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最後の結婚式――わたしたちが幸せになる方法なんてあるの?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
第三部 ヴィセンテ公爵家

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ラファエル・デ・ヴィセンテの苦悩

 あのガーデンパーティーで、ようやく彼女に会えた。

 メリディアナ皇国使節団と懇意にしているテオレル家がガーデンパーティーを開くというので、アールグレン家に招待状を送ってほしいと頼み込んだのだ。


 ヴィセンテ伯父に娘がいると知ってから十年以上たつ。


 ――セレーナ・アールグレン。

 遠く離れた国にいる僕の従妹。

 ずっと会いたいと思っていた。


 あの漆黒の髪と濃紺の瞳は伯父譲りなのだろう。儚げな面影は婚約者時代のレディー・ラリサに似ている。


 僕がセレーナ嬢に惹かれるのも無理はない。

 まだ十歳にも満たなかった僕は、恥じらいながら伯父の隣で微笑むレディー・ラリサに憧れていたんだと思う。ヴィセンテ屋敷へ行けば彼女に会えると、胸をときめかせていたことを覚えている。


『まあっ、いらっしゃい、ラファエル』

『お、お元気でしたか、レディー・ラリサ』

『今日は内輪のティーパーティーだから、緊張しなくていいのよ』

『は、はい、レディー・ラリサ……』


(レディー・ラリサ……赤みがかったオレンジ色の髪の毛に緑色の瞳。ヴィセンテ家では珍しかったが、皇国北東部では見かける色合いだった)


 本来セレーナ嬢はヴィセンテ家の令嬢だった。

『セレーナ・デ・ヴィセンテ』のはずだった。

 なのに、何もかも伯父が壊した。


 伯父が妻にしたルイーザとその子供の未来は十年以上前に閉ざされた。

 レディー・ラリサの未来も、セレーナ嬢の未来も、僕の未来も壊れた。


 公爵家こそ名乗っているヴィセンテだが、皇家との血縁関係はない。古い歴史にあぐらをかいているだけの家だ。

 戦時中は大した支援もせず領地に籠り、その後滅茶苦茶なことをしでかした伯父のお陰で資産は目減り、ヴィセンテは国での発言権を失った。

 国の軍部を担うソアレス侯爵家よりも上だと錯覚し、伯父は勝手にレディー・ラリサとの婚約を破棄してしまった。

 彼女は身ごもっていたというのに。


 あり得ないだろう!

 伯父は悪魔か何かか?


 妻になったルイーザも子供も馬車の事故で死亡したため、伯父には跡継ぎがいなかった。

 数年前に公爵家を継いだばかりなのに、再婚もできないまま病に倒れた。そのことについては黒い噂がある。ソアレス家の呪いだとか何とか。

 だが僕は事実だけを受け止めたい。


 父がヴィセンテ伯父の弟である僕は、大学卒業後研究者の道を進もうと思っていたのに、本家の養子にされ、当主を継がざるを得なくなった。

 正当なヴィセンテだったはずのセレーナ嬢は他国の伯爵家に掠め取られてしまった。

 僕たちの未来は暗礁に乗り上げたのだ。


「伯父の失敗を全て僕に押し付けるなんて……」


 僕は何としてでもセレーナ嬢に会って話をしなければならない。だからノルデン語を習得し、その結果ノルデン国への使節団に加わることができた。


 出国の前日、僕は伯父に呼ばれた。


『失礼いたします。お加減はいかがですか、伯父上』

『加減だと? 良いわけないだろう……ラファエル、頼みがある……ゴボッ……』


 また吐血した。赤黒い血が白い掛け布に広がって嫌な臭いがする。いっそのこと赤黒い掛け布にすればいいのに。

『侍医を呼んでくれ』

『かしこまりました、若公爵様』


 伯父は身体全体が黄色くむくみ、起き上がれない状態だ。長い間アルコールに溺れ、五、六年前から病気が進み、ここ数カ月は見るのも痛ましい状態だ。


『ノルデン国へ、行くと聞いた。それならこれを、アールグレンに渡してくれ』

『郵送すればよいのでは』

『郵送では、見る前に、弾かれてしまう。直接渡すんだ』

『かしこまりました』

『必ず渡してくれ、頼む……』

『努力します』

『どうしても、一目だけでもいい、娘に会いたい……』

『伯父上が捨てたんですよ。今さらではありませんか』

『違う、違う、知らなかったんだ……』

『違いません。レディー・ラリサと共に捨てたんです』


『そうじゃ、ないんだ……頼むから渡してくれ……』と、震える手で一通の手紙を僕に託した。


 言い訳ばかり。

 伯父はもう長くはないだろう。


 そしてあのガーデンパーティーで、奇跡的に彼女と出会うことができたのだ。


 濃紺の目を輝かせて僕の話を聞く彼女は、レディー・ラリサよりも溌剌とした感じだった。ノルデン国で伸び伸びと育ったんだろう。

 レディー・ラリサも幼いころはお転婆だったと聞いている。


 奪われたのなら奪い返せばいい。





「セレーナ嬢、列車ははじめてですか?」

「はい。楽しみにしていました。昨夜は興奮して眠れなかったんです!」

「……そうでしたか。それは何よりです。メリディアナ皇国についてはご存じですか?」

「ええと……小さい頃から言葉は習っていました。祖父母が皇国民なので」

「そうでした、ソアレス侯爵家でしたね。立派な軍人家系だと存じています」

「あちらでは有名なんでしょうか?」

「はい。セレーナ嬢の祖父は十年ほど前まで陸軍大佐でしたから」

「そうなんですか! お母様の祖国へ行くことができて嬉しいです、招待してくださってありがとうございます!」


 素直に喜ぶセレーナ嬢。

 僕よりも濃く青い目に吸い込まれそうだ。


 どうすれば僕たちは幸せを掴めるんだろうか。

☞最後に登場したヒーローその三は、夢を半ば諦めて、婚約破棄事件で傷を負い、後継者のいないボロボロの公爵家を背負っていくという重圧を感じています。ガーデンパーティーで出会った伯父の唯一の娘、公爵家の令嬢になるはずだったセレーナと共に生きていけたらと思っているのかもしれません。

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