第十三話 本当は異世界人
「お主、この世界の人間ではないな?」
は?
「俺はスラムから来たと言ったと思うが、そうゆう事か?」
「そうではない。ここ“アース”ではないところから来たのかを聞いとる」
「何を言ってんだ?」
俺がそう言うと、ジジィはまじまじと俺の顔を眺める。
「……そうか。その反応では、自覚がないという事なのじゃな」
なんの話をしてんだ。
俺がアースではない世界から来た?
どうやって?
それに自覚がないって、そんな事あんのか?
何もかも意味がわからん。
「錯乱させてしまったのぉ。すまん、今の話は忘れとくれ」
馬鹿か。
「あぁそうですか。なんていくわけねぇだろ。せめて分かる様に説明しろ」
「それがのぉ。詰まる所、儂も詳しくは分からんのじゃよ」
「あ?ならなんで俺がそうだと思った」
「それは“マナ”じゃよ」
「マナ?」
マナ。
これはパルキアがこの前の授業とやらで言っていたな。
『いいですかオーカ君。マナとは、どこにでも空気と同じ様に存在するもの。ただし空気と違うのはマナそれぞれに意思があること。マナは生き物とは違い生死の概念は無く、ただそこに当たり前の様に存在するものです。そして魔法とはその大気中にあるマナと体内の魔素とを掛け合わせ発動する事象の事。つまり――――』
だったな。
「左様。お前さんの周りには何故かマナがいないんじゃよ」
「マナがいない?どうゆう事だ」
「儂の左目はな“見破眼”と呼ばれる魔眼の一種でな。マナを視る事が出来るんじゃよ」
魔眼、か。
初めて聞いたな。
確かに、よく見ると左目が若干赤いように見える。
いや、今はそんなことよりも。
「それで?」
「マナというのは好奇心旺盛で、人や物の周りにも集まる傾向がある。じゃがな、何故かお前さんの周りには居ない。儂はそんな人物をお前さん以外にも、もう一人だけ知っておる」
「そいつがこの世界の人間じゃなかったと?」
「左様」
俺がこの世界の人間でない事は間違いないって事か。
「で、だったらなんだ。俺を殺してみるか?」
「そう悲観的な発想をするでない。逆じゃよ。お前さんを守りたいんじゃ」
守る、だと?
「守られるほど俺は弱いつもりはない。それに俺を守ってなんになる」
「かつての異世界人はのぉ、アースの救世主じゃった」
「だったらなんだ。まさか、俺もそうなると?」
冗談じゃねぇ。
「分からぬ。じゃがな、先にも言ったが儂は彼奴が好きじゃった。そして、そんな彼奴が言ったんじゃ。『俺と同じ境遇の奴がもしいたら、助けてやってほしい』とな」
とんだお人好しだな。
その“同じ境遇の奴”とやらが極悪非道のゴミクズ野郎ならどうするつもりだ。
悪事に勤しむゴミクズ野郎ですら、言われた通りに馬鹿みたいに守るのか?
はっ、全くもって不合理な話だ。
現に俺は善人ではない。どちらかといえば悪人の方が表現的にはしっくりくるだろう。
「で、具体的にどうするつもりなんだ?俺を牢屋で厳重に守ってくれるってか」
「うちに来なさい」
そういうことか。
「はっ!行くわけねぇだろ。それとも力ずくで連れてくか?やってみろよ」
「最後まで話は聞きなさい。別にお前さんを捕らえたくて言っておるわけではない。むしろその逆じゃ」
「あ?逆だと?」
「お前さん、この公園で毎晩明かして不思議に思う事はないか?」
不思議に思うこと?
「聡い様で抜けておるのぉ。いや、些かの子供らしさが残っておると言うべきか。良いか?この貴族街で夜中に騎士が巡回しておらんのはおかしくないか?」
確かに…………よくよく考えればおかしい。
平民街でも騎士の巡回はあったし、貴族街ではもっと厳重な見回りがあってもいいはず。
「何が言いたい」
「ここにお主一人で居ったら、いずれ本当に捕まってしまうと言ってるのじゃ」
「仮に騎士に見つかっても俺は馬鹿みてぇに捕まんねぇよ」
「いや、いずれ捕まる。お前さんは騎士を舐めすぎておる」
「はっ!お前こそ俺を舐め、ッ!?」
いつの間にかジジイの隣に体長1メートルほどのドラゴン?がいた。
黒い鱗に大きな翼を持ち、直立して俺を鋭い黄金の眼光を放つ瞳で睥睨している。
「この子はニーズ。ガディは見たことあるかな?」
パルキアから聞いてはいたが、ちゃんと見るのは初めてだ。
ジトの時に見たやつは小さな光がフワフワしてただけに見えたが、これが高位のガディってやつか。
「人族は例外なく15才を超えると、皆ガディを持つ。そして騎士になる様な人間のガディは戦闘系のものが多いのじゃ。ガディとアーティファクトを騎士が本気で使えば例えお前さんとて、すぐ捕まるか、大ケガして捕まるかのどちらかよ」
確かにこのニーズって奴からは半端じゃないプレッシャーを感じる。
「ニーズ下がりなさい」
〝御意〟
コイツ、喋れんのかよ。
ニーズはそう言って粒子になり消えていった。
「儂がここに来なくなってしまったら、遅かれ早かれ騎士に捕まる。それこそ本当に牢に繋がれてしまうぞ」
「仮に俺がお前の家に行って、俺は何をする」
「そうじゃのう。儂の話し相手になってくれたら嬉しいのぉ」
「なんだそれ。そんな胡散くせぇ話あるかよ」
俺がそう言うと、一瞬ジジィの顔が悲しさに歪んだ気がした。
「……儂にはな、二人の孫がおった。一人はお前さんより小さな頃に死んでしまった。もう一人とは、ここ三年程色々あってな、会えんのじゃよ」
「その孫の代わりになれと?」
「代わりにはなれんじゃろうが、”おじいちゃん”と呼んでくれてもいいの。ほっほっほ」
コイツ、本気で言ってのんか?
終始真意が見えない。
「ギブアンドテイクじゃ。うちに来なさい。無論、出て行きたくなったら好きに出て行って構わん。毎日ここに来て、会っておる子とも今まで通り会えば良い」
未だに敵意や悪意が見えない。
恐らくだが、これが本当の善意ってやつなのか。
この話にコイツのメリットは皆無だ。何か他に狙いがあるんだろうな。
だが、正直考えるのはもう疲れた。
確かにこの公園にこの先ずっといる様なら騎士に見つかるのは時間の問題。
見つかれば良くてスラム送還、悪くて牢屋。最悪死罪。
どうなってもパルキアとはもう会えない。
それなら、
「飯は付くのか?」
「うむ。ウチには優秀な侍女が居ってな。食事は今でも儂の楽しみの一つなんじゃよ」
コイツもパルキアと同じように、
「オーカだ」
「申し遅れたの。儂はゼルバトス・ドラゴリアじゃ」
信じてみよう。
仮に騙されていても後悔はしない。
コイツを信じると決めた自分を信じよう。
「考えすぎて腹が減った」
「儂も久方ぶりに人と長いこと話して疲れたわい。帰ろう」
そうして二人で帰路に着いた。
ジジィが手を伸ばし、俺の手を取ろうとするのをはねのけながら。
「じーちゃん。と呼んでもいいんじゃぞ」
「うるせぇクソジジィ。うざったいからその手もやめろ」
「ほっほっほ」
めんどくせぇ。
悪くはないが。




