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閑話 噂のヒーロー 後編

「よく言った少年」


 パルキアの前に、誰か知らない男が立っていた。


「浄化の光、天空より光臨せし守護の騎士よ、彼の者を護る盾となれ。“ディバインズプロテクション”」


 周囲を衝撃が走り、目が開けられない程の閃光が辺りに撒き散らされる。


 光が落ち着くと、俺も少し落ち着けていた。

 何が起きた?


「大丈夫かい?遅くなってすまない」


 少しずつ目が慣れてきた。

 パルに向かって柔らかい笑みでそう言った。

 コイツ、どっかで、


「こんな複雑な結界が張られてるとは思わなかったよ。でも、君達の勇気がこの結界に綻びを与えてくれたから、僕がここに来れた」


 あっ、あん時の紙芝居の夢物語野郎かっ!


 パルキアも気づいて緊張が解けたのか、足の力が抜けて座り込んでしまう。


「もう大丈夫、後は僕に任せて」


 そう言うと夢物語野郎は俺達を背にボスの目の前へ歩いていく。

 その背中は、なんだかえらく大きな背中に見えた。


「パル……無事か?」

「兄さん!僕は大丈夫!」

「無茶しやがって」

「ふっ、兄さんの弟だからね」

「言うじゃねぇか。んでアイツはなんだ?」

「…………分からない。ただ、助けてくれたのは事実だよ」


 ボスと呼ばれていた男は驚きと苛立ちを隠せずにいた。


「チィッ……なんだてめぇ」

「ぼ、僕は、た、ただの通りすがりだよ」


 ん?

 声が小さくて声がよく聞き取れない。


 気のせいか?

 声が上ずっている様に聞こえる。


「おどおどしやがって。ただ、さっきの魔法は本物だった……おいっ!てめぇら!」

「へい!ボス」

「まずは全員であのモヤシを血祭りに上げろ」

「かしこまりやした、おいっ!お前ら!」


 どこからともなく、ブラッディレインの配下がワラワラと出てくる。

 すげぇ数だ。五十人近くいるな


「う、うわっ、ジャ、ジャス」


 さっきまでカッコつけた夢物語野郎の大きな背中が、ガタガタと震えながら後ずさっている。


 なんだ?


 そう思うと大きく息を吸った。


「ふぅ。弱き者が踏み出す勇気を、弱き者を慈しむ愛を、弱き者に護る力を!正義の力を持つ神の使徒よ!真の姿を我の前に示せ!契約の元ヴァルカンが命ずる!」


 情緒不安定なのか。急にデカイ声でよく分からない呪文を唱え出した。


「出でよ!守護龍《ディフェンダードラゴリオン》ジャスティィィィンッッ!」


 呪文を唱える終えると、そこに体長1メートル程の白いドラゴンが現れた。


 あれはっ!

 ジジィのガディにそっくりじゃねぇか。


 〝………なぁヴァル君。その毎度の儀式辞められないのか?〟

「え?ど、どういうことだい?」

 〝普通に呼んでよ。あの恥ずかしい儀式じみた文言はいらないと思うんだ、僕〟

「あれを言わないと、ゆ、勇気が出ないんだって。そろそろ慣れてよぉ」


 なにか揉めてんのか?

 それよりも、ここでガディ出したらマズイんじゃねぇか?


「ガディか……テメェはバカか?街中でのガディ使用は禁止されているはずだ」

「た、確かに。。でも、僕は平気なんだ」

「何?……っ!てめぇ、その白いトカゲ、まさか…………チッ!テメェら!早く殺れぇっ!」


 ボスの合図と共に一斉に襲いかかるブラッディレイン。

 この質量はいくらなんでもまずいだろ。


 〝ヴァル君。いつものやるんでしょ〟

「え、うん。そうしないと、僕……」

 〝はぁ。じゃあ早くした方がいいね。あの儀式も長いから〟


 ヴァル君とガディに呼ばれていた夢物語野郎は、両腕を地面に向けてバッテンにクロスさせて肩幅より広く足を開き腰だめに構える。

 すると腰に派手なバックルの付いたベルトが現れた。


 なんだあれ。


 先ほどジャスティンと呼ばれていたガディは、光の粒子と成りベルトと一体化していく。

 ヴァルは、クロスした腕をゆっくり大きく回しながら開き、開き切ったところで一度止めて、バッ!と音が鳴るように左手を右腰辺りに、右手は顔を覆い、自分の身体を抱く様に構え、右手の指の間から覗くキメ顔で、


