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第十話 幸せと悩み

 俺が貴族街に来て一ヶ月が経った。


 あれから毎日パルキアは俺のいる公園に来た。そして俺に、この世界の常識を教えて、俺はパルキアに護身術を教えた。


 ちょこちょこミラも遊びに来る。その時いつも弁当を持ってくるのだが、それが密かに俺の楽しみになっている。ミラの持ってくる弁当は最高に美味かった。


 そして今日も。


 俺が掌底の連打をパルキアに浴びせ続ける。だが、パルキアもそれを捌き俺の隙を伺いながら必死に付いてくる。

 そこにわざと右で大振りの掌底をパルキアの腹部目掛けて放つと、パルキアは左手でそっと俺の右手甲を叩き、渾身の右掌底を俺の顔面目掛けて打ち込んできた。

 分かりきっていた俺はそれをパルキアにいなされた勢いのまま回転しながら屈み、再度右手掌底でしっかりとパルキアの腹部を撃ち抜いた


「かはっ、」


 たちまちパルキアは肺の中の酸素をすべて吐き出しその場で膝から崩れ落ちた。


「またパルの負けーっ!」


 その瞬間元気な声とともに駆け出して来たのはミラだ。いつも俺とパルキアが模擬戦をしている時ミラは少し離れたところで目を輝かせて観戦している。


 まぁ、


「勝ち負けじゃないんだがな」

「うぅ、取ったと思ったのに〜」

「隙は伺うもんじゃねぇ。作るもんだ」

「うぅ、もう一本!」


 この調子で最近は挫けずに何度も向かってくる。やはり当初の頃に比べると格段に動きと勘が良くなって、多少は俺の動きについてこれるようになっている。

 それでも、まだまだ圧倒的に経験が足りない。

 仕方のない事だが。


 俺がパルキアに戦闘を教えず、護身術を教えているのには理由がある。


 第一に戦闘を教える俺が、誰に習ったわけでもなく独学で体に叩き込んだものであるが故に、それを人に教えるのは難しかった。


 そして一番大きな理由としては俺が教えたことで変な癖が付き、実際にまともな人間に教わった時、邪魔な経験になるからだ。


 だから、まずは自分を守る為の護身術と身体の上手い動かし方を意識して模擬戦をしている。


「飯にしよう。ミラ今日の飯は何だ?」

「サンドイッチだよ!今日はミラがほとんど作ったんだよ!」

「ご飯食べたらもう一回だからね!」


 ミラが手際よく芝生にシートを敷いて、その上にバスケットを置き中の品を取り出していく。


 真っ白のパンに色とりどりの食材が挟まれている。綺麗にカットしてあり、見た目から食欲をそそる。


 俺は今まで、食い物の味なんて気にした事は一度も無かった。

 マズイもんはマズイが食えるのであれば腹の足しになる。それくらいの考えだった。


 だが今は食べる物がみんな美味い。

 俺が貴族街へ来て一二を争う幸せを感じる瞬間だ。


「準備出来たよー!食べて食べて〜!」

「いただきまーす」


 ミラが皿に取り分けて促すとパルキアは上品に手を合わせてから食べる。


「美味しい!家でもたまにサンドイッチ食べるけど、ミラちゃんが作ったサンドイッチは格別だよ!」


 幸せそうなツラしやがって。

 俺も一つ手に取り齧る。


 う、美味い!!!!


 たくさんの食材を一齧りにした事で多様な食感を一度で感じ、各々の香りや味が俺の鼻と舌を蹂躙する。

 中でもチーズとトマトの香りがたまらない。

 何か甘酸っぱい白いソースのようなものの香りが最後に鼻を抜け、脳が『もっと寄越せ』と訴える。その脳の命令に任せ次々と口の中に頬張る。


 控えめに言って“幸せ”だ。


「オーカもう食べちゃったの?!ゆっくり噛んで食べなきゃダメだよ!」

「兄さんはせっかちなんだよ。こんなに美味しい物味わって食べなきゃ勿体無いよ」

「バカが。こんな美味いもん誰かに盗られたら元も子もねぇだろ。こんな風に」

「あっ!ちょっ!それ僕の!!」


 食い物の味だけでなく、コイツらとこうして話しながら食べる飯だからこそ幸せなんだと強く思う。


 こんな風に思えるのもコイツらが俺をスラムから連れ出してくれたおかげだ。

 本当に感謝しかない。


 間違っても口にはしないが。


「もう仕方ないなぁ。パルにはミラの一つあげるよ」

「えっ!いいの?!ありがとう!」


 そういえば、パルキアの同年代女子恐怖症もミラに限りだいぶ緩和されたな。

 俺が一緒にいてあまりにもめんどくさいんで、ミラを妹だと思え。と言ってから

 少しずつ吃らなくなった。まぁ、まだ目を見て話すことは出来てないようだが、一緒にいてめんどくさい事はなくなった。


 こんな日々を毎日繰り返している。

 実に充実していると言える。

 たくさんの知識が増えていき、今まで感じられなかった幸福感を得て、胸の中を少しずつ何かが埋めていくように思える。


 だから、か。一つ悩みが出来た。


 この俺に悩みか。笑えてくるな。

 前までの俺には悩みなんて無かった。というのも悩む様な事がなかったんだ。その日を食って明日を生きる、これだけが出来ていれば基本問題なかったからな。


 まぁ、それも含めて色んなものを最近は得ることが出来た。


「兄さん!食べ物の恨みは怖いって事教えてあげるよ。食後の運動だ!ほら立って!」

「あははは!パル頑張れー!」


 コイツらのおかげで。

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