閑話 噂のヒーロー 前編
「――こうして怪人ヘボイダーは倒され、街は救われたのでした!メデタシメデタシ」
「「「「おぉ~~~!!」」」」
子供たちの歓声と共に拍手が巻き起こる。
僕らはいつもの日課を終えて、兄さんとミラちゃんと街をぶらぶらしていると、ベレー帽を深く被ったお兄さんが道端で紙芝居をしていたので、他の子供に混ざり観ていた。
内容はヒーローが街に侵略してきた怪人を倒し街を救うとゆう、ありきたりなネタ。だけど子供達もミラちゃんも目を輝かせて拍手していた。
僕はこの手の話は大好きで、英雄ものの絵本は大概見ているし、この紙芝居もこっそり大興奮していた。
「なんだこれ」
まぁ、兄さんは楽しめないかもね。
「こんな奴が本当にいんのか?」
「そっか……兄さんは知らないか、”噂のジャスティマン”」
「ジャスチ?なんだ?」
「ここ最近、街で噂になってるヒーローだよ」
この紙芝居は最近、何処からか出没した“ジャスティマン”を題材にしているんだと思う。
ジャスティマン。
噂だと素顔は極々普通の青年らしい。これといって特徴はなく、ジャスティマンを見たことがある人でも素顔を覚えてるものはいない。
しかしジャスティマンに変身すると白をベースにしたメタリックスーツに仮面を装備。そして仮面の頭部からは歪な角が二本生えて、ひどく派手な白いマントを羽織っているらしい。そしてその強さ、人族最強と揶揄される程だとか。
「お気に召さなかったかい?」
ふと後ろから声をかけられた。振り向くと、先ほど紙芝居をしていたお兄さんだった。
「別に。ただ世の中、叫べば誰かが助けてくれるほど甘くはねぇと思ってな」
「に、兄さんっ」
「子供騙し、もとい子供向けの夢物語なんだろ?それなら悪くないんじゃねぇか」
あぁ、もう!
言い方がえげつなさすぎるよ。
兄さんにはあれだけトラブルを起こさない様に!って言ってるのにどうしてこういう言い方になるのかなぁ。
「あはは、これは一本取られたな。確かに君の言う通り。だけどね?そんな世の中だからこそ、僕は夢と希望を守りたいんだよ」
あれ?
怒らないんだ。
「ミラはとっても楽しかったよー!」
「ありがとう。よかったらまた皆でおいでよ」
「俺はもう来な「分かりました!また見に来させて頂きます!」、」
また余計なことを言いそうになった兄さんの言葉を遮って僕が返事して、足早にその場から二人を引きずって逃げた。
◆◇◆◇◆◇
「はぁ。どうしてこうなるかなぁ」
「あ?」
「兄さんはどうして人を傷付ける言い方ばかりするのかなぁって言ってるんだよ!」
「別にそんな事ねぇだろ。思ったことを言ってるだけだ。」
はぁ、やっぱり自覚はないよね。
兄さんは芯の強い真っ直ぐな人なんだけど、育った環境が環境だから言いたいことを後先考えずに言ってしまうんだよね。
僕がしっかりしないと。
〝キャァァァァーーーー!!!!〟
突如、女性の悲鳴が聞こえた。
どこだ?
辺りを見回していると、
「こっちから聞こえた!助けなきゃ!」
ミラちゃんがいきなり走り出す。
いやいやいやいや一人で行かせられないよ!
「兄さんっ!」
「チッ!分かってるっ!」
僕と兄さんはミラちゃんを追いかけた。
路地裏を走り開けたとこに出ると、そこには一人の女性を取り囲むたくさん男達がいた。
それに、明らかにこの場の雰囲気がおかしい。
ガラの悪い男達はザッと総勢三、四十人くらい。その中の十人くらいで女性を取り囲み、下品な顔で嗤っている。
あ、此処いつしか来たスラムに雰囲気が似ているんだ。
雰囲気に違和感を感じたのは貴族街なのにスラムの感じがしたからだ。
なんなんだここ。治安が悪すぎる。
「こらっ!女の子いじめたらダメだよっ!」
ミラちゃんはこの状況下で臆することなく、ガラの悪い男達を跳ね除けて、女性の前で庇うように立ち、高らかに注意していた。
腰に左手を当て右手は男たちを指で指しながら。
すると、男達の下衆な嗤い声が響き渡る
「なんだ?今日はネズミがよく入り込むなぁ」
「やっぱり結界の種類を変えるべきっすよ〜」
「いや、これも立派なタネ銭だ。若い女とガキは良い値で売れる。それに貴族だったら万々歳じゃねぇか」
結界?