「変身!」


 そう低い声で叫ぶと派手なベルトのバックルが回転して全身が白く発光する。

 俺達が腕で目を覆い、光が落ち着いたところでヴァルに目を向けると。


 白を基調としたメタリックスーツに頭部から角が二本生えたマスクを着用したヴァルが変身した時と同様のポーズで佇んでいた。


「やはりテメェは」

「弱き者が助けを求めた時、降臨せし正義の使者!我が名はジャスティマン!!!!」

「「「…………」」」


 控えめに言ってダセェ。


 ボスを含めブラッディレインの面々も一瞬凍りついた。


 〝あ~、もうほら恥ずかしい〟


 ガディのジャスティンもそうなる事が分かりきっていたのだろう、そう言った。


「超、かっこいい……」

「「「「〝えっ!?〟」」」」


 一人、うちの金髪小僧だけ目を輝かせ、この場の空気と真逆の感想を言い放った。


「ジャッジメントターイム!悪に身を落とした子猫ちゃん達!この正義の使者ジャスティマンが君達に救済という名の裁きを下そう」

「テメェら!いつまで呆けてやがる!殺れ!」

「Are you ready?」

「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」

「Go!!!!」


 そう言った瞬間ジャスティマンの姿が掻き消えた。


 本当に一瞬。

 比喩表現やなんかではなく一秒も掛からない一瞬。


 ジャスティマンはボスの目の前にいて、あの変身後のポーズを取っていた。


「い、今あの人消えなかった?」


 ミラの言う通り消えた様に見えた。


「正直俺にもそう見えた」


 パルキアの反応を見ると口と目を大きく開きジャスティマンを食い入る様に見つめていた。

 無論、目を輝かせて。


「さて、半分は夢の世界へと旅立った」


 ジャスティマンがそう言う。


 すると、全員静かに倒れていく。

 向かってきたチンピラ全て。


 おいおいマジかよ。

 何をしたんだコイツ。


「なっ!?」

「どうした?これで終わりか?なら」

「――“ビックバンフレア”!!!」


 香ばしいポーズで余裕をかますジャスティマン。


 その時、既にボスは次の魔法の詠唱を終えていたらしく、さっき俺が食らった威力を超える爆発が見舞われた。


「バカめ!油断してるからこうなる。いい勉強になったろ?対価は貴様の命だ」


 内心俺もボスと同じ事を思ったのは内緒だ。


「フ……フフ、何かしたか?」

「なっ!?」

「我が白銀羅生門《プラチナムゲートフォーム》の前では虫が刺したも同然」

「「「「…………」」」」


 名前とポーズは置いといて、半端じゃねぇ事は間違いねぇな。

 あの威力の爆発を無傷かよ。


 〝はぁ~相変わらず場を凍らせるのが得意だよね〟

「カッコよすぎる。白銀羅生門《プラチナムゲートフォーム》。美しい」


 変わってるとは思ってたが、コイツの趣味は想像の斜め上を音速で走り抜けやがるな。


「ボス!準備出来ましたっ!」

「おおっ!これでてめぇも終わりだ」

「「喰らえ合体魔法!“メテオブレイク”!」」


 すごい熱量を持った火の玉が無数に空に浮かんでる。

 一つ一つの威力は上級魔法並みだろ。

 あれは、やべぇな。


「ほぉ。これは中々だ。しかしこのジャスティマンの前では無意味!」


 両腕を低い位置で広げ少し俯いた顔から、緩急を付けキリッと表情に力を入れる。


 ウザい。


 〝いちいちポーズ変えながら言わないとダメ?相当ウザイんだけど〟


 あ、同意見がジャスティマンのベルトから聞こえる。


 ジャスティマンは低い位置で広げた両手をゆっくりとさらに広げ両手を挙げていく。


「“白銀 参乃型(プラチナムサード)”」


 肩幅に両手が上がりきると。


「“聖光連珠《インフィニティ・ロザリー》”‼︎‼︎‼︎」


 高くつき上げた両手の上から、敵のメテオブレイクと同じ数の光の弾が出現した。

 そして、寸分の狂いも無く空に浮かんでる無数の火の玉を一つずつ飲み込み消していく。


 不条理ここに極まれり、だな。

