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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第三部 ヴィセンテ公爵家

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婚約破棄の代償――アウグスト・デ・ヴィセンテが払ったツケ

ラリサの元婚約者でセレーナの実父、アウグスト・デ・ヴィセンテの告白です。

「あぁ、ようやく……ようやく娘に会えた……ありがとう、ありがとう、ラファエル……ゴホッ」


 公爵家の病室にいたのは、痩せて黄土色の肌をした、アールグレン父よりも年取った人だった。

 メリディアナ皇国はノルデン国よりも南にあるためか、窓から差し込む光がまぶしかった。


 死に際の実父に会う――それがこの招待の目的だったのだ。


「神に感謝する。こんな私に、これほど素晴らしい娘が、いたとは……髪の毛と、その瞳の色は……私と同じなのだな……その表情は……ラリサを思い出す……二度と会えないあの人に」

 父と名乗り出た病人が、苦しそうなしわがれ声でわたしに話しかけてきた。


 この人がわたしの実父。

 肌の色が黄土色なのは、アルコール依存症で肝臓を悪くしたのかも。顔色が悪くシワが目立つためか、アールグレン父よりもずっと年上に見えるし、白髪が多いから髪の毛の色も分からない。目の色は……青かな。

 実父という実感が湧かない。

 だからなのか、意外にもわたしは冷静だった。


「セレーナ嬢、伯父の手を取っていただけませんか?」

「はい」

「……最後にどうしても、娘に会いたかった。名前は……」

「セレーナです」

「セレーナ……ノルデン国の名前なのだな」

「……」

「もっと前に、会いたかった……セレーナが成長する様子を、ひと目でもいいから見たかった……」


 わたしを見つめながら実父は言葉を続けた。

「私はラリサに辛い思いを、させてしまった。彼女に会って、謝罪をしたかったが……ソアレスとアールグレンに断られた。私に、会わせたくなかったのだろう」


 アールグレン父、特に祖父母は会わせたくなかったと思う。『ヴィセンテ』を嫌っていたみたいだから。


「母はわたしを産んだ頃から心を病んでいます。娘のわたしでさえ実の娘とは認識していません。仮にお会いしても分からないと思います」

「……そうなのか……長い間、苦労をかけてしまった……ラリサの夫になった……アールグレンには、感謝しかない……」

「……」

「私が娘の存在を知ったのは、十年ほど前の、ことだった。ラリサについて、公爵家に調べてもらったのだ。娘に会わせてほしいと願ったが……断られた……だが、少しだけ理由を、聞いてほしい」


「……」


「私は、あの頃……ラリサを愛していたのは、本当だ……私たちは将来を約束し合っていた。ラリサの、あの一途な目が、今でも忘れられない。


【お慕いしています、アウグスト様。ずっとずっと、いつまでも!】


 しかし、ヴィセンテ家は、反対していた。

 ラリサとの婚約を、無理矢理結んだあと、私は周りから言い続けられた。


 ――赤毛をヴィセンテ家に入れるつもりなのか、と。


 最初は反抗していたのだが……次第に心が揺れ……見事な黒髪をした、幼馴染のルイーザに心移りしてしまったのだ。


【あの方とは、どういう関係なの? 幼馴染? それだけではないでしょう?】

【わたくしはあなたのものになったのよ、それなのに、どうして?】


 そして、あの舞踏会で、一方的に婚約を破棄してしまったのだ。彼女のお腹に、私の子がいるとも知らず。


【なぜですの……突然何を仰っていますの……?】

【そんなことを仰られても……ついこの間までわたくしたち、愛し合って……】

【……酷い……アウグスト様……!】


 しかも、妻になったルイーザも、子供も、数年後には天に召されてしまった……。

 私がこうなってしまったのも、ラリサを裏切り、妻子を助けられず、神に見放されたからだろう……」


 舞踏会での婚約破棄は小説の中だけの話だと思っていた。それを実際にしでかしたなんて……しかもお母様はわたしを身ごもっていたのよ?

 今まで何も考えずに『婚約破棄』という内容のギフトブックを書いていたけれど……もう書けないかもしれない。


 全て話し終えると、公爵様はわたしに小箱を渡した。


「これは、ラリサに渡そうとしていた、指輪――結婚指輪だ。今となっては、辛い想い出にしかならないかもしれない、が――改めて、ラリサに渡してほしい。


【嬉しい。こんなに素晴らしい指輪を頂けるんですの?】

【もちろんだ。結婚式のときに渡そう。ラリサは私の宝物なのだから】


 これは、ヴィセンテ家の、家宝なんだ。結婚式のときにはこれを、渡すと、約束していた……」


「一応渡します」

「今さらだと思うかもしれない。もう二度と、やり直すことはできない……妻となったルイーザも、その子供も……死なせてしまった……」


 公爵様は一筋の涙を流し、静かに目を閉じて言った。

「セレーナ、最後に私の頼みを、聞いてほしい。お前に『マリア』という名前を、与えたい。私の母の名だ。娘が生まれたら、名付けたいと思っていた。『マリア・デ・ヴィセンテ』だ。そして、私を『父』と、呼んでほしい……」


「……お父様」


 わたしはうつむきながら病人の手を強く握った。涙を見せたくなかったから。


「時は戻らない。ならば、今できることをするしかない……」


 中にあったのは、ブラックダイヤモンドの指輪だった。

☞のちにブラックダイヤモンドの指輪がラリサの心の扉を開けることになります。

☞もう一つの真実(ユリウス・アールグレンのやってしまった若気の至り、大佐の罠にはまる)は後ほど説明します。

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