特殊な結界を張ってるのか。
だからこんな貴族街のど真ん中でガラの悪い人達が集まれるのか。
でもなんで僕達は入れたんだろう?
入れる人間を設定させているのか?
でもそんな特殊な結界、高位の魔法のはず。なんでこんな悪い人達がそんな魔法を扱えるんだ?
「とりあえず捕まえましょうや。小娘、痛くしねぇから大人しくしとけ」
一人の男がそう言ってミラちゃんに近づく。
「ミ、ミラちゃ!、あ」
僕が守ろうと飛び出そうとした時、衝撃音と共にミラちゃんを襲おうとしていた男が頭から瓦礫に突っ込んでいた。
「汚ねぇ手でミラに触れようとすんじゃねぇゴミクズ」
「ほぉ~」
兄さんがミラちゃんの前にいた、やはり兄さんが殴り飛ばしたらしい。
「なにすんだ!ゴラァ!」
「なめてんじゃねぇぞ!」
すると今度は三人の男が兄さんに向かっていく、僕もなんとかしないとっ。
僕の魔法は人を傷付ける為ではなく、守る為に使うんだ。
あの日の様にもう兄さんの足は引っ張らない!
「燃え上がる火のマナよ、彼の者を撃ち抜け!“バレット・フレイム”!」
僕は魔法を構築し炎の散弾で一人の足を撃ち抜く。
「グァッ」
「ナイス!」
兄さんがこっちを見もせずにそう言って、残りの二人を殴り倒しミラちゃんを乱暴に抱え上げた。
「パル」
そして僕に向かって投げる。
そう、ミラちゃんが僕に向かって飛んでくる。
えっ、ちょ、飛んできたっ!?
なんとか受け止めるが勢いを殺せず、一緒に後ろに転がる。
「痛ててて」
「パル、大丈夫?」
「だ、大丈夫、」
別に投げなくても良かったよねぇ。
兄さんは……いた!
さっきまで囲まれていた女性の前で、四方八方向かってくる男達を冷静に対処している。
やっぱり、すごいや。
それでもチンピラ達は少なからずまだ二十人以上いる。まともに相手してたらジリ貧になっちゃう。ここは素直に逃げた方が良い。
兄さんの方を見ていると、一瞬目線が絡んだ。すると直ぐに逸らされ、さっき来た道を瞬間見て、また目線を絡ませた。
やはり兄さんも同じ事を考えてるみたいだね。
「クソガキ共、勝手に暴れやがってキッチリ落とし前つけてさせてもらうぞっ!」
チンピラから罵声が飛び交う
「へぇ。口は聞けるのか。てっきりここまで能無しだと、話す能力まで無ぇのかと思ったよ」
兄さんの挑発で、チンピラ達は見て取れる様にキレた。
一斉に兄さんに向かって走り出した。
「兄さん!動かないで!静かなる大地のマナよ、彼の者の行く手を阻め“アースウォール”」
兄さんの前方少し前に横幅10メートル、高さ20センチ、幅10センチ程の壁とも言えない小さな壁を隆起させた。
これは地の上級魔法。だけどまだ上手く使えなくてこれしか変化させられない。
ただ、これでも充分。
向かって来た男達は気付かずに足をひっかけすっ転ぶ。
そして前の人達が一斉に転ぶと後続の男達もそれに躓いていく。
「よくやった」
そのコケた男達を踏み台にして、兄さんは女性を抱えて走っていくのを確認すると、僕らも先ほどの道へ走る。
「バカが。静かなる大地のマナよ、彼の者の行く手を阻め“アースウォール”」
いきなり大きな壁がせり出し、先ほどの道が塞がれた!
