合った。
「んぐっ、!!」
と思った瞬間、全身に激痛が走る。
鉄の雨にでも晒されたかのような全身を打ち付ける斑らな痛み。
人生で食らった痛みの中で一番痛ぇっ!
なんでだ?
充分な距離避けた筈だ。避ける方向を読まれたのか?
「痛そうだなぁ孤浪。血塗れじゃねぇかぁ。どうだ?俺とオオシの“鉄屑落とし”の威力はぁ」
鉄屑……?
辺りを見ると沢山の鉄のゴミが散乱して、地面にめり込んでいる。
なるほど、さっきの魔法とは違うのか。俺が避ける刹那、ラチュがしたあのおかしな行動は、この鉄屑を上に放り投げていたんだ。それをオオシが風の魔法で地面に叩き落とした、と。範囲が広いわけだ。
「お前らぁいつまで腑抜けてんだぁ。コイツを死ぬ一歩手前まで嬲れ。それくらいテメェらでも出来んだろぉ」
「くっ、」
身体が全く動かない。
馬鹿みたいに力だけを込めただけの遅すぎる蹴りも、急所を外すのが精一杯。
情けねぇ。
でも、あのふざけた攻撃からパルは逃げられたんだ。
良しとしよう。
痛ぇなぁ。
身体が動かねぇから逃げようがねぇ。痛みにも慣れてきやがったな。
…………このまま死ぬのか。
「やめてぇぇ!!!オーカが死んじゃう!!!」
ミラ、か。
そうか、このまま俺が死ねばミラもパルも殺されちまうんだよな。
クソっ。
必死に動かそうとしてみるが、やはり体が言うことを聞かねぇ。頼むから今のうちに静かに逃げてくんねぇかな。
「それ以上オーカ蹴ったらミラが許さないんだからね!!!」
おい。
許さないってどうするつもりなんだよ。
って、なんで立ち上がってんだ?怪我してんだから大人しく座ってろよ。
「喧しい小娘だ。後で可愛がってやるから大人しくしとけ」
「キャァァァ」
強風が吹き抜け、ミラに襲い掛かる
クソっ!何やってんだ俺は、頼むから動いてくれ!
「それにひきかえ、皇子様は随分と静かじゃねぇか。よほど事実が堪えたらしい。まぁ、まずは孤浪。お前からだ」
「もう許さないっ!あたし怒ったからね!」
ミラが立ち上がりこちらに走ってくる。
何でだよっ!なんで逃げないんだよ!俺のことはいいから逃げてくれ!頼むからっ!
クソがっ!
大切なもん守るって決めたんだろ!なんでこんな時にっ。こんな時に限って!
動かねぇんだよぉぉぉ!
「しつけぇな。……孤狼よ、お前と関わったせいで未来ある健気な小娘がこの世から旅立つぜ」
ラチュの頭上でオオシが発光し力を蓄えている。俺の体を襲う暴力は収まり、代わりに体を押さえ付けられる。髪の毛を捕まれ顔を無理矢理ミラに向けさせられる。
「ちゃんと目に焼き付けとけよ、旅立ちの瞬間を。……殺れ、オオシ」
「ヤ、メ、ろぉぉぉぉぉ!!!」
俺が叫ぶ刹那、闇夜の森を強烈な光が凪いだ。




