第十四話 嫌い大好き
俺がクソジジィの家に帰るようになってから一年が経った。
俺が当時勘ぐっていたような事はなく、自由に平々凡々な毎日を送っている。
時折ジジィがしつこくすり寄って来たり、ド変態メイドにセクハラをされたりと殺意を覚える毎日ではあるものの、概ね平和である。
パルとの時間も最近は俺に教える事も少なくなってきたのか、なぁなぁになってきている。 それでも一応授業という形ではないが、何か面白いネタを見つけては話してくれる。
それよりもパルは俺に一撃を入れる為に、護身術だけは死ぬ気でやっている。
未だに泥だらけになって帰ることが殆どだが、遂にこの前俺の頬に掌底を掠らせることに成功した。
その時は多少褒めたのだが、本人は全く結果に満足しておらず、さらに鼻息を強めていた。
ミラは順調に自分の作る料理のレパートリーが増えてきて、ミラが来る時の昼食が楽しみで仕方ない。
最近では客にミラの作った料理が食べたいと言われて、試しに作って出したところそれが大反響。
今ではランチタイムに限りミラの特性オムライスを数量限定で出しているらしい。
そんな温かい日常があれからずっと続いていた。
そして今日も今日とて、
「――つまり、環境が魔物を育てる。よってスクエラ大陸の様な平和な所には弱い魔物が、ヨミ大陸の様な過酷な場所では強い魔物がそれぞれいるって事」
今日もパルキア先生の授業が軽く行われているのだが、今日は。
「オーカと先生は魔物見たことあるのー?」
珍しく早い時間からミラが来て、パルの授業に参加している。 だからパルキアもやる気満々だ。
「ありますよ。オーカ君に関してはこの辺りの魔物なら負け無しです!」
「オーカすっごーい!ブラシープもやっつけられるの!?」
「えぇ、オーカ君なら瞬殺ですよ。えっへん」
「なんでテメェが威張ってんだよ」
思い返せばパルと初めて会ったあの時はまだ狩りに出てたっけな。
もう、懐かしくすら感じる。
「ミラも、やっつけられるかな?」
ミラが魔物を倒す、か。
無理だな。
なんの訓練も受けておらず、魔法も剣すら握ったこともない十二歳のガキにはさすがのブラシープも負けないだろう。
「そうですね。オーカ君の助けがあればミラ君も倒せるかもしれませんね」
おいおい。
「本当っ?!やっつけたい!それでブラシープ持って帰ってパパとママ喜ばすの!」
「え、今日ですか?」
「え、うん。そだよ!」
ミラは目を輝かせパルキア大先生をまじまじと見つめる。 パルは俺に助けを求め、視線をこちらに送ってくるが。
俺は知らねぇぞ。
とゆう言葉を顔に貼り付けて俺はそっぽ向いた。
それを見て諦めたパルは。
「み、ミラ君。今日というのは些か急であるからして、また今度にしよう」
「なんでー?急だとやっつけられないの?」
ミラの表情が少し陰る。
「そ、そうだね、物事はゆっくりやっていった方が成功率は高まるんだよ!」
「今行ったら失敗するの?」
パルキアが喋れば喋るほどミラの表情が暗くなる。
「その可能性は、あるかな?」
「嘘つき」
「え」
遂にミラは顔を地面に向け俯いてしまった。
すると、ポタポタと芝生に涙が溢れるていく。
「ばるの嘘つきっ!もゔぎらい!!!」
「いや、えっ。き、らい…………」
ミラはそのまましゃがみ込み声を上げて泣き出し、パルキアはショックで今にも泣きそうになっていた。
めんどくせぇなぁ。
「ミラ。パルは嘘なんてついてねぇぞ。俺がいれば大概どうにかなる。今じゃパルだってその辺の魔物には負けねぇ」
蹲るミラの前に立ち見下げながら俺は続ける。
「ただ、今急にミラが居なくなって、シカクの外に出た事がミラの母ちゃんにバレたら怒られるだろ?だからパルはそう言ってくれてんだよ」
ミラの泣き声が止み、潤んだ上目遣いで俺を見上げると。
「オーカとパルはそういうの得意じゃんか」
ボソッと聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう言った。
まぁ、確かに俺とパルキアは俺がここに来てから数々のミッション、もといイタズラを成し遂げてきた。
そしてそれはどれもほぼバレずにだ。
俺の身体能力と少々の悪知恵、そしてパルキアの魔法と、一つまみの勇気。
正味これらさえあればなんでも出来る気さえしてくる。
何が出来るか、何をしたかはともかくとして、ミラにはそれを話した事があった。
そのことを言っているんだろう。
「まぁ、得意だな」
「じゃあミラにブラシープやっつけさせて」
こりゃあ引かねぇな。
仕方ない、か。
「絶対に誰にも内緒って誓えるか?」
「うんっ!」
ガキってもんはチョロく現金なもんだ。 さっきまで手がつけられないほど泣き喚いてやがったのに、自分の意見が通った瞬間このキラースマイルだ。
この笑顔にやられて何人の大人が食い過ぎになっちまったか分かったもんじゃねぇ。
「兄さん、それはまずいよ」
小声でパルキアが何やら言ってくる。
「でもなミラ。バレずに行くにはパルの協力も必要なんだが、ミラはパルが嫌いだから一緒に行くのは嫌か?」
俺はパルを無視してわざと演技掛かった口調でミラに問いかける。
「パルー?何言ってんのオーカ。ミラ、パルの事も大好きだよ!友達だもん!」
これだ。
ミラはこれをわざと言ってるんじゃない。 本当にさっき自分で『嫌い』と言った事を忘れちまってるんだ。
普通に考えればイラつき、キレるまであるが、相手はミラだ。 あんなクリクリの丸い大きな瞳でにっこり微笑まれ、口元から覗く八重歯と笑くぼは人を垂らし込むのに充分な威力を持っている。
現にパルもあんなに否定的だったのが。
「じゃあ僕に任せてっ!」
「うんっ!」
天然系美少女とでも言うのだろう。 恐ろしい女だな。
かくして俺達は急遽ミラの思いつきで皇都の外へ出る事になった。 俺としても久々の魔物狩りで、多少ワクワクしているのも否めない。
だが、この行動が安易だったと思い知らされるのはずっと後のことだった。
後悔先に立たずとはよく言ったものである。