これほどの規模の上級魔法っ!?
「“アースウォール”はこうやって作るんだよ。だが、判断力、連携、そしてそれを実行するだけの地力。ガキの割には申し分ないな」
まさか本当の上級魔法の使い手がいたなんて。
どうする。
道を塞ぐ壁は僕が使える魔法じゃ破壊出来ない。
となると、この人数のチンピラとあの上級魔法の使い手からミラちゃん達を守りながら戦うのか。
「さて、この【ブラッディレイン】のアジトで暴れたんだ、ただじゃすまねぇ……しかし、優しい俺様は君達に選択肢をやろう。一つはここで皆仲良く俺に殺されること、もう一つは考えを改めて俺の配下になること」
ここがあのブラッディレインのアジトっ!?
ブラッディレインは僕が生まれるずっと前からスクエラに蔓延る犯罪組織、組織事態は大きくないが捕まえても末端ばかりで組織には手を出せないでいたらしい。
まさか貴族街にアジトを構えてるなんて。
「お前ら二人は有能だ。俺の下につけばもっと伸びるぞ。そこの女共は俺がしっかりと可愛がってやるよ」
気持ち悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。
しかし下手な回答はできない。
一つ間違えば皆一緒に死ぬことになる。
「パル何とか二人を連れて逃げろ」
小声で兄さんが僕に話す
「時間は稼ぐ、だから二人を頼む」
「ちょっ!」
兄さんは、僕に一方的に話すとボスの方へ歩いていく。
さすがに兄さんでも無理だよっ!
この人数相手にどうするって言うんだ。
「おっ?どうした小僧」
「いや、あんたの言う通りここで全員死ぬのはごめんだ。俺はあんたに付く」
「賢い選択だ」
「ああ、これからよろしく頼む」
兄さんはボスと呼ばれた男の前に立ち、握手を求めていた。
ボスもそれに応え握手をしようと手を出した。
瞬間。
兄さんは出されたボスの手を引き、背負い投げの体制に入った、が。
「はい、ざんねーん」
全くボスは動かず背を向けた兄さんの背中に捕らえられていない方の手を当て、小さな爆発が起きた。
兄さんはふっ飛ばされ、僕らの所まで地面に身体を打ち付けながら転がってくる。
「やっぱ、目が死んでねぇからなんかあると思ってたが、早速反逆か••••••反逆者は死刑だ」
「くっ」
「兄さんっ!」
「オーカ!」
「クソッ……しくじった……」
どうする。
どうするじゃない!
戦えるのは僕しかいないんだ!
皆を守るんだ。
「冥土の土産に教えといてやる。お前らは俺の実力をまだ見誤っている。地獄の業火よ、彼の者達を焼き払え!“ダークネスインフェルノ”」
詠唱と共に右手を上げていた。頭上にはすごい熱量を持った黒い炎の球体が出来上がる。
初めて、見た。
これが極級魔法。
まさに圧倒的な差があった。
「これが俺様の本気。絶望に飲まれて死ね」
ここで終わるのか。
兄さん達と出逢い、本当に楽しい日々が始まったのに。少しずつ僕が変われている気がしていたのに。
もう終わり、なのか。
「チッ…………こんなところで死ねるかっ」
兄さんは動かない体を必死に動かそうとしていた。
そうだよ。
僕はやっぱりバカだ。
兄さんはいつも諦めなかった。逃げなかった。最後まで立ち向かい抗っていたんだ。
理由は、いつだって僕らを守る為。
兄さんは本っ当にすごいよ。
でも、今しっかりと理解したよ。
守られてばかりじゃダメなんだ。
僕は立ち上がり皆の前に立つ。
「パ…………ル?」
「大丈夫だよ、兄さん」
もう逃げないって決めたんだ。
どんな状況でも抗ってやる。
皆を守るために戦うって決めたんだ。
僕は両手を前に突き出し、全魔力を魔法に込める。
「やめろ!パルっ!!!」
「僕が、皆を守るんだぁぁぁぁっっ!!!」
「よく言った少年」
え?
聞き覚えのない声だった。
それなのに根拠のない安心感を与えてくれる優しく、温かい声が聞こえてきた。