 バケモンだよ。


「なんなんだよテメェ」


 合体魔法とやらを簡単に潰され、羽虫を噛んだ様な表情でボスがそう言葉を捻り出す。


 だからバケモンだって。


「言ったろ?救済という名の裁きを下しにきたと」


 ブラッディレインの奴らも戦意喪失したみたいだな。座り込む奴、逃げ惑う奴、様々だが感情は一つ。


 恐怖だな。


 俺もあんな訳分かんねぇ奴に、ここまでされたらと思うと色んな意味で同情するわ。


「さて、残るは君だけだ」

「クソっ!許さん……許さんぞ!!ブルズボア出てこい!」


 2メートル近い赤い猪が突如現れた。

 デッケェ牙が生えてやがる。これがアイツのガディか。


 自分でも言ってたが、ここでガディを出すのは御法度だよな。


 ヤケクソか。


 でも、多分無駄だろうな。


 〝兄者お呼びかい?〟

「アイツを殺す!アレをやるぞ!」

 〝了解でさぁ!〟


 ブルズボアと呼ばれたガディが光輝き粒子となってボスの身体に重なり合う。


 おいこれ、まさかジャスティマンの時と同じ。


 〝「エボルシオン!!!!」〟


 エボルシオン。

 ありゃ、パルキアが前に言ってたな。確か、ガディと関係が親密になれた時に出来る奥義で、ガディと合体して強くなるだったか?


 要はジャスティマンの“変身”もエボルシオンだって事か。

 いちいち痛ぇな、あのヴァルとかいう野郎。


「エボルシオンか……優秀な人だったろうに。尚のこと悪の道に堕ちたのが悔やまれるな」


 光が収まると、ボスの両肩から1メートル程のでかさの猪の牙が生え、身体が赤く染まっている。


 ジャスティマンは変わらず、わけの分からんポーズを一々取ってやがる


「うるせぇ、もう終いだ!お前みたいなクソ野郎死んで詫びろ!!!」

「今一度言う。僕は君を救済する」


 またポーズを変えた。


「テメェ••••••」

「安心したまえ。一瞬で終わる」


 またポーズが変わる。

 あっ、ボスがキレた。


「っ!喰らえっ!!“超突猛進”!!!」


 ボスがものすごい速さでジャスティマンに突貫する。


 半端じゃねぇ速度だな。

 あんなのに突っ込まれたらバラバラになっちまう。


「さて、最高のフィナーレを迎えよう」


 そう言うと左手を顔の前に翳し、右手を前に差し出す。


「白銀 壱乃型(プラチナムファースト)“悪即滅閃(ディバインズ・レイ)”」


 右手から煌びやかな白の太い閃光が照射され、突っ込んできたボスが吹き飛ばされ壁に激突し大爆発を起こした。

 ジャスティマンはこっちにターンしながらポーズとっていた。


「「…………」」


 俺とミラの視線は酷く冷たいものだったと思う。


 だが、某金髪小僧は態々立ち上がり、勢いよく手を叩き、賞賛の眼差しをジャスティマンに送っていた。


「夢と希望に溢れる少年少女よ!悪の芽は摘み取った!困ったことがあれば呼んでくれ!この正義の使者ジャスティマンがすぐに駆けつける!」

 〝あ〜、あのイラッと来るとは思うけど、こうゆう二面性があるのはご愛嬌って事で許してほしいと思うんだ、僕〟

「では、さらばだ!」


 助けられたとはいえ、イラッと来るのは不可避である事を飲み込んだ俺は、少し大人になれた気がする。


「ジャスティマン、カッコよすぎる……」


 一人パルキアは、走り去ったジャスティマンを未だに見つめていた。



 ◇◆◇◆◇◆



 その後、騎士が駆けつけ事情を聞かれた。

 ジャスティマンの話をしたが、結局のところ信じてもらえなかった。


「結局のところジャスティマンって誰なんだろうね」

「いや正味俺はどうでもいい」

「ミラも、もう会わなくていいなぁ」


 その後パルキアが正義の男に強い憧れと偏見を持ち、厨二と正義をイコールで結んでしまう様なったのはまた別の話だな。


 しかし、あのジャスティマンのドラゴン、ジジィのドラゴンとそっくりだったな。


 今度聞いてみるか。

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