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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第三部 ヴィセンテ公爵家

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トーマスお迎えに参上

(そういえばいたっけ?)という人が登場します。

 せっかく二度目のお見合いの日取りを決めたのに、一方的に延期された。

 いつまでたってもアールグレン家からの連絡が来ない。手紙でそのことを尋ねても、『再検討中』としか書かれていない。


 一体アールグレン家はどうなっているんだろう?


 どうにかしてセレーナ嬢に会いたいぼくは、なけなしの勇気を出して首都のアールグレン屋敷を直接訪ねた。門前払いは覚悟の上だ。


「ぼくはヘイデン家のトーマスと申します。いきなりで大変申し訳ないのですが、伯爵様にお会いしたいのですが……」


 ダメ元で、セレーナ嬢を迎えに来たときトロールのように怒っていた彼女の父に取り次いでもらった。


(もしもダメなら……諦めるしかない……どうせ失敗してしまった見合いだったんだ……それに、こんな地味で取り柄のないぼくが彼女に気に入られるはずなかったんだ……もしもダメなら……結婚なんてしたくない……しなくてもいい……ぼくなんか……)


 少し涙ぐんでいたかもしれない。

 そのとき門が開き、執事が現れた。


「旦那様がお会いしたいと仰っております」


「!」





 今、トロールというよりは苦虫を噛み潰した様相のアールグレン伯爵と向かい合っている。伯爵はブランデーをストレートで飲んでいた。

 だいぶ進んでいたようだ。


 ヤバい、居心地が悪い、チビリそう……。


 ここは明るい雰囲気の応接間だ。色彩豊かなカーテン、淡い色調のモダンな調度品、花瓶に飾られた色とりどりの生花。

 きっとセレーナ嬢の趣味が反映されているんだろう。

(※ソーニャの趣味です)

 ぼくも見習わなければ。

 でも今は居心地がバリ悪いです。


「あの……先のお見合いではお嬢様に対し大変失礼なことをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした……改めて謝罪させてください」

 さっそくぼくは、直接会えず、言葉で言えなかった謝罪をした。


「あぁ、あのときは……そうだな、ヘイデン家も大概だったが、あとから話を聞くに、娘の態度もだいぶ悪かったようだった」

「いいえ、とても可憐で慎ましやかなお嬢様でした」

「アレを慎ましやかと? 目はだいじょ……それで? 次のお見合いのことだったかな?」

「はい……日取りが延期になったままでしたので、何か理由があるのかと思い……」

「理由……そうだな、少し込み入った事情がある……」


 葉巻を咥えながら考え込んだ伯爵が、ぼくに思いがけない提案をした。


「もし私の提案を聞いてもらえるのならば、すぐにでも二度目の見合いを決めてもいい。今は日時を決められない状態なのだ」

「提案とは?」

「娘は今メリディアナ皇国のヴィセンテ家に滞在している。そこから連れ戻してくれないか。もちろん旅費は出す」

「えっ、メリディアナ皇国のヴィセンテ家!?」


 ヴィセンテ家といえば……皇国の公爵家じゃないか! なぜそんなところに?


「あらかじめ言っておくが、それが成功して見合いができたとしても、娘が君と結婚したいと思うかは期待しないでくれ。私はあくまでも娘の気持ちを尊重したい」

「分かっています」

「それと……もしも裏切るようなことがあったら『掟』が待っていることも付け加えておこう」


「はい……(掟とは)?」


 次の日ぼくは、アールグレン家の使用人と共に、長距離列車に飛び乗った。



※ ※ ※



 実父との面会と葬儀、ヴィセンテ家の娘としての認知、遺産や財産分けなど、一カ月以上公爵家に引き止められているので、そろそろ帰国したいと思っていた午後のことだった。

 その日は朝から雨が降っていた。


「お嬢様、門前にお知り合いという方がいらしているようなのですが……公爵様の許可を得ないと門を開けるわけにはいかないのです。会っていただけますか?」と、ヴィセンテ家の執事から告げられた。


「知り合い? クリス叔父様とソーニャはここにいるし……誰かしら?」

「それなら一緒に行くよ」

 クリス叔父様に連れ添われ、使用人に傘をさしてもらい、噴水やブロンズ像などのモニュメントが所々にある広大な庭を横切って門へ向かった。


 門前にいたのは――えっ、泣きそうな顔のトーマス・ヘイデン!?

 それと――アールグレン家の使用人!?

 貸馬車で!?

 二人でメリディアナ皇国まで来たの?

 訳が分からない。


「セレーナ嬢! よかった、やっと会えた……」

「ヘイデン家のトーマス様、どうしてここに?」


 神出鬼没マン再登場!


 こいつはお見合いをぶち壊したクズ野郎……演奏会のときといい、神出鬼没すぎるでしょ……なんだけど、どことなく憎めないというか……子犬っぽいから許しちゃうというか。

 どうして遠いメリディアナ皇国に?


「実はアールグレン伯爵から、セレーナ嬢を連れ戻してほしいと頼まれたんです。ここに伯爵からの書状があります」


 トーマス・ヘイデンは一通の手紙を見せた。

 父の字で、『ヘイデン家のご子息にセレーナたちの帰国を任せることにした』と書いてあった。


「確かにアールグレンの封蝋だし兄の字だ。まぁ、一か月以上も他国にいるわけだから心配なんだろうとは思うけど……セレーナの用事は終わりそうなのかい?」と、クリス叔父様に尋ねられた。

「えぇ、もう大丈夫なんだと思うけど……何だか帰れない雰囲気なの。わたし専属の侍女をつけられたり、知り合いを招いた晩餐会に出席させられたりして……」


「あの……他国まで押しかけてしまって申し訳ありません、セレーナ嬢。ぼくは……このままあなたがメリディアナ皇国から帰って来ないんじゃないかと思って……」

「思って?」

「……だから会って……」

「会って?」

「一緒に帰ろうと思ったんです、ノルデン国へ。あなたとちゃんとしたお見合いをしなければ……セレーナ嬢への謝罪だってまともにできていないから……改めて謝罪をしたいんです、レディー」


 あぁそうね、アールグレン家を無視しやがった謝罪よね。

 あのときわたし、ものすご~~~く怒っていたんだから! お見合いなのに当主様もお見合い相手も不在だなんて、最低最悪! 最大の侮辱じゃない!

 怒りついでに大分失礼な態度を取ったかもしれない。無視されたお見合いなんてぶっ壊してやろうって思って。


 その結果があの大失態……。

 むき出しの足を見られたよね?

 今思い出しても恥ずかしい。


 けれど、あのときのことを正直に話す気にはなれない。小説の取材をしていました、徹夜で小説を書いていました、お見合い失敗を目論んでいました、なんてね。


「それなら、帰らなければならないですわね。父も心配していることですし」

「一緒に帰りましょう、レディー。ノルデン国へ!」


 門越しにわたしたちは言葉を交わした。鉄柵に隔てられたロミオとジュリエットみたい。トーマス・ヘイデンはどう見ても茶髪のフツメンだけど、笑うと可愛いんだね。ソバカスもチャームポイントに見えなくもないわ。


「このままでは嵐で道が通行止めになるかもしれないから、その前に帰りましょう」

「ノルデン国までお守りします、レディー」


「心残りはないのかい?」と、クリス叔父様に聞かれた。


「もう、ないわ」

☞トーマスは一応アールグレン父に認められたようです。類友?

☞次回はユリウス・アールグレンの独白です。蛇(大佐)に睨まれ、若気の至りとはいえ人生を狂わされた人です。

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