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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第一部 ヘイデン屋敷

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虐げられた令嬢

* * * * * * * * * *

 ぼくはとてつもなくバカでグズで最低な人間だということを痛感した。

* * * * * * * * * *



 ぼくがお見合い相手として招いたのは、あの異国の姫だったのだ!

 悲鳴をあげたのは、ピンクブロンドヘアーをした彼女の侍女だった。


『絶望』という言葉はこの時のためにあったのだ!


「レディー!」


 ぼくはうろたえながら令嬢を抱き上げた。


 思った以上に細くて軽い。背丈も小さく、子供かと思うほどだ。ご令嬢は十七歳のはずなのに。


「そこのメイド、ご令嬢の滞在部屋へ連れて行く、案内しろ!」


 近くにいたメイドに不承不承ふしょうぶしょう案内され、彼女と侍女が滞在しているという部屋に行ったら、使用人用の三階屋根裏部屋だと!?

 だから客室を回っても彼女の姿はなかったのだ。


「どういうことだ、メイド長!?」

「若旦那様、この方は案内した客間は拒否し、次に案内しました部屋も拒否し、このようなことになったのでございます」


「???」


 屋根裏部屋は掃除され整頓されてはいたけれど、ベッドはひとつしかない。こんな小さく固いベッドで、どのようにして寝ていたんだろう。

 それに、なぜ使用人部屋にいたのだろうか。侍女はどこにいたのだろうか。


 荷物はほとんどなく、小さなテーブルの上には日記帳と羽ペン、インク、数冊の小説、開けっ放しのトランク、コップに飾られた雑草。小さなテーブルには使用人部屋に似合わない客用のティーセット。

 それと――燃えかけの数本のキャンドル?


 ぼくは後悔と令嬢に対する哀れみと思慕が入り混じった、表現しきれない気持ちで胸が締め付けられ、涙をこらえるので精いっぱいだった。

 こんな気持ちになったのは人生で初めてだった。


(彼女に対して『はずれくじを引いた』と思うなんて、ぼくは何という大馬鹿者で情けない男なんだ)


「こんな所には寝かせられない、ぼくの寝室へ運ぶ」

「ええっ? 若旦那様、はじめて会ったご令嬢にそれはあまりにも……」

「いいんだ!」


 彼女を自分のベッドに寝かせ、侍医を呼び、彼女の侍女に看病を手伝ってもらおうとしたら、侍女はいなかった。

 どこへ行ったんだ?


 令嬢への対応を使用人に聞くと、身の回りの世話は断られ、食事は出したけれど拒否されたという。


 なぜ?

 酷いものをお出ししたんじゃないのか?


 メイド長の言い訳はこうだ。

「お嬢様に無体なことなど一切しておりません。お嬢様自らお部屋もお食事も断ってきたのです」

「ならどうしてぼくにそのことを言わなかったんだ!」

「若旦那様はそのときおられませんでしたし、お嬢様のご要望通りにしなさいと執事から言われておりました。ですので仕方なく……」とか何とか。


「伯爵家のご令嬢に対して何という無礼を! このままでは済まされないぞ!」


 ……とは言ったものの。

 そもそも初日に屋敷に戻ったのが夜中だったのが致命的だった。

 ぼくの責任だ。


 令嬢への対応を誤ったメイド長など解雇したいが、できない。父の愛人だから。

 ぼくは次期当主なのに、何の権限もない。


 情けない。


 侍医を呼んで診てもらったところ、疲労からくる高熱に加え、階段から落ちたとき片足を痛めていたとのことだった。ぼくは今までの過ちを取り戻そうと必死に彼女の看病をした。

 彼女の額に冷たいタオルを当て、震えている細い手を握り続けた。


 今でもその華奢で柔らかい感触が忘れられない。


 陽が傾きはじめたとき、前触れもなく一台の馬車が屋敷にやって来た。

 見たことのないエンブレム。

 いや、見たことはあった……確かあれは……封蝋に使われたアールグレン家のエンブレム!


 あああぁぁぁ……!


 門を突破した馬車から降りた男性は執事と何やらもめていたが、強引にぼくの寝室にやって来ると、大声で怒鳴った。


「アールグレン伯爵家当主ユリウスでございます。あなたがヘイデン家のご子息ですかな。無礼を承知で申します、我が娘がずさんな扱いを受けたと聞きましたので、引き取りに参りました。約束の三日間はもう過ぎましたので!」


 トロールのように恐ろしい顔をしたアールグレン伯爵だった。

 明らかな拒絶だった。


「も、申し訳ありません。まさかこんなことになるとは思っていなく……誠に申し訳ありません、謝罪と慰謝料をすぐにでも……」

「もちろんです、では、この話はなかったということでよろしいかな?」

「えっ、なかったことに?」

「お見合いはなかった、ということです」

「あ、あの……」

「ではこれで失礼いたします。ヘイデン伯爵様にはのちほどその旨連絡させていただく!」


 アールグレン伯爵は憤慨しながら彼女をさらって行ってしまった。

 あのとき階段でうろたえていた侍女が馬車に乗っていた。ピンクがかったブロンドヘアーだから一目で分かった。

 侍女がいつの間にかアールグレン屋敷に戻り、伯爵を連れて来たのだ。


 ぼくの全身は硬直し、震えが止まらなかった。


 何も気づかなかった。

 何もできなかった。


 オワッタ。

 人生オワッタ。





 狩猟から帰った父に思いっきり叩かれた。


「馬鹿者! アールグレンへ行って踏まれて来い!」

☞ヒーローその一がバカでグズで申し訳ありません。でも頑張るのです。

